あの花咲く丘、光の中でまた
青白く輝く発光植物「ef」の花咲く丘に少年は住んでいた。
そこには誰も来ない、隔離された環境だったが、少年は別段何不自由無く暮らす事が出来ていた。
少年が口にするものは唯一、efの花から取れた蜜の蜂蜜酒のみ。それ以外は口に入れてはいけないよと、幼少の頃、固く父親に言い含められていた。
幼い頃は体調を崩しがちだった少年も今ではすっかり元気になり、亡くなった父のかわりにefの花の管理をし、蜂を操って蜜を取り、自分の主食であるミードを作っていた。
ある日、少年の元に一人の男が訪れた。道に迷ったのだという。
少年に取っては初めて出会う父以外の人間だった。始めは警戒するも、打ち解けると話が弾み、一晩の宿を提供することにした。
男の話は、少年にはとても刺激的だった。蜂と、ミードと、efが世界の全てだった少年の好奇心はかき立てられた。男が持っていた食べ物も、少年は見た事も無いものだった。男がそれを口にするのを見て、少年もそれをほんのひとかけ、口にした。しかし、それを飲み込んだ瞬間、少年はえづいて倒れ込んでしまった。
ベッドの上で少年は目をさました。酷く気分が悪かった。嘔吐感がこみ上げて、吐瀉する。ミードをひたすら飲み続けると、いくらか具合は良くなった。申し訳なさそうにする男に、自分が誘惑に負けたのが悪い、父にこれ以外は口にしてはいけないと言われていた事等を話した。
男はここを立ち去ると言った。また会いにくると約束して、男は去って行った。
男が去ってから、少年は酷く物思いに耽るようになった。なぜ自分はミードしか口にしてはいけないのか。efとはなんなのか。なぜこの土地は隔離されているのか。あの男はここ以外のどこから来たのか。自分が口にしたあの食べ物はなんだったのか。
そしてたびたび、吐き気をもよおすようになった。あのとき口にした食べ物がまだ体の中にのこっているようだと少年は感じた。ミードを飲み干しても吐き気は治まらない。まだ熟成していないミードや、蜜を集めてくる蜂の巣、蜂、果てはefの花そのものまで少年は食らい始めた。
男は再びやってきた。一介の旅人ではなく、その土地の政治的介入者として。
美しく咲き誇っていた花畑は荒廃し、わずかな光を残すのみとなっていた。
efーその花は猛毒、しかしその光は配下の街に多大な恩恵をもたらすエネルギーの源だった。
少年の一族は代々その猛毒の花を管理し、エネルギーを安定供給するために存在していた。毒に耐える為に、彼らは幼い頃からその毒のみを口にして体を慣らしていた。
男が少年に与えたのは解毒剤だった。それは、毒で構成された少年の体を蝕み、少年を衰弱に追い込み、花畑を荒廃させた。それこそが男の目的だった。花は莫大なエネルギーの元である反面、猛毒をまき散らす。それは悪用すれば軍事利用さえ可能な生物兵器となる。代替エネルギーが完成した今、花畑は負の遺産となりつつあったのだ。
少年は意外な姿で男の前に現れた。彼は懐妊していた。花の管理者の一族は花の支配下におかれている。管理者である少年が衰弱したとしるや、花は少年に代替わりを強制した。少年はひたすら花を貪っていた。
男が少年を刺した。途端、その腹から産声が上がり、一斉に花が芽吹いた。その毒に男は耐えられず、その場に倒れ込む。立ち上がった少年は、自分の血を赤子に飲ませる。