第29話 安眠探す零助君
俺に向かって突きだしてきた拳を掴む。その女子はもう1つの拳で殴ろうとするもそれも掴まれる。
「おい!」
「「わかってるよ!」」
二人が両手を塞がれた俺に後ろから殴りかかる。しかし、俺は後ろ回し蹴りで二人ともをダウンさせる。
「な!?」
「知ってるか?人間の得られる情報の80%が視覚によるものなんだぜ?それを遮断して寝ていたのにお前らは起こしやがった。すなわちそれは残りの20%の中の聴覚の部分のみで起こすぐらいの情報量を俺の頭に送り込んだんだ」
「だ、だから?」
「俺の安眠を奪った罰を受けてくれるよな?受けてくれるか、ありがとう」
「何も言ってな―」
女子の手を掴んでいた両手に力を込める。
「い、痛い痛い痛い!」
「こんなもんか」
痛みに悶える女子の顔を見て、俺は手を離す。はぁ、これくらいやっときゃもうやらないだろ。ああ、頭がガンガンする。さ、さっさと寝よ。元居た木に登り、睡眠をとる。やっぱり睡眠をする時間が一番気持ちいいんだよな。そういや、さっき囲まれてた女子、どっかで見たことあるような…。
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「零助君?昼ご飯食べないの?」
「…食べる!」
もうそんな時間かと思いながら俺は木から降りる。まだ少し体がだるく、頭痛がする。
「あれ?玲太は?」
「弁当忘れたから、食堂行ってくる。一人で勉強もしたいし、二人で食べときなよだって」
「ちゃんと勉強してんだな、あいつ」
まあ勉強してない方がおかしいのか。
「そんなことよりどこで食べる?」
「うーん。今から屋上行っても時間が無くなりそうだし、ここで食べるか」
「ここで食べて良いの?」
「良いだろ。生徒手帳の規則のところに載ってないし」
そう言って内ポケットに入れてる生徒手帳を開き、規則の部分を速読する。うーん、やっぱ載ってないな。
「載ってないから大丈夫だろ」
「呼ばれたら飛び出てきまーす。玲太でーす」
「呼んでない」
「はーい」
帰っていった。なにあいつ、いきなり出てきてすぐ帰っていきやがった。勉強しろや。
「さ、食べよっか」
「玲太には触れないんだな。よし、じゃあ食べるか」
紗愛花の作った弁当を開き、箸を使って食べる。
「授業内容はどうだ?理解してるか?」
「うん。なんとかね」
「よし。今日の復習はなんとか楽に済ませることができるな」
「あ、でも次甘難先生の授業だからとんでもない内容出てくるかも」
「あの先生か。前の時も前日にとんでもない内容入れてきて生徒全員困惑したって先生だよな」
「零助を除くだけどね。あ、ご飯粒付いてるよ」
俺の口の周りに付いていたご飯粒を取り、紗愛花は自分の口に入れる。
「ありがとな」
「うん、どういたしまして」
そう言う紗愛花はニコニコしている。
「甘難先生って英語だよな?」
「そうだよ。しかもあの先生フランス語、日本語、韓国語、中国語教えれるらしいよ」
「マジかよ。ヤバイな」
「零助君なら知ってると思ってたんだけど」
「知らなかった。外国語か。また今度調べるか」
「あ、また零助君の知識が増える」
「まあ、フランス語と中国語とあと何個か言語は知ってるんだけど」
そう言い、ご飯を頬張る。外国語学ぼうと思った時期が昔有ったけど、時間かかりすぎてやめちゃったんだよな。テスト終わったら久々にやるか。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
「んじゃ、授業頑張れ。ふぁああ」
「うん。零助君、おやすみ」
弁当を紗愛花に渡して俺は木に登り、寝る。今度はさっきみたいなので起こされないように耳栓しよう。何でいつもつけないのかって?そりゃ、起きれねぇからだよ。視覚と聴覚をほぼ遮断するんだから起きれないんだ。その代わり安眠を手に入れることが出来る。今日はしゃーない。寝不足の症状が明日まで続くとテストを最後まで解いてないのに寝るという馬鹿げたことになる。数時間の安眠でそれを防げるなら安い代償だよ。
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夢だな。名前忘れた有名人と外国人が握手してる。誰だっけこれ。二人とも見たことあるんだけど、名前が思い出せねぇ。誰だっけ。まあ良いや。このおっさんども、カメラに向かって握手して笑顔を作ってる。何してんだろ。この夢しょーもないな。なんか会議してるだけだし。会議終わったらなんかカメラの方に向かってなんか喋ってる。夢の中も退屈ってどういうことだよ。あー、テレビのチャンネルみたいに変わらないのかなぁ。
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「おおう!?」
「………」
木から落ちた俺を玲太は受け止める。ってことは落ちたんじゃなくて落とされたんだな。
「……………」
やべ、なんも聞こえねぇ。急いで耳栓を外す。
「ああ、大丈夫よ紗愛花さん。これぐらい日常茶飯事だからな」
「…降ろしてくれないかな」
俺は玲太にお姫様抱っこされていたので感謝の前にそれが口から出る。
「おう」
玲太は俺を立たせる。まあこれは玲太にとっちゃ日常茶飯事か。1回目の定期テストまではこの方法の安眠ばっかしてて玲太に落とされてたからな。
「ありがとな玲太」
「ああ、あと鞄」
俺のと思われる鞄を俺に投げる。全然離れてなかったからすぐに俺の体に当たる。落とすギリギリで鞄の紐を掴む。
「何でこの距離で投げる!?」
「なんとなく?」
「あぶねえよ」
「お前ならとれると思ったから」
「期待してくれるのはありがたいけど、なんとも言えないな」
俺は鞄を肩にかける。
「にしてもすまんな。帰って勉強したかっただろ?」
「いや、大体終わったし、あとは少しの復習だけだから大丈夫よ。しかもこれできるの生徒の中では多分俺だけだろ」
「まあ、そうなんだけど」
そう言いながら俺たちは歩きだす。
「そう言うお前は大丈夫なのか?」
「俺か?まあ教えてる限りは解けそうだけど」
「ちゃんとしろよ?満点の一位から落ちると先生達から何言われるかわからないからな」
「そう、だな。まあ人に教えるということは勉強にならないわけではない。復習ができる」
「凄いんだよ?零助君の出す問題。ちゃんと復習ができるし、内容も先生の出す問題よりも難しくなってるから解くだけで勉強になるんだ」
「へえ、俺も解いてみたいぜ」
ちょっと恥ずかしくなる。自分の作った問題を褒められるとな。さて、今日の勉強はどうするかな。俺は歩きながら考えた。明日はテストだ。今までの勉強がちゃんと実を結ぶようにしないとな。
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