他人の所有物に興味は無い
設定がとても雑に組まれているので、
お読みいただく際は部屋を明るくして
広い心をお持ち下さいますようお願いします。
登場人物が少ないと書きやすいですね。
冒頭『夜はたけなわ』は『宴もたけなわ』の間違いでは?
とのご指摘ですが
これからへの戒めと言う事で変更しない事に致しました。
悪しからず。
最早ネタとして気に入ってきました…。
夜はたけなわ。
此処はとある伯爵家が自慢の庭を披露するために主催した夜会である。
美しい令嬢が微笑んでドレスを翻し、貴公子たちは彼女たちを優雅に追う。
毎夜何処かで行われる、そんな貴族達の饗宴…………と言うか、娯楽。
優雅に設えた会場の片隅で、二人の男女がたたずんで、会話をしていた。
「…………今の令嬢の髪は美しかったな」
「そうですか」
「あれは流行りのドレスでは無いか?さっき通った令嬢によく似合っている」
「お目が高うございますね」
「…………お前は可愛げが無いな」
「存じております」
仮面夫婦ならぬ仮面婚約者。
それが私と、この横の女好きで色魔で色キチガイの色ボケ野郎…………あ、表現がうっかり被ってしまったわ。
まあ、とりあえずこの横のアホとの関係だった。
「お前は何故俺を褒めない」
「ワアーステキデスワァー…………こんなもんで宜しくて?」
「何処が素敵か言ってみろ」
「色んな女性と浮名を流して挙句逆恨みされて、御命頂戴されそうな所とか良いと思いますわ。
貴方の寿命が短そうな所は好ましいと思います」
「ふっざけんな!!11歳で浮名なんか流せるわけないだろ!!」
ああ、今日も横のアホが煩い。
早く家に帰りたい。
そんな私を無視して、御年11歳の金髪のアホ……こほん、婚約者が私の顔のちょっと下でわめく。
煩いチビだな……。
私は横の公爵令息(と書いてエロガキと読む)に心を込めた冷たい目線を向けてやった。
「いや、別に出来るんじゃありません?11歳でしょ?
だってセベロ様ってつい最近大人のシーソー乗れる資格出来たんでしょ?具体的に言えばぎっこんばったんを」
「ななななな何で知ってんだ!!お前なあ!!女の癖に下品だぞ!!」
チッ、お子様が。
同い年の女の耳年増力を舐めてもらっちゃあ困るんだよ。
もっと引き籠って本とか読む深窓の令嬢なら、もっとむっつりエロイんだからな、多分。
「何でお前は俺を苛めるんだ!!」
「人聞きの悪い、苛めておりません」
「さっきから殺気しか出してないだろうが!!」
「あら嫌だ、親父ギャグですの、おもんなー」
「うわあああああん!!何で僕の婚約者は可愛くないんだあああああ!!」
ちっ、堪え性の無いガキだ。
もう泣きやがった…………。
私は名乗るほどではございませんが、とある小国のとある伯爵の次女、ジネット。
政略結婚を前提に公爵令息のセベロ様と婚約を5歳からさせられている。
そう、上から見ても下から見ても、大人の事情で愛も恋も生まれようがない結婚だ。
愛など生まれようがない。
まあどこでもいつでもセットにされているから、居ないと探しにいってやろう位の愛着は有る。
そして、このどうしようもないアホに本命の女が居るのを知っている。
こんなアホでも人を愛することを知っている。
そのことを、私は骨の髄まで知っている。
幾らちょっとコイツと一緒に居るのが面白いと思っても、他人の所有物に興味などない。
他人のものだと分かっていて、どうしてコイツと婚約者ごっこなんてやらないといけないんだ。
「ジネット!」
今日も私の頭にお父様のゲンコツが降る。
あのアホと何かの会に出た時は大体そうだ。
「何でお前は大人しくセベロ様に寄り添わないんだ!!」
寄り添えるかあんなもん。横にいるだけで有難いと思ってほしいわ。
「でも、旦那様。セベロ様もいけませんわ!
ジネットが居るのに、他の令嬢を褒め称えていましたのよ」
「お母様、お口添えどうも」
付き添いのメイドにでも聞いたのか、お母様は耳が早い。
「それにイラッとしたジネットが拗ねても仕方ありませんでしょ?」
「拗ねておりません」
そうなのか、って顔で見ないでくださいお父様。
「大体あのアホ…………セベロ様はレイレ嬢がお好きなんです。
早く婚約解消してください」
レイレ嬢と言うのは子爵家の可憐なお嬢様である。
華やかかつ繊細な美貌と令嬢らしい振る舞いは、
同世代に大人気である。
「お前たちは…………どうしてこう…………」
お父様が頭を抱える。
しょうがないだろう。
アイツが私を好きではないというのは、誤解でも錯覚でもない。
純然たる事実だ。
とある日、私は令嬢のたしなみの一つ、刺繍の手習い習わされていた。
で、好きな人の為に刺す刺繍、と言うものが宿題に出された。
好きな人に贈ると恋が成就した令嬢が居たとかで、その図案が貴婦人方に流行したらしい。
で、まあ、器用な方じゃないけど出来たら婚約者のセベロ様にでもやるかあ、と刺してたら、思いの外面白くて。
「もう少しでできあがるけど喜ぶかしら」
「勿論ですわお嬢様」
なーんて侍女と盛り上がって、期待までしてしまったとある日。
あのアホはデレデレした顔に傷を作って我が家へやって来た。
アホが更にアホに見えた。
「昼の茶会で転んだら、レイレ嬢にハンカチを貰ったんだ…………」
その当時の私は淑女らしく微笑んで、レイレ嬢の親切を褒めた。
「まあ、お優しいかた。親切ですね」
放っておきゃいいのにこんなボンクラ…………人の婚約者に余計な真似を!!と思う心をおくびにも顔にも出さず。
あのときの私は健気だった。
思い出しただけで、全私が感激のスタンディングオベーションに巻き込まれるわ。
「手習いの失敗作だから差し上げると言われて……なあ、これって愛するものへの手巾じゃないか!?どうなんだ?そうなんだろ!?」
興奮するアホの手には、どこが失敗作だか解らない、美しい刺繍のハンカチが握られており…………そして図案は…………このアホの言った通りだった。
私も作っていた、あの図案だ。
私はその夜、自分の刺した物を眺めた。
同じ図案なのに随分色センスも繊細さもかけ離れている、不細工なハンカチ。
いや布切れ。
即座に刺繍枠から外し、ジャキジャキと裁ち鋏で細かく裁断して、糸屑にしたら箱一杯になった。
その中に庭でとってきたミノムシを放ったら、巣を作ってくれたので飼った。
私の愛と苦労を、何も言わずに受け入れてくれるミノムシが大変愛しくなった。
アホは虫が嫌いなのでギャンギャン文句を言った。煩かった。
蛾になってしまったので、外へ放った。
閉じ込めていたせいか、少し羽が小さかったので罪悪感が湧いた。
私は刺繍を諦めて、編み物を手習いにした。
「レイレ嬢のショールは自分で編まれたそうだな、素晴らしいな」
とある日の茶会でバカが褒め称えたのはレース編みが大変繊細な肩掛けだった。
家に帰って自分の成果を見た。
ぶっとい毛糸の不細工な固形物が転がっている。
裁ち鋏で切って出来たものを棒を巻き付けたら高いところのホコリがよく取れた。
私は編み物を止めた。
極めつきはこれだ。
チューリップが咲き乱れた公園でアホと散歩をしていたら、レイレ嬢が遠くの方を通りかかったらしく、アホは叫んだ。
「あっ、レイレ嬢だ!!」
アホの癖に目いいな、お前…………とは言わなかった。
さっきからつまんないムード垂れ流しのまま、私と歩いていた時とはテンションが段違いだ。
レイレ嬢が若干近づいて来た。
その手にはピンク色のチューリップが沢山抱えられていて、とても嬉しそうだった。
「素敵ですわねえ」
「うむ、レイレ嬢は美しいな」
うっかりアホの足を踏みそうになったのを堪えた。
「誰か好きな方に頂かれたのでしょう。わたくしも欲しいわ」
引き攣る頬っぺたを精いっぱい動かして、私は出来るだけ優しく微笑んだ。
すると、アホは不思議そうに私を見て
「おまえにくれてやる花はないな」
…………大変に素敵な返事を寄越したと言うわけだ。
「お前は何もくれないな!?」
「何か欲しければ勝手に買えばいかがですか。人にタカらないでもらえます?」
私はアホに気を使うことを止めた。
これが私とアホの関係である。
もうお前とっととレイレ嬢に婚約でも申し込めば?
今ならちょっと愛着が湧いてきたくらいだからさあ。
早い方がいいじゃないか、お互いに……。
そして歳月は過ぎ…………私は18になった。
ついでにアホも18になった。
強い権力が絡んだ大人の事情で未だ婚約破棄はなされていない。
…………もう13年も婚約していることになる。いい加減他の男を探したい。
だが、あのアホは三日と置かずやってくる。
律儀な所は褒めてやりたいが、もっと他の所に労力を使うべきだ。
あの妖精のような少女から、女神にチェンジしたと褒め称えられてるレイレ嬢とか。
よく既婚から未婚の殿方に集られているのを遠目に眺めている。
ついでに横のアホが口を開けて見とれているのも見ている。
「おい、ジネット。相変わらず芋のようなドレスだ。もっさいな」
「ほっとけやアホが。何か用ですか?」
人の部屋に招かれておいて何という言い草だ。
私は手元から目を離さずに、アホに返事をした。
今いい所なんだ。
「お前、刺繍やってるのか」
「昔放り出したのに強制的に習わされてるんです」
令嬢教育に避けては通れないと言う事で。二年前に再開された。
家の恥になるとまで怒られてはしょうがない。
私の立場なんて弱いもんだ。
「じゃあ出来たら何かくれ」
「嫌です」
「何でだよ!!」
寧ろ何でだよが何でだよ。
「だってお前、何にもくれたことないぞ!!」
「何で私が貴方に物を差し上げないといけないのでしょうか」
「だってお前、婚約者なのに!!」
大きい声を出すので、顔を上げたら予想以上に泣きそうな顔をしているのが見えた。
「何ですかその顔」
「トレッテ侯爵令息を知ってるか!?
あの人いっつも婚約者からチーフだのハンカチだの貰っただのなんだのって色々自慢されるんだぞ!?」
私は予想以上のくだらない理由に半目になった。
何だそれ。
自慢が羨ましいから欲しいのか。
「じゃあ其処らの買ったか作らせたかのお品を、婚約者から貰ったって言えば宜しいんでは?」
最悪自分の家のメイドにでもお抱えの店にでも作らせたらいいじゃないか。
口止めしときゃ誰が作ったなんて分からないし。
「何でそんな悲しい詐称しないといけないんだよ!!」
「うるっさいなあ…………」
何で私がそんな殿方同士のくだらない見栄の張り合いに利用されないといけないのか?
腹が立ってきた。
何でコイツの為に私がそんな事を…………。
あの手巾だって、あんなこと言われなければ…………!!
怒りで、頭がくらくらする。
気が付けば私は刺繍枠を膝からはたき倒し、セベロ様の首元のタイを掴んでいた。
彼はこの何年かですっかり背が伸び、私を追い越してから…………私は顔を見る事すらしなくなった。
久しぶりに近づけた顔は、驚愕に満ちている。
この何年か大して見もしなかった顔は、ほんの少し昔の面影を残して、随分と成長していた。
「そんなに自慢したいなら、いつかのハンカチでも自慢なされば?
愛しのレイレ嬢に頂いたあれを!」
「…………」
「ええ、あの素晴らしいハンカチをレイレ嬢から頂いたと自慢なさればいい!!
解決ですわね!!」
「…………」
「いっその事そのままレイレ嬢に跪いてお願いなされば!?
あのみすぼらしい婚約者とは別れます、僕と結婚してくださいって!!」
セベロ様はその緑色の目を見開いたまま微動だにせず、答えない。
その目に映っている自分の姿に、目を吊り上げ、喚きたてるあまりの醜さに…………私は…………我に返った。
私は、何を。
…………やってしまった!!
口が引き攣る。
間違いなくこの口で、悪意を…………本音を吐き出してしまった。
…………いや、これは…………チャンスなのでは無いのか?
彼は、これで間違いなく醜い私に愛想を尽かすだろう。
今度こそ婚約破棄だ…………。
婚約破棄…………なのに。
何故、こんなに苦い気持ちしか湧いてこないのだろう。
何故、この緑の目から目が離せないんだろう。
ただの腐れ縁の婚約者に対する愛着しかない筈なのに。
…………。柱時計の音が部屋に響く。
長い沈黙が…………。
何か言えよ!!
何か切っ掛けかが無いと、離しづらいだろうが!!
女の手とは言え、首元掴まれたらお前も苦しいだろうが!!
「ジネット」
…………遅い!!やっと口を開いた…………。気まずい!!
私は漸く私は彼のタイから手を離せた。
「ええ、『お前と婚約破棄したい』って事ですわね」
「やっと怒った…………やっと妬いた」
…………ん?
「は?」
「は?いや、今何て言ったお前」
「いや、セベロ様こそ何て言ったの」
空耳か?と思って問いかけたのに、セベロ様は私の肩を掴む。
「今お前婚約破棄って言ったのか」
「言いましたけど」
「お前…………何で何処をどうして婚約破棄になる!?
やっぱり他に好きな男が出来たのか!?」
「はぁあ!?」
意味の分からない因縁に私は仰天した。
「何で私が浮気者にされるんですか!!寧ろアンタでしょうが!!」
「こんなにお前にかまけてるのに何で俺が浮気者なんだよ!!」
…………いや、お前…………。
あれだけ他所の令嬢を褒め称え、レイレ嬢を褒め崇め奉りしてたじゃないか。
ここ最近ずっとだぞ。
「俺が何時何処の誰と浮気したって言うんだ!!
三日も空けずに婚約者のお前の元へ通ってるのに!!」
「え…………そりゃあ…………空き時間とか」
「ねえよ!!
親父の見習いと言う名のスパルタ教育受けてる俺のスケジュール知ってるか!?」
そう言えばコイツの実家、まあまあお偉いさんで、跡取り息子だったな……。
そっか、跡継ぎ教育……受けてるわな。気にもしなかった…………。
家にやたら来るのも『ふーん…………暇人…………』位の感想だった……。
「え…………いやあ、興味なかったから知りません」
「興味が無かったからぁ!?」
肩をがっくんがっくん揺さぶられた後、恐ろしいものを見る目で見られた。
しょ、正直に言いすぎた!?…………罪悪感がすっごく湧いてくる。
「…………なあ、ジネット」
「は、はあい?」
「俺達には話し合いが必要だと確信した」
「…………そ、ソウデスワネ」
ぞわり、と背筋を恐怖が走る。
…………初めてこのアホだと思っていた婚約者が怖いと思った。
場所を変えた方がいいとセベロ様が言うので、私達は談話室に移動した。
…………まあ、確かに移動したら気分が変わるって言うもんね……。
セベロ様の機嫌は直ってないみたいだけど……。
メイドにお茶のセットを組ませ、
出て行ってからセベロ様は口を開いた。
すっかり…………立場は逆転し、私への尋問が開始された。
「何故俺が浮気者だと断定した」
「…………え、えーと、だってセベロ様他の令嬢ばっかり褒めてるじゃないですか」
「何だと!?お前を褒めても流されている俺の心をどうしてくれる」
「…………褒められた覚えなんか皆無なんですが」
「じゃあ、一昨日でもいいから俺との会話を覚えているか」
…………そう言われて思い出してみる。
「…………何喋りましたっけ」
「ほらな」
…………いやいや、絶対違うって。
…………あれ、何時からマトモに話してなかったかな?
…………嫌な汗が背中を伝う。
「教えてやろうか。
お前は俺の言葉に悪口なら即座に反応するが、褒め言葉には反応しない」
「………………」
…………うわあ。
何それ…………そんな訳が無いわ……と笑いかけたが、セベロ様の冷ややかな目に言葉を飲み込んだ。
「…………因みに一昨日は何をお話ししましたか」
「ジネットの髪は美しいなと言ったら全く返事をしなかった。
いつも通り壁に話している気がした」
「…………えっ全く記憶にない…………。
と言うか、そんな事をセベロ様が言われる筈が無い…………」
「…………二回言ったら『そんな事をセベロ様が言う訳がない』と言われた」
「…………本当ですか?」
「そんなに疑うならお前の傍仕えに聞いてみろ」
私は早速ベルを鳴らして傍仕えのメイドを呼んだ。
素早く参上したメイドは、紙の束を抱えている。
え、何も頼んでないのに何それ。
「ジネットお嬢様、お呼びで御座いましょうか」
「ええちょっと一昨日の事を」
「此方で御座います」
メイドが持っていた紙の束を渡された。
…………なにこれ分厚い。
「えっなにこれ!?」
「お嬢様が11歳の御年から常に付けておりますセベロ様との会話記録です。
まだ今月分は纏められておりませんので、覚書で失礼を」
「何でそんなもん付けてんの!?」
「恐れながら、伯爵家と公爵家の御意志で御座います」
…………。どういうことだ。
「…………これは…………」
「11歳の御年からお嬢様が塞ぎこまれるようになられたのを見かね作るようご命令を受けました」
家の親もセベロ様の親も噛んでるのか!?何してんだよ!!!
「ちょ、ちょっとセベロ様!!貴方これ知ってるの!?」
「知らなきゃ証拠にならんだろ、アホ。いいから読めよ」
あ、アホにアホ呼ばわりされた!!!
…………し、しかし…………今は私が分が悪い。
…………。
……………………。
…………………………。
読了した私は…………。
自分が凝り固まった考えでセベロ様の数々の愛の言葉をスルーしていた事実を知り…………。
…………記録を破り捨てようとしたので取り押さえられた。
「だって!!ええっと…………レイレ嬢を褒め崇め奉っていましたよ!!」
「お前、他の話しててもレイレ嬢の事になったらすっごく噛みつくから怖かった」
「すっごく凝視してたでしょう!!」
「アホか!!幾ら可愛くてもあの人は見る専門だ!!
他人の所有物に興味は無いわ!!」
…………見る専門?
他人の、所有物?
「たにんの、しょゆうぶつ?」
「そうだよ!!あの人は4歳の時から王太子の婚約者だ!!」
王太子の婚約者…………レイレ嬢が。
…………マジか。
「王太子様の……婚約者」
「知らんのはアホ面下げてるお前位だ!!」
た、確かに貴族年鑑とか覚えるの嫌いだけど!!
「…………ご身分が」
「レイレ嬢の母方の祖母君は隣国の姫君だ」
遠いな!!だから知らないよ!!
「皆さんが崇めた讃えていたのは…………」
「コネづくりだ」
あ、そうなんだ…………。皆お家の為に大変だね……。
「歳の差が」
「たった5歳だろ!!」
11と16だと結構差が開いてるけど…………18と23まで行くとんな歳の差でも無いな……。
…………するってえと、何か。
私は11歳の時から、コイツへの思いが暴走して好意をスルーする体質を自分で作り上げたと言うのか……。
そんな馬鹿な…………。
私がセベロ様への思いを拗らせているみたいじゃないか……。
でも…………でも…………じゃあアレは何なんだ。
あのチューリップが咲き誇る庭で私に放たれた手酷い言葉は!!
「…………私に、花をくれないのは」
「何だ、花が欲しかったのか?明日持ってきてやる」
「いや、違います」
「じゃあ何だよ」
私は場違いながらも胸を張った。
これは言い逃れ出来ないだろ!!
「子供の頃、チューリップの庭園でレイレ嬢にお見掛けした時、
私にくれてやる花は無いって」
「…………?ああ、あれか」
全く悪いと思っていないセベロ様に私はカっとなった。
「あれかあじゃないですわよ!!あれで死ぬほど傷ついたんですけど!?」
「だってあそこ王立の公園じゃないか。王の持ち物だぞ。
許可なしにあそこで花を摘むのは犯罪だ。子供でも許されない」
え…………王立の、公園…………。
そ、そりゃ…………無断で花を摘めないね……。
寧ろ、罰が下るね……。し、知らなかった……。
何だと……。
…………ちょっと待て。
じゃあ私は勝手に勘違いして勝手に癇癪を起していた事じゃないか。
「何だなんだー、そうか、それで傷ついたのかー。お前、可愛いな」
「ぎゃあ!!」
足が着かない!?
か、か…………抱えられた!?
「ちゃんと言えばよかったのに。
そう言えばあの後『花なんか要るもんですか』って怒ってたもんな」
「いっ、言ってない!!記憶にない!!」
「うんうん、やっぱり話し合いは大事だったな!
お前死ぬほど思い込みが激しいもんな!!」
私は反論が出来なかった。
…………ここまで論破されて、誰が反論できようか……。
アレだ、これからは改悛して断罪って奴だ。
かなり悲しいが、私は罪を償わなければいけない。
「…………あの、セベロ様」
「何だ、ジネット」
「…………今まで大変申し訳ございませんでした」
「え、何で謝るんだ、気色悪い」
目の前に有る金色に包まれた脳天に、手刀を叩き込んでやろうかと思ったが、此処は私が悪いのでぐっと堪える。
「今までの無礼の数々…………」
「寧ろ令嬢らしい態度の方が好きじゃない」
「素気無い態度を…………」
「まあちょっとスルーが多すぎたけど、お前との会話は気が抜けて楽しい」
「言わせろや!!」
私の手刀は心のままに放たれてしまった。
「あいた!!短気なのは欠点だな」
「すみません!!お許しいただかなくて結構ですから、もう私を」
「嫁にするよ」
「そう嫁に………………はぁあ!?」
私の二回目の手刀が放たれてしまった。
「照れ隠しにポンポン叩くな!!」
「結構殺意を込めてるんですけどポンポンですって!?」
「込めてんのかよ…………。そこは愛を込めてとか言えよ…………」
「だって私酷い仕打ちを……」
「いや、別に何の実害も無いんだけど……あ、そうだ」
セベロ様は私を地面に下した。私は反射的に上に手を伸ばす……。
「おい、何手を伸ばしてんだ。頭を叩こうとするな」
「すみません、つい罪を重ねたいと言う欲望が」
「お前の照れ隠しは分かったから、聞け」
両手を握られてしまった。手刀はもう放てない……。
「お前は何故そんなに婚約破棄をしたがるんだ」
「だって…………私…………」
「刺繍だってちゃんと出来るじゃないか。
編み物だってうまくなったって聞いてる」
「…………何故それを?」
「何故も何も、お前俺が来てる時はずっとそれに夢中だろうが……」
「…………そうでしたっけ?」
そう言えば両方とても捗っている。
…………全く記憶にないが、
ずっと編み物か刺繍をしながらセベロ様の相手をしていたらしい。
「お前が俺に興味を持っていないって言うのが、本当によく分かった。
突き刺さった」
「だって貴方に興味を持てば、お別れが辛いだけじゃありませんの!!」
「お前は…………」
ふう、とセベロ様は片手を放して私の頬を撫でた。
…………乾いた皮膚がちょっと痛い。
でも、嫌な気持ちは湧いてこない。
「お前だけだよ、婚約破棄って騒いでいるのは」
「…………」
「なあ、ジネット。何が不満だ?何が怖い?何が欲しい?」
セベロ様の手が、私の唇を摘まんだ。
「所有物扱いでも、何でもいいから……どうやったら俺に興味を持ってくれる?」
「…………」
「何が聞きたい?何を言わせたい?何で見てくれない?」
「…………」
「頼むから何か言ってくれ……」
…………グニグニ抓られて口が痛いんだけど!!
勝手にシリアスになっていくセベロ様の手を、私は手刀で払いのけた。
「口を押えられて話が出来るか!!」
「…………あ、そっか」
「そっかじゃありませんわよ!!」
ヒートアップした私たちは、落ち着くべきだと話し合い、向かい合わせの椅子に座った。
新しいお茶とお菓子が運ばれてくる。
取り合えず、仕切りなおした。
「セベロ様のお気持ちは分かりました」
「お前の思い込みの激しさも自覚してくれたか?」
「…………そこは、まあ後程」
「いや、病的レベルだと思うから其処はよく考えてくれ。
大体会話の大半を聞かないなんて社会性が無いにも程がある」
「いや…………本当に申し訳ありません」
「これまでの話で何か質問は有るか?
補足が必要か?
後でも構わない、疑問が有ったら言ってくれ。
とことん解決するぞ」
セベロ様が家庭教師みたいな事を言い始めた。
「いえ、……結構です」
「お前は思い込みが激しすぎる。拗れる前に口にしろ。纏めてみろ」
「…………えー…………纏めるんですか、私が?」
「どれだけ理解できてるか聞こう」
…………マジか…………。
「…………えー、何を話したら宜しいんですかね」
「俺が効きたいのは俺に対してのお前の気持ちだ」
「…………アホだと思っていました」
「のっけから…………」
「何処へ行くにも何時も一緒なので、愛着は有りました」
「…………愛着…………」
「レイレ様がお好きそうなので、婚約を破棄するべきだと思いました…………」
「其処は誤解を解いたな?」
「セベロ様が私に、や、優しい言葉を掛けられていたそうですが……
私は…………なのでスルーしました」
「聞こえない。後、優しい言葉じゃなくて口説いていた」
「くっくど………………し、嫉妬に支配されて聞こえなかったんです!!」
「うんうん」
「まだやるんですか!?」
「当たり前だ。何で嫉妬した?」
「…………分かるでしょう」
「いや、口説いてはいたが口説かれたことは無いから全く」
この野郎!!
頭の先から湯気が出ていそうな程恥ずかしいこの私にまだ言わせるか!?
手刀を放ちたくて片手が震える。
「多分、貴方を取られたくなかったからです!!」
「多分は要らん!ジネット!!」
「貴方を取られたくなかったからです!!これで満足か!?」
恥ずかしくて、最後は全く淑女の作法も台無しに叫ぶことになってしまった…………。
しかし、そんな私をセベロ様は抱きしめる。
「満足だよ、俺のジネット!!」
暫く、ギュウギュウ抱きしめられていた。
…………初めてじゃないだろうか、こんな過剰な接触は。
悪くは無いけれど……若干苦しい。
「…………私は…………物じゃないけれど」
ぼそり、とつぶやいた私の言葉にセベロ様は固まった。
恐る恐る腕を開いて、私の顔を覗き込んでくる。
その瞳は怯え、え、何かマズったか?と語り、揺れている。
顔は随分大人らしく、男らしくなったのに…………。
先程見た泣きそうな顔と言い、
其処はあの11歳のあの時、
私が意地悪して泣いた彼に重なる。
「貴方だけが所有するなら、興味はあるわ」
私は思い込みが激しいから。
興味を持ったら、とことん突き詰めるだろう。
「セベロ様、貴方は私を所有することに興味がおあり?」
取り合えず…………会話録を読むことから始めた方が良さそうだ。
今流行りの伯爵令嬢と婚約破棄を書いてみたかった。
6/6オマケと言うか蛇足と言うかが出来ました。
https://ncode.syosetu.com/n5920eu/『他人の所有物が羨ましい』
宜しければお読み下さい。