第6話 面会時間
「んー!んー!」
紗愛花は俺の口の中に舌を入れる。ディープキスだったっけ。いつもの俺ならとても嬉しがったのだが、痛くてよくわからない。取り敢えず彼女を俺から離そうとする。しかし、全然離れない。紗愛花は俺をとても強い力で抱きしめている。痛い痛い!
俺は頑張って紗愛花を押して、なんとか紗愛花を離すことが出来た。
「なんで?なんで私を離すの?」
「ハァ、ハァ、だって腕痛いから」
「あっ!…ごめん」
「いいよ、もう大丈夫だから」
「でも!!」
「良いって良いって」
俺は彼女をなだめながら送られてきたメールを見る。それには
『紗愛花、いわゆるヤンデレってやつだから気をつけて』
とあった。俺はそのメールを読んだ瞬間、紗愛花の方を見る。確かにおかしい。入院中の俺に唐突に抱きついてディープキスするなんて、頭の良い紗愛花がそんなことするとは思えない。そして何より今の紗愛花は挙動不審のようだ。何があったんだ?
「紗愛花」
「はい!」
「お前がキスする前に言ってた「ごめん」ってどういうことだ?」
「それは、私のせいで事故にあったんだと思いまして」
「?詳しく説明してくれ」
どうやら紗愛花は俺が謝るために校門で待っていたために、事故に首を突っ込んだんだと思っているらしい。…多分どちらにせよ校門で紗愛花を待っていたと思うんだが。考えると首を突っ込んだ俺が悪いような気がしてならない。
「大丈夫だよ。事故にあったのは紗愛花のせいじゃない」
「でも!でも!」
彼女の目はとても不安そうだ。どうすれば元に戻ってくれるんだ?
「ん?ちょっと待ってくれ、まさかこの為だけに学校休んだんじゃないだろうな」
「う、うん。仮病使って帰宅したけど」
えええ!?そこまでしてすることだったのか!?そうなると安直な答えじゃダメな気がする。うーん、どうしよう。俺は腐るほど良い頭を使って考える。しかし、良い答えが思い付かない。
「どうしたの?」
「あ、いや、なんでもないよ」
「やっぱり…私のせいなのかな」
「違う違う!あれは俺が首を突っ込んだからだから、紗愛花のせいじゃないって!」
「…ほんと?」
無邪気な子供みたいに首を傾げる。かわいいな。なんでこんなタイミングでかわいいと思ってしまうんだ。
「う、うん」
「本当に零助君が首を突っ込んだからなの?」
「そうだよ。そこに紗愛花は関係ないさ」
「良かったぁ。私のせいだったら零助君に嫌われると思って、つい来ちゃったの」
つい来ちゃったのレベルを超えている気がするんだが。でも、紗愛花にとってはそれほど大事だったんだろう。
「大丈夫だよ。それくらいで紗愛花を嫌いにはならないさ。むしろずっと愛してるから。なんてな。ハハハ」
俺はその場しのぎに冗談を言ってみた。すると彼女は頬を赤らめ、顔を隠した。そんな面白くなかったかな。
「真都さん、検診で…お邪魔ですかね?」
「あっ、大丈夫です」
「顔赤いですけど大丈夫ですか?熱とかありませんか?」
紗愛花は首を横にふる。そして走って部屋から出ていった。
「あらら、本当に大丈夫でしょうか」
「多分、大丈夫ですけど…また後で聞いときます」
「はい、検診始めます」
ちょっと悪化してた。さっき抱きつかれた時のやつかな?それとも朝の奮闘かな?取り敢えず看護師さんには「ちょっと打ってしまいました」と言っておいた。ほどなくして看護師さんが出ていった。そして一分ぐらいで紗愛花が入ってきた。
「ごめんね、走って出てっちゃって」
「ああ大丈夫だ。そろそろ家に戻らないとダメじゃないか?」
「いやだ!零助君と一緒にいたい!」
「わがままだなぁ。まあいいか、話し相手ができたし」
俺は時間を忘れ、紗愛花と話していた。楽しい。この上なく楽しい。途中で見える紗愛花の笑顔がかわいい。ずっとこうしていたいなぁ。
「私、退院までずっと来るよ」
「学校休んで?」
「うん!」
「次のテスト大丈夫か?授業で言った事とか出てくるんだぞ?」
「それは零助君もでしょ」
「それもそうだな」
そうやって話していると、時間が来てしまった。紗愛花が出て行って一人になる。次は13時からか。気長に待たないとな。少し経つと昼食が来た。やっぱり美味しくはない。30分ぐらいで食べ終わり、看護師さんが用意を片付けてくれる。面会時間まで、玲太とメールのやり取りをしていた。
『早く戻ってこいよ?こっちも1人で昼飯食ってんだから』
『嘘つけ絶対男子5人ぐらいで食べてるだろ』
『残念3人でしたぁー』
『くっそw』
『そういや、そっちに紗愛花さん来てるか?』
『ん、ああ来てるが、まだ面会時間にならないから外で昼飯食って待ってくれてる』
『そうか』
『どうしたんだ?』
『いやいや、何でもないさ。それより波味涼介ってやつがめっちゃ面白いんだよ』
俺は違和感を感じたものの、特に気にせず、メールを続けた。
そしてメールを続けていると
「ただいま」
「おかえり」
「ふふふ、何か夫婦みたい」
「ただいま、おかえりのくだりをやるとそう感じるな」
「携帯触ってたけど、何してたの?」
「ああ、玲太とメールをしてたんだ。玲太ってあいつな?壁を降りてきたやつ」
「うん。覚えてるよ。零助君に難あるって言ってた人でしょ?」
「そんなの言ってたっけ」
「言ってたよ」
「ハハハ、覚えてねぇや」
「親友なんでしょ?覚えときなよ」
「それもそうだな」
少し沈黙が続いた。そしてその沈黙を破ったのは紗愛花だった。
「零助君、あのね?」
「うん、なんだ?」
「私、言わなきゃいけないことあるの」
「何の話だ?」
「私の過去の話」
そう言った紗愛花は自分の過去を話し始めた。
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