第4話 病院での目覚め
「零助君!零助君!!」
なんで!なんで!なんで!なんでこんな老いぼれ一人助けるために、零助君が倒れなきゃいけないの!
「さ、紗愛花?大丈夫?」
「華樹ちゃん!私はどうでもいいから警察と救急車!!」
「あっ、うん!」
私は零助君に声をかける。
「零助君!零助君!」
けれど私の声に反応してくれない。
「す、すみません。この事故、私の運転の不注意から起きてしまっ―」
「あんたが!あんたがちゃんと注意していれば!こんなことには!」
そう言って私は運転手の胸ぐらを掴む。
「はい、はい、よろしくお願いします。っと、って紗愛花!何してんの!」
華樹ちゃんが私を運転手から引き離す。
「紗愛花!落ち着け!」
「う、うん。ごめん」
そんなとき、事故の音を聞いて先生達が駆けつけて来た。
「なんだこれは!」
「今すぐ救急車を!」
「警察と一緒に呼びました。先生達はこの後の処理をお願いします」
「わ、わかった」
「華樹ちゃん…」
「大丈夫だよ。きっと、助けてくれるよ」
「そう信じよう」と華樹ちゃんは言う。そう、私たちではどうしようもない。だから、今は待とう。零助君が起き上がるその時まで。
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ん?ここ、どこだ?何か騒いでるな。俺は死ななかったのか。良かった。これで紗愛花さんに謝れる。体を起こ…せないな。指は動く。口は、
「あ゛、あ、あいうえお。大丈夫そうだな」
「零助君!零助君!」
ん?その声は、紗愛花さん?なんで抱きついてきてるんだ?痛いんだけど。
「紗愛花さん、取り敢えず落ち着いてください」
「零助、いつの間にこんな可愛い彼女作ってるんだい?」
「母さん!?仕事は?!」
「休ませてくれたよ。特別にね」
まあ、そうか。息子が事故にあったんだもんな。
「零助君…だったかい?本当にすまないことをした」
そうスーツを着た男性達が頭を下げる。
「君を轢いたトラックは我が会社、春先運輸のトラックなのだ。知らないとと思うがな」
「知っていますとも。関東の方では中々大きい運輸会社のことだろ。それで、その春先運輸のトラックに俺は轢かれたと」
「本当に申し訳ございませんでした!」
と、少し大きめの男性が更に頭を下げる。
「あなたが運転手ですか?」
「はい、本当にすまないことをしたと反省しております」
「こちらは治療費と慰謝料あわせて、150万程度渡すつもりです」
「んー…じゃあ治療費と、慰謝料の半分貰えますか?残りはその男性にあげてください」
「は、はぁ?」
「零助、あんた何言ってるんだ?」
「そんな大金貰えないし、正直治療費だけでいいから」
「それは!」
「慰謝料貰っていただかないと面目が立たない、だろ?だから半分貰ってあとはその人にあげるんだよ。その人、春先運輸から退職させられたら職が無くなるでしょ?」
「ま、まあ。これを本職としていましたので」
「それで次の仕事が決まるまで、そのお金で生活してもらえたらなぁと思いまして」
「零助君何言ってるの?この人、零助君を轢いた人なんだよ?なんで助けようとするの?」
「さあ?何でだろうね」
そう言って俺は目を閉じる。耳からは感謝の言葉が聞こえるが、聞こえないふりをする。そんなもの、聞きたくないからな。
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凄いなぁ。相手のこともよく理解して、自分の交渉に持っていく。さすが天才だね。
「ねぇねぇ、どっちが告白したの?」
零助君のお母さん。とってもきれいだ。
「えーっと、零助君です」
「キャー、あの子やるわね。どんな感じで告白したの?」
そんな感じで会話は弾む。凄くいい人だ。この人とは仲良くなれそうだなぁ。そんなことを思っていると
「あの子のこと、どう思ってるの?」
「それは、大好きな彼氏です」
「そう、じゃあちゃんと一緒にいてあげてね」
そう言うと椅子から立ちあがり、鞄を持って部屋から出ようとしている。
「どこ行くんですか?」
「仕事だけど」
「あれ?休みって」
「あれはあの子を心配させないための嘘。ちょっと休ませてもらっただけだから、そろそろ行かないと」
「そうですか」
「また会った時は話し相手になってね。それじゃあ」
そう言って部屋から出て行った。
いい人だった。あんな人が零助君の親なんだね。良い親だなぁ。私の親もそうだったら良かったのに。
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目が覚めるて、真っ先に写ったのは窓の外の景色だった。外の景色は、建物の明かりと真っ黒な空、そしてきれいに光る月だった。
「んっ、ふぁぁぁあ。って伸び、できないんだよなぁ」
「あっ、起きた?」
「紗愛花さんまだいるんだ」
「あの、紗愛花さんって言うのやめてほしいんだけど。何か別の呼び方ない?ちょっと堅苦しいのよね」
「そうですか?んー…無難に紗愛花って呼んでいいですか?」
「それがいい!」
「それで、俺の状態わかります?」
「うん。右腕と右足と肋骨の骨折と、軽い脳震盪を起こしたんだってさだってさ」
「手術は?」
「もうし終わったって」
「そうか、じゃあ早くて3週間で戻れるな」
「うん」
「あの、事故にあってから何日経った?」
「1日も経ってないよ。今午後9時だよ?」
「それじゃまだ大丈夫だな」
「何が?」
「あの…盗み聞きしてごめん!」
「うん、もう良いよ。私こそごめん。いきなりビンタなんかして」
「俺が悪かったんだ。それぐらいで済むなら安いもんだよ」
「それで、どこまで聞いたの?」
どこまでって、言ってもそんなに聞いてないんだが。俺は盗み聞きした内容を話した。
「なんだ、肝心な部分は聞いてないんだね」
「肝心な部分がどこかわからないが、たぶん聞いてない」
「そっか、ならいいや」
「そろそろ面会時間終わりですけど」
「はい、わかりました。すぐ出ます。じゃあね零助君」
そう言って彼女は部屋を出て行った。はぁ、話す人が居なくなった。暇だなぁ。暇なときは寝るのが一番だし、寝よう。そう思い、俺は瞼を閉じた。
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「良かった。私の話、聞かれてなくて」
あの話を聞いたら、零助君はきっと私を捨てるだろうから。そんなのは嫌だ。私は変わったんだもん。
「こんばんわ、紗愛花さん」
「えっと君は」
「零助の大親友です」
「玲太君だね。君もお見舞い?だったら面会時間終わったよ?」
「いえ、僕が会いに来たのは紗愛花さん、あなたですよ」
「?何か用事があるんですか?」
「あなたの過去を調べさせてもらいました」
「えっ」
なんでバレてるの!?
「どうして調べたの?」
「気になったので。会いに来た理由はその事なのですが、零助にあなたの過去を喋っても大丈夫ですよ」
「な、なんで?」
「零助のあなたを思う気持ちははそんなもんじゃびくともしません。震度1も起きませんよ。大親友の俺が言うんです。間違いありません。それでは頑張ってください」
そう言って彼は帰っていく。
「本当に…喋って良いのかな?」
零助君が私を捨てないと言うなら、喋っても良いのかな。彼の言葉を信じようか迷いながら、私は帰路に就いた。