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第1話 その日、メイドの本性はみえた。

 突然だが、俺には専属メイドがついている。


 これまでの人生経験上、しばらくは一人でそっと生活をしていたかった。

 だが金持ち一族に『拾っていただいた』からには、ルールに従わなければならない。


 そのメイドは俺より一つ年下の17才。高校二年生だ。

 高校三年の俺としては、たった一才違いの女の子に身辺の世話をしてもらうだけでも抵抗があるし、ましてやそいつが同じ高校に通っているならば尚更、嫌だ。

 が、ルールには従わなければならない。


 それにしても、このメイド。

 ひとつ問題があった。


 当初こそ、感情をいっさいのせない表情と声音で、


理一(りいち)様、紅茶でございます。お熱いのでお気を付けて」


 とか、


「理一様。ボタンが取りかかっておりますね。私がおつけいたします」


 とか、


「お風邪、おつらいでしょう。いま、お体をお拭きいたします」


 といったように、メイドとしては完璧な性能を全面に押し出していた。


 まるでSFにでてくるアンドロイドのように的確で無表情で冷徹なその対応に、感心しつつも、かなり怖じ気づいていた俺である。

 高校生で、これかよ。プロってすげえな……と。


 そんな印象もわざわいして、俺はまるで懺悔をするように、これまで貯めてきた陰鬱な感情を吐き出した。


 そんなときいつも、彼女は「それはたいへんでしたね」とか「これからはもう平気です」とか声をかけてくれたものだ。



 だが今思えば――こいつの本心は言葉のかげに隠れていたのだ。



 あれは俺が風邪をひいた時のことだ。


 母が死んだ後にはりつめていた気持ちの糸がぷつんと切れたように高熱が出た俺は、うなされて意識が朦朧とするなかでも、そいつに助けられたことをよく覚えていた。


 汗で濡れた衣服をこまめに変えてくれたし、かいがいしく冷やしたタオルを頭にあててもくれた。

 深夜まで手を握ってもくれた。


 熱が下がった翌日。

 ベッド脇にたたずむメイドに向かって俺は言った。


「昨日はありがとう――本当に助かったよ」


 そしたら、あいつ、なんて言ったと思う?


 いつもであればまったく動かない表情筋を大きく動かし、一見するとお嬢様にもみえる整った顔立ちを、ニヤリ、と歪ませて、こう言ったのだ。


「理一様って、目付きがとーっても悪いですけど、案外、かわいいところも、あるんですねえ」


「……え?」


「昨日は私の手を握って、ずーーーっと『かあさん、かあさん』って言ってましたよ? 寂しかったんですか? でも年下の手をお母さんなんて、理一様もアレですね。あ、でも安心してください。おっぱい飲みたいとかは言ってませんでしたから」


「……は?」


「いえいえ、悪くないと思いますよ。ただちょーーーっと、意外っていうか。お金持ちになったっていうのに、ネガティブなんですね? もっと前向きなのかとおもってましたけど、でもまあ、それぐらいが丁度いいのかもしれません。もっとそういうところ、見せてくれてもいいですからね。もちろん私だけに、ですけど」


 その時、ドアが開き、別の使用人が俺の様子を見に来た。

 使用人は俺の熱がさがったことを喜んでいたが、俺としては冷えすぎた背筋をどうにかしたいぐらいだった。


 使用人の背後にひかえる無表情なメイドが――俺をみて、くすり、と笑う。それはどうみても、からかうような笑みだ。


 そうなのだ。

 理由はわからないが、こいつは、虎視眈々と俺の弱味を握るタイミングを狙っていたのだ。


 俺はそんなことにも気がつかず半年もの間、こいつに色々な醜態をさらけ出してしまったのだ。


「理一様。まだお体がすぐれないでしょうから、お着替えをお手伝いいたします」


 な、なんだ、この二重人格。

 さっきまでの人を舐めたような下からとみせかけて上から姿勢のあの人格はなんだ!?


 使用人が退出。

 メイドが退出、する前に俺の耳元でささやいた。


「では、これで失礼いたします」


 ふりふりされるスマホ。

 その画面には、熱でぐったりとしている俺が、メイドに衣服を着替えさせてもらっている隠し撮り写真。

 下半身に手を伸ばすメイドの姿は、見かたによっては、なにかをする前のあれにも見える。


「な――」

「ふふ。あわてることないのに。だってこれ、ただの着替えなんですから」


 これは一つ年下で、高校の後輩で、俺の専属メイドで、そしてなにかとウザったいことばかりしてくる女――水無リオの話である。


「これからも変わらずにお願いしますね――せ・ん・ぱ・い」

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