病室にて -メリーさん- -6-
「よし、ここならきっと貰い手が見つかるぞ」
「”小児病棟”か」
僕の友人は、僕が想像してたよりは、【少し】頭を使えるようだった。
確かにここなら ”メリーさん” の貰い手がすぐに見つかりそうだ。
「さあ、誰に渡そうかな……優しそうな子に貰って欲しいけど……」
本条は、そう言いながら右手で手庇をつくり、病棟内の広場で遊ぶ子供達を、視線を右往左往させて、眺めている。
「なんだか誘拐犯に見えるぞ、本条」
「そんなはずないやろ。どう見ても”イケメン高校生が生き別れの弟を探しに来た” みたいな感じやろ」
「全部違うから逆にツッコミづらいな」
「全部にツッコんでくれたら嬉しいけどな、俺は」
「んー、それはちょっとエネルギー使うから、やめとく」
「そやなぁ……地球温暖化とか大変やもんな」
「そういうことは言ってないんだけど……」
そんな馬鹿なことを話してると、目の前で走り回っていた男の子が転んだ。
転んだ男の子は大きな声で泣き始めた。
「本条が変なこと言ってるから、男の子が転んだぞ」
本条は僕の軽口には取り合わず、すぐさま男の子の傍に駆け寄っていった。
本条のこういうところは、異性に好感を持たれると思うのだが、如何せん彼はモテないらしかった。
皆、見る目が無い。
「大丈夫か?怪我してないか?」
本条が優しい口調で男の子に尋ねると、男の子はパッタリと泣き止んで、首を縦に一回振った。
少しすると、若い女の看護師さんが、小走りに現れて、男の子の傍に付いた。
その看護師さんから丁重にお礼を言われて、本条は照れた仕草を見せる。
僕はそれを遠巻きに眺めていた。
「そうだ、少年。良かったらこの人形を貰ってくれないか?」
「いい、いらない」
本条のアプローチは一瞬で断られ、男の子は走り去っていった。
本条は ”あれ、おかしいな” という表情を浮かべて、僕の方に戻ってきた。
「あれ、おかしいな……絶対に貰ってくれる流れやったのに」
「男の子にこの人形は、少し厳しいと思うな。僕は」
「うーん、確かに俺が子供なら絶対に欲しくないもんな、これ」
「遂に言ったな、本条。その台詞を」
よくも、そんなものを僕の病室に置いて帰ろうとしたな と本条を問い詰めようとしたが、病棟内の空気がピリピリと張り詰めるのを感じて、その言葉は胸の内で立ち消えた。
慌ただしく、医師や看護師が廊下を走り抜けていく。
「なんかあったんかな?」
本条が、少し呑気そうな口調で言った。
「そりゃ、何かあったんだろ」
「そっか……」
本条は廊下の先を少しの間見つめた後、僕の方に振り返って笑った。
「よし、取り敢えず手当たり次第、聞いて回ろうや」
僕は、それに小さく頷いてみせた。