第1話 ドS王女様と最高の椅子召喚
わずか半畳しかない所に王女と二人きり。
こんな狭くて何ができる?
そんなお話が始まります。
令和元年12月9日。
誤字や分かりにくいところの修正をしました。
令和2年1月4日。
ケイトの召喚が上級魔法から初級魔法に訂正。
言葉遣い等大幅修正。
この頃はまだキャラや設定が固まっていなかったのですみません。
-第三者視点(王女クリステラ)-
「また壊れましたの?!」
王女クリステラは脚の折れた椅子を蹴飛ばした。
しかし椅子が飛んでいくスペースは無く、曇りガラスのような壁にぶつかるだけだった。
スペースが無いのも当然である。
クリステラの治める領地はたったの半畳しか無いのだから。
この世界はとてつもなく狭い。
国家がせいぜい家一軒の広さしかなく、本当に家と同じ構造をしているのだ。
そしてこのシュガーレイク王国はわずか四畳半の広さしかなく、そこに王と女王と3人の王女が住んでいたのだ。
王と女王は2人で2畳、第1王女と第2王女は1人1畳、そして第3王女のクリステラはわずか半畳に住んでいた。
そしてそれぞれ見えない壁で隔離されている。
その壁は破壊不能で、下は全く視界を通さず、上に行くほどすりガラスのように視界が通るようになる。
2メートルくらいでほぼ視界が通るが、下を見てもなぜか曇って覗き込めないのでプライバシーは確立されている。
そんな半畳しか領地のない王女クリステラは『日用品召喚』の魔法で呼び出した椅子が壊れてしまってご機嫌斜めだった。
「太ってなんかいないわ。椅子が脆いのがいけないのよ。こうなったら、もっと丈夫な椅子を出さないと!」
クリステラは魔法を使う時に利用する魔晶石を異次元箱から取り出した。
異次元箱はアイテムを入れておくことが出来る空間収納で、この世界の必須スキルである。
そして魔晶石は魔力がほとんど無いクリステラが魔法を使う時に必要な魔力供給源であった。
そしていつものように『日用品召喚』の魔法を唱えようとしたが、ふと思った。
「最近椅子が立て続けに壊れているから、また普通の椅子を出しても勿体ないだけですわ」
魔晶石は王から下賜される俸禄そのものである。
このまま使い潰していては無駄でしかない。
「そうだわ。わたくしでしたらもっと上級の魔法も使えるはずですわ。何しろ、わたくしは天才ですもの!オホホホホホ!」
金髪縦ロールの王女様にふさわしい笑い声をあげると、クリステラは異次元箱から魔法の教科書を取り出した。
『翔学生の魔法5上』
と書かれたその本は、クリステラが読むには難しかったが、分からないところは自分のカンで読み切った。
平たく言うと、適当に読んでしまった。
「『上級日用品召喚』!最高の椅子をわたくしの元へ!」
クリステラは魔法を唱えたが何も出てこなかった。
失敗である。
「それなら、『日用品召喚』!とにかく最高の椅子をわたくしに!」
そして…
-主人公ケイト視点-
ここは日本。
とある高校。
そして俺はその教室で四つん這いになっていた。
「へっへー。こいつはいい椅子だな」
俺の上に座っているのは、このクラスのヒエラルキートップに立つデブ。
いや、豚王ことPである。
名前なんか憶えたくもない。
俺の高校生活はこいつのせいで滅茶苦茶になった。
親の会社が倒産し、こいつの親に借金を作った。
それだけだった。
それから半年、俺は我慢の日々を送っていた。
俺さえ辛抱すれば家族は無事でいられる。
家族の幸せの為に俺が泣くだけでいい。
「まったく、お前は最高の椅子だぜ」
こんなブサ男に言われてもうれしくない。
どうせなら、可愛い女の子に座ってもらいたいものだ。
というか、この状況、俺としては悲劇の主人公みたいでよくねえ?
こうやって虐げられていた俺が、あるきっかけで逆襲。
そしてこいつらに目にもの見せてやる。
そんな妄想くらいしか楽しみが無い俺は、足元に光る文字が浮かぶのを見た。
「な、なんだよこれ?!」
豚王Pは俺の上から飛びのいた。
ああ、これはきっとアレだ。
「俺、ちょっと異世界行ってくる」
疲れ果てていた俺は四つん這いのままそう言って、そこから消えた。
-王女クリステラ視点-
魔法を唱えたけど、全然椅子は召喚されないわ。
いつもなら右手から出てくるのに。
待っても待っても出ない。
握っていた魔晶石は消えている。
魔法は発動したが、もし失敗したとしたら大損失ですわ。
ああ、それなら慣れている『上級菓子召喚』の呪文にした方が良かったわ。
がっくりきたわたくしは、がくんと腰を落としましたの。
しかし、そのわたくしをしっかり支えてくれる何かがそこにはありましたわ。
「椅子?!いつの間に?!」
見えなくても感触で分かるわ。
この程よい固さ、幅、高さ、なんてすわり心地。
なぜか背もたれが無いようだけど、この領地の壁が背もたれの代わりになるから問題ないわね。
そうですわ、あとで背もたれ用のクッションでも出しますわよ。
「おほほほほ!わたくしなら初級魔法でもこのとおり最高の椅子を出せますのよ!」
そう笑うわたくしは不意に声を掛けられた。
「あ、あの。君が俺を呼んだのかい?」
誰も居ないはずのこの半畳領地で、しかも男の声で。
―主人公ケイト視点―
俺が空間を飛び越えて出た先は、白っぽい壁に囲われた場所だった。
四つん這いの状況から見て分かるのは、足元の畳と誰かの足が2本。
足?
そしてその足の主は、俺の背中に腰かけてきた。
「!」
つい癖で声を出さないように耐える俺。
苦しそうな声を上げると、豚王Pを喜ばせてしまうからついている癖だ。
「おほほほほ!わたくしなら初級魔法でもこのとおり最高の椅子を出せますのよ!」
そんな声がした。
すると、俺の上に座っているのは、おそらく俺を召喚した誰か。
というか、声からして女の子。
いい匂いするし、やわらかいし、あ、もうすでに天国だこれ。
「あ、あの。君が俺を呼んだのかい?」
そう言って、その体制のまま見上げると、彼女と目が合った。
それは金髪縦ロール青い目のお嬢様。
いや、この高貴な雰囲気は紛れもなく王女様だ。
ティアラも頭についているし。
「いやあああああああああああああ!!!」
-王女クリステラ視点-
何ですの?
この人誰?
男?
椅子じゃないの?
わたくしはどうしてこの人の背中に座っているの?
なんでこんなに座り心地いいの?
じゃなくて、どうなってるの?
「俺はケイトっていうのだけど、君は?いえ、あなた様は?」
その男はわたくしと同い年くらいかしら?
ただ、普通よりも体が大きい気がしますわ。
だいたい、大人の王様でも身長は155センチくらい。
この男は四つん這いだけど、もっと背があるみたいね。
いったい、どこの誰なのかしら?
「ケイトというのですわね。わたくしはこのシュガーレイク王国の第3王女クリステラですわ」
そう名乗りながらわたくしにはわかった。
天才のわたくしは、椅子にもなる下僕を手に入れたのだと。
―主人公ケイト視点―
「つまりこの国は半畳の広さしかないと」
この王国とクリステラの領地についての説明を受けた俺は驚くしかなかった。
なんだよ、この世界。
ほとんど動けないじゃないか。
これで異世界らしいことできるの?
「ところで、立ってもよろしいでしょうか?」
「駄目ですわ」
「どうして?」
「わたくしが疲れているからですわ」
そう言って、クリステラは足を組む。
「一度伸びをしたいのだけど」
「この領地内ではわたくしの命令が絶対ですわ。わたくしが命じたことには逆らえませんのよ。だから、『ずっと椅子のままでいなさい』」
なんだって?!
試しに起き上がろうとしたのに、手を畳から離せない。
こんな狭いところで男女二人きりなのにちっとも警戒していないと思ったら、そんなルールがあったなんて。
でも。
でも。
豚王Pに比べれば、クリステラが座ってくれている感覚はむしろ天国。
軽いし、柔らかいし、いい匂いだし、クリステラは高飛車な感じだけど声は綺麗だし。
顔もちらっと見た限り、すごい可愛かった。
もう少し顔を見たいな。
そう思って、俺は命令に逆らわない範囲で顔をぐっと上に向けた。
さっき俺を覗き込んでいたクリステラは前かがみだった。
今の彼女はまっすぐ座っている。
だから今頃気づいた。
彼女はとても背が低く140cm無いくらい、それなのに
胸が限界突破サイズだということに。
そして、半畳しか領地のないドS王女様の人間椅子として、俺の下僕生活が始まった。
お読みいただきありがとうございました!
短めでも毎日更新目指します。
次回は11月19日火曜日18時更新予定です。