第15話 格闘
「ハァハァハァ、ここか」
息を切らして林崎の家にたどり着く。最近久々にすることが多い。今回もそうだ。息を切らすなんて何年ぶりだろう。
「ピンポーン」
インターホンを押してみた。案の定林崎は出た。
「入れよ。開いてるからな」
「そうか。ならそうさせてもらおう」
俺は扉を開け、家に入っていった。中はきれいだった。俺は中を観察していると
「階段の下に物置きがあるだろ?そこに入って本棚の右斜め上の本を引いてみろ」
と言われる。言われた通りにしてみると本棚が横に動き、階段が現れた。…ハイテクだな。今度作ろうかな。そんなのんきなことを考えながら俺は階段を降りる。暗いな。手すりがなきゃこけるかも。
「よく来たな。警察は呼ばなかったのか?」
「警察呼んでお前が興奮して紗愛花と無理心中でも図ったらどうするんだよ」
「そんなことしないってーの」
「少しでも可能性はあるだろ?その可能性は捨てきれないんでな」
「かっこいいねぇ」
「…さっさと紗愛花を返してくれないか?」
「ああ、紗愛花さんならそこにいるぞ」
ガシャン!と明かりがつくと、部屋の奥に紗愛花が拘束されていた。目は開いている。起きてるみたいだ。
「紗愛花!」
俺は紗愛花の方に駆け寄ろうとする。けれど林崎に遮られる。
「紗愛花さんを返して欲しいだろ?なら俺と勝負しろ」
「はい?」
「まあ話を聞け。俺が負ければ紗愛花さんを返して誘拐やらの色んな罪で警察に出頭するさ。けれどお前が負ければこの件から手を引いてもらう」
「ほう。勝負内容は?」
「零助君!そいつの話に乗らないで!」
「大丈夫だよ。俺は負けない」
「内容は格闘だ。相手が気絶するまで戦闘する。簡単なルールだろう?」
「でもお前はスタンガンとかを使うじゃないか。すぐに試合が終わっちまう。フェアじゃないだろ」
「それに関しちゃ俺は道具を使わないさ。お前の頭ならなんでこんなことするかわかってるんだろう?」
「ああ、まあな。だったらこの勝負で道具を使っちゃいけない。ちゃんとフェアな勝負でお前は勝たないと意味がない」
「な、なんで?」
「言うなよ?」
「仕方ないな。いつ始めるんだ?」
「俺の携帯のストップウォッチで10秒数える。ブザーがなったら開始だ」
コトッと地面に携帯を置く。見るとストップウォッチの画面にしてある。
「準備はいいか?」
「もちろん」
置いた携帯のボタンを押し、カウントダウンが始まる。10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…0!
ブザーが鳴ると同時に林崎が先に仕掛けて来た。殴りかかってきた。その拳からは尋常じゃないほど殺気が籠っている。俺は瞬時に避け、攻撃に転じようとした。しかし、二擊目への動きが早く避けるしかできなかった。
「零助君!頑張って!」
「負けるわけにはいかねぇんだなぁ!」
――――――――――――――――――
あんな台詞を言ったものの、俺は逃げることしかできずにいた。くそっ、早すぎる。鍛練されていて隙がないので迂闊に反撃ができない。
「どうした?逃げるばっかじゃねぇの?」
「ちっ!」
俺はあいつの癖を探していた。しかし、やはり見つからない。
「俺の癖でも探してるのか?癖を探しているのなら無駄だぜ。俺はそれをなくすように完璧に鍛練していたんでな」
「くそっ、こっちの状況はバレバレなのか」
仕方ない、やるしかないか。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ」
俺は拳を振りかざし、林崎に向かっていった。
「血迷ったのか?それじゃあその拳を止めてやるとしよう」
林崎は止まって右腕を出して俺の拳を止めるように構えた。
「…なんてな」
「何!?」
俺は林崎の手が動く暇を与えないほどの速度で腕を掴み後ろに回して拘束した。ついでにもう片方の腕も掴み同じ状況にする。
「くっ、お前!」
「すまないな。一本外させてもらう」
ゴキッ
「ぐあぁぁぁぁぁ!!!」
苦しみ悶え始めた林崎を掴んでいることができなかった俺は林崎を離す。
「があぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「俺も経験があるのだが、それはとてつもなく痛い。その痛みで気絶してくれれば良いんだが」
「くそっ!こんなので…負けれるか!」
ゴキュ!っと林崎は外れた肩を入れた。
「まあそうでしょうねぇ。くそっ、どうしようか」
俺は悩みながら林崎の動きを観察する。しかし、林崎は少し休むと俺に向かってきた。攻撃するようすもなく、ただ近付いてきた。もしや!?と思い瞬時に逃げようとしたが遅かった。俺は腕を捕まれ、俺がやったことと同じことをしてきた。
「くそっ!」
「わかってんだぜ?お前、あくまで俺との戦闘を自己防衛っていうことで終わらせるんだろ?」
「…俺は紗愛花を助ける。けど法は犯さない」
「そうかよ。じゃあ痛がれ」
肩が外れないぐらいにして激痛を与えてくる。頭が狂いそうなぐらい痛い。
「あ、あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
くそっ、やっぱり俺じゃ勝てないのかよ。こんな良い頭脳と体を持っていて勝てないのか。くそ、絶望しちまうよ。俺の…自分の無力さに。
「ハハ、ハハハハハハハハ!」
――――――――――――――――――
「な、なんだ!?」
次の瞬間、零助が俺の拘束を外そうとした。とてつもなく強い力で。俺はとっさに肩を外す。そして零助は俺の拘束を抜けた後、すぐにゴキュ!と片方の腕の力で入れやがった。どれだけ力強いんだよ。さっきまで全然弱かったのに。
「はぁ。最初から俺が出れば良いんだよ。こいつを倒せば良いだけだろう?この体を全然使いこなせてねぇお前では勝てねぇんだよ。ざまぁねぇな」
俺の拘束を抜けた零助は立ち方、目つき、喋り方、雰囲気等において零助とは全くの別人だった。
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