第3話 俺の見る夢、そして
俺は作った飯を食い、テレビを見て、ベットにまたダイブして、午後9時頃に就寝した。いつも起きるのは午前6時頃。9時間寝て、さらに学校でも大体2時間ぐらい寝る。何故そんなに寝れるのかは知らないが、寝ると気分がいい。理由は夢を見れるからだ。夢は現実ではあり得ないこと、すなわち俺の知らない謎めいたものを見れるので、俺は夢が好きだ。今日もまた、俺の知らないことが見られる。
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「ねぇ、私だけを愛してくれるんだよね?」
この声は、紗愛花さん?
「私だけを愛してくれるって言ったよね?」
何だ?こんな暗い感じの紗愛花さん見たことない。ん?その手に持っているのは、包丁?何でそんなものを俺に向けているんだ?
「あなたが私を愛してくれない、そんなの嫌なの。だから…死んで?」
グサッ、彼女は俺の腹部に包丁を突き刺してくる。痛くない。夢だから痛覚は無いのか。こんな夢初めてだな。いつもは誰かと誰かが喋っていて、俺は傍観するだけなのにな。
「死んで!死んで!死んで!死んで………お願い、死んでよぉ」
彼女は涙を流す。その姿が悲しくて…可哀想で…見ている俺が悲しくなってくる。だから俺は彼女を抱きしめ、
「大丈夫だよ。俺は君しか愛さない。これからも、ずっと」
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「ぷはぁ!はぁ、はぁ」
何だ?何故か心がズキズキする。…目覚めが悪いな。今は…3時か。いつもはアラームなんかセットしないんだが、こんな時間に二度寝するんだから寝坊しないようにしないと。
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おっ、今度はいつもと同じみたいだ。ここは…遊園地?居るのは誰だ?見たことがあるような男女のペアだ。夢のよくあるパターンだな。誰かよくわからなくなる。
「あのさ」
「言わなくてもわかるよ。あんた、私に告白するんでしょ?」
「な、何でわかる!?」
「あんたの表情とか行動とか見たら大体わかるよ。あんたがやってるのと同じようにね」
そう言って女子は男子の顔を寄せ、キスをする。
「な、何すんだよ!」
「良いわよ。付き合ってあげる」
「くぅ、上から目線が凄いぃ」
そんな会話をして、笑顔を絶やさずカップルは歩いて行く。…手をつなぎながら。
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いい夢だった。目覚めが良い。さて、今は…へ?7時30分?ヤバイ!ヤバイ!遅刻だ!気持ちいい夢見て寝過ごした!昼飯作ってる時間ねぇ!俺は15分で朝飯、着替え、用意を終えて、家を出た。
「どうしたの?大丈夫?」
「?!紗愛花さん?!何でここに?」
「零助君と一緒に登校したかったからじゃダメ?」
「い、良いけど。取り敢えず、息を整えさせて?」
深呼吸を10回程度して、俺は息を整えた。
「ふぅ~。それじゃあ行こうか」
「もちろん手をつないでね?」
「良いの?付き合ってるのバレても」
「別に良いよ」
凄いことに登校中誰にも会わなかった。俺たちは自分達のクラスに入り、俺は用意をし終わると、SHRが始まった。
「お前ら~テスト終わったからってはしゃぎすぎるなよ」
そんなめんどくさそうな先生の挨拶でSHRは終わる。
「零助、行ってら~」
「ああ、行ってくる」
日常茶飯事だ。面白くない授業が朝から続く時、玲太はいつも俺に「行ってら~」と言う。クラスの人も動じなくなってきた。俺はドアを開けて、中庭の木に行こうとすると、紗愛花さんに出会った。
「零助君、どこ行くの?」
「ん、睡眠をとりに中庭までな」
「そう、行ってらっしゃい」
「ああ、行ってきます」
俺は階段を降り、中庭の木に登った。いつも通りだ。チャイムが鳴り、俺は睡眠をとる…のだが、二度寝してしまったせいか中々寝付けない。そんなとき、廊下を歩いている紗愛花さんを見つけた。そういえば考えたことがなかったのだが、何で紗愛花さんは授業が始まってるのに廊下を歩いているんだ?俺は紗愛花さんの行く先を観察していた。すると、ある部屋に入って行った。五階の…生徒相談室だ。何故だ?問題が起きるようなことは彼女はしないと思うのだが。一応行ってみるか。
俺は生徒相談室の話を聞いてみようと、抜き足で階段を登り、生徒相談室へ行った(良い子は真似しちゃダメだぞ。俺は…彼女だから大丈夫だろ)。俺は生徒相談室の扉に耳を当て、話を聞いてみた。
「ほう、それでまたあんなことをしてしまうかもしれないと」
「はい、それが不安で不安で仕方ないんです」
「私も女だから恋焦がれる女子高生のことはわかってるつもりだけど、彼氏に依存してしまうと彼氏にもあなたにも負担がかかるんだから、あなたが精神的に成長しないといけないよ?」
「はい」
「彼氏さんのこと、好きなんだよね?」
「はい!」
「だったら依存しないよう成長しなさい。それが最善策だよ」
これ、生徒相談というよりは恋愛相談の方が合ってないか?そんなことを考えていると
「そこで何をしている!」
「!?」
「そこで何をしていると聞いている!」
「いやあのぉ」
まずいな、よりによって生徒指導の神立先生だ。ここで怒られると中に聞こえて彼女が出てきてしまう。
「何だ?何かあったんですか先生?」
まずい!まずい!!まずい!!!
「いやですね蒼波先生、この生徒が生徒相談室の話を盗み聞きしていたんですよ!」
「……………零助君?」
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!
「何だ?知り合いか?」
「零助君、ここで何してたの?」
「いや、あの、ほら、えーっと…すまん!話を盗み聞きしてた」
「どこまで…聞いたの?」
「と、途中から」
すると俺の左頬に右手が伸びていた。そしてバチン!と手が俺の頬に直撃した。
「サイテー!」
そう言った顔には涙が溢れており、とても悲しそうな顔をしていた。そして彼女は走って階段を降りていった。
「うわぁ、痛そうだなぁ」
「零助君…だっけ?あなた、紗愛花さんの彼氏でしょ」
「………はい」
「だったら、自分の女を泣かせるようなこと、するんじゃないよ」
「蒼波先生、この子の処罰は私が決め―」
「その子、何も罰しなくても良いですよ」
「な、何故!?」
「まあ、情けってやつですよ」
「…ちっ、二度とやるなよ!」
そう言って先生達は階段を降りて行く。俺は先生達が降りたのがわかると中庭に向かった。頬がとても痛かった。そして心はそれ以上に痛かった。心臓が握られているのかと思うぐらい痛かった。木に登り、ずっと考え込んでいた。
俺は面白い先生の授業も受けなかった。ずっと、ずっと考え込んでいた。昼になっても考えていた。今日は昼飯を作らなくて良かったと思う。喉を通らないだろうからな。昼も終わり、最後の授業が終わった頃、教室に向かい、用意を持って部活に行った。そこでも、ずっと考えていた。そんなとき、
「どうした?らしくねぇぞ?」
「玲太か、何だ?」
「謝るときは、ちゃんと謝れ。それぐらいしか言えねぇぞ?」
そう言って玲太は部活に戻った。謝るときは謝るか、そうしないとな。俺は考えるのをやめ、部活に専念した。
そして部活が終わり、俺は荷物を持ってさっさと校門で待っていた。紗愛花さんが来るのを待っている。
「頑張れよ!」
と玲太は声援をかけながら帰って行く。俺はその声援で元気を出していた。
そんなとき、校門近くにある交差点が目に入った。そこには横断歩道を赤信号なのに渡っているおばあさんがいた。そのとき、俺は奥から結構なスピードでトラックが来ているのが見えてしまった。俺は反射的に荷物を手放し、交差点に走って向かった。間に合うかわからない。けどやらないとおばあさんが死んでしまう!そう思って余計に早く走った。そして、「プーー!」とトラックがクラクションを鳴らし始めたが、止まれそうにない。俺は飛びこんで、轢かれるギリギリでおばあさんを押し飛ばして助けることができた。しかし、代わりに俺が轢かれた。
「キャーーーー!!!」
と女子の高い声が聞こえる。この声、紗愛花さんじゃないかな。あーあ、今日中に…謝れ…なかった……な…………。