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【完結済】年下で後輩の専属メイドに、陰からウザったいほど、からまれてます。  作者: 斎藤ニコ


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第31話 何番目のリオ?

 リオに誘われて室内に入り、5分ほどが経っただろうか。

 部屋に明かりはつけず、しかし見晴らしの良い場所に窓が設えてあるおかげで、月明かりが十分差し込んでいた。


 リオは窓際に立ち、俺は戸を背にしている。

 なぜこの場所に連れてこられたのかさえ判然としないまま、リオの言葉を待った。


 しばらくしてリオはポツポツと語り始めた。


『ここは昔から誰も来なくて静かなんです』

『だから誰かと会うには最適だったんですね』

『昔、わたしもここで男の子と会ったりしました』


 しかしそれらの言葉がなにを示しているのかも分からずに曖昧に頷くしかない。


 リオはふざけた態度など微塵もみせずに、出会った頃のような淡々としたペースで『なにか』を語っていく。


 話の内容がわずかに変化したのは、突然のことだった。


「リイチ様」

「ん?」

「リオは……、二十歳に結婚をするのです」


 一瞬、冗談に聞こえた。


「結婚? って、あの、結婚か?」

「どの結婚をさしているかは分かりませんが、その結婚で間違いないかと」

「そう、なのか」


 一体、どんな反応をすれば良いのかが俺にはまるでわからなかった。

 少しだけ、息苦しさを感じる。

 なぜそんな話題が振られたのかも分からず、リオの気持ちも分からない。

 そもそもなぜ結婚をするのかーーその相手は誰なのか。

 そんなことを聞いてどうなるのか。


 頭のなかが、グルグルと渦巻いてきた。

 次第に、自分がその話題を「不快」に感じていることに気がつくが、それを口にすることは何故かためらわれた。


 リオは、俺になにかを求めることもなく続けた。


「水無家の長女としての、務めのようなものです。責任や責務と言い換えても成り立ちます」

「そういうもんなのか」

「他人事みたいにいいますね」

「いや……」


 他人事だしな――と返そうとして、いいよどむ。

 それは、なぜか言いたくなかった。


 しかし、リオの答えは斜め上をいっていた。


「リイチ様だって、いずれは結婚相手が勝手に決まりますよ」

「え?」

「二十歳ということはないでしょうが、初めて会った相手と子を成すことになるでしょう」

「いや、そんなこと――」


 あるわけないだろ、とは言いきれなかった。

 なにせ鬼炎家だ。

 なにが起きても不思議ではない。

 そしてリオが口にしている事実も、そういった認識の範疇に含まれることなのだろうと悟る。


 思わず聞いてしまったのは、なぜだろう。

 先ほどから俺は何を気にしているのだろう。


「いいのか、リオはそれで」

「おかしなことをいいますね、リイチ様。それはこちらのセリフです」


 リオの語調は静かでいて、強かった。


「リイチ様は、それでよろしいのですか? 鬼炎家の言われるがままに、人生を過ごしていくのですか? そして、いつか死ぬのですか?」

「死ぬって、大袈裟な」

「大袈裟? お父様とお母様は早くにお亡くなりになりました。とても悲しいことですが、事実です」

「それは……」


 俺は無意識のうちに考えないようにしていたのだろうか。

 人はいつか死ぬ。

 人はいつか別れる。

 リオだって、いつか俺の目の前から居なくなるのだという事実。


「リイチ様は、なにも思い出してはくれないのですね」

「思い出す?」

「リイチ様――」


 いつもと同じように俺の名を呼んだリオの声には、しかしいつもとは違う何かを確実に秘めていた。


「リイチ様は、わたしを連れだしてはくれないのですか……?」


 リオの表情は変わらない。だが、その言葉は濡れている――そんな気がした。

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