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売られた男 11話「別離」

「脱出ゲームか、楽しそうだ。僕も協力しよう。というか、協力しないと僕までふっ飛ばされそうだ」とアルフレトが言った。

「おい、お前、一応同盟してるんだろう?良いのか?」

「カガミ中尉と言ったね。僕らはパンゲア神の敷かれた道をただ歩んでいけばよいのさ。人間の損得勘定なんて、その道の前では考慮する価値すら無いのだよ」

「同盟は表向きで、日本侵略の橋頭堡が欲しいんだろう。この要塞は、大陸軍の一大拠点だ。取り入れれば吉、吹っ飛んでも吉、そんなところだろう」

「まあ・・・君たちのBUSHIDOUには相反するかもしれないが・・・島国育ちにはわからないさ」



レムスはロムルスにしがみついて離れない。

「レムス、僕たちは情報の詰め箱でしかない。でもね、レムス。君には本当の外の世界を見てきてほしいんだよ」

「そんなものどうだって良いよ。どうせろくなものじゃない。僕もここで死ぬよ」

「レムス・・・僕がついて行けない体だってのはわかるだろう?でも君なら大丈夫だ。このままここで死んだら、僕たちは何のために生まれてきたんだい?僕は君を通して世界を見たいんだ。こんな好機は二度と無いよ。それには、彼らの助けと、このシベリアのマッチが必要なんだ」

「僕は何をしたら良いの?わからないよ。ここでの生活しか知らないんだ」

「世界を見るのさ。五感で捕らえながら。何の変化もない人生は死だ。君は生を得て、僕は無益な生を止める。でもこれは生へと繋がる死だ。君の生へ繋ぐ死、それはこの地獄から生を勝ち取ったことになるんだ」

「僕は・・・どうしたら良い?」

「アルフレトさん、あなたならレムスのことを大切に扱ってくれるよね」

「何でもお見通しだな。君たちには失礼だが、レムスくんは貴重な存在だ。喉から手が出るほどのね。任せておけ。君の死は無駄にはしない」


ロムルスはレムスを押しのけた。

「レムス、自分の足で立つんだ」

レムスは、泣きながら、そして後ろを向き、入り口へ歩き出した。

「ロムルスくん、君には感謝するよ。いまからちょうど3時間後に・・・頼むよ」

「ああ、君たちは救済の死神だ。僕をここから救ってくれた。レムスを頼みます」

僕たちはレムスに率いられるように、部屋を出ていった。ロムルスはにこやかに手を振っていた。子供のように。



僕たちは階段を駆け上がっていった。カガミ中尉がレムスを背負う。

「さあ、これから間違いなく歴史が動くぞ。ははは、たまらないね。神もたまには粋なことをしてくれる」

アルフレトは階段を駆け上がりながら、顔を出した兵たちを例の光の鞭のような武具で掃除していく。

「こっちだ」とアルフレトは薄暗い要塞内を駆け巡る。

「やけに詳しいな」

「君たちに会う2日前から日課の夜の散歩をしていてね」

アルフレトがドアの前で急に立ち止まった。

「ここから外に出るぞ。中に数人見張りがいる。始末してくれ」

「僕が行こう」

僕はゆっくりドアを開けた。


「なんだ?」

大陸兵が三人座っていた。

どうやら砲台のようだ。もちろん砲弾は無く、見張り台として利用しているらしい。

「ロン少佐がお呼びだ」

「ロン少佐?そんな人いたっけ?」

目の前の男の喉を突き、椅子に座っている男の後頭部を蹴り上げた。

奥にいた大陸兵は、ぽかんとしている。

「これが僕たちが戦っていた相手か・・・」

僕は奥の男を斃し、首の骨を踏み砕いた。ロムルスの顔が浮かんでいた。

後ろでは、アルフレトが二人を始末していた。

「ここから降りよう」

砲台下に扉があり、要塞外へ出ることができた。

「散歩だけでここまで調べられるのか?」

「君たちと違ってね、我々は少し勉強してくるのさ」

レムスはカガミ中尉の背中に顔を押し付けていた。

「大丈夫か?」

「・・・よく、あんなに人を・・・簡単に・・・殺せるんだね」

「これがお前らの知らなかった世界だ。よく見ておけ」

カガミ中尉が言った。

「ロムルスの分もな」




「我々の宿舎へ行こう。そのあとはどうとでもなる」

アルフレトは要塞の影を縫うように歩き出した。

「少々急がないとな」

要塞内が慌ただしくなっていた。かすかに聞こえる怒号と共に、大陸兵が右往左往している。

宿舎は要塞のすぐ近くだった。レンガ作りの宿舎の裏手に回り、アルフレトがレンガを二、二、三と右中指の指輪で叩いた。

するとレンガがひとつ、ひとつと音も立てずに中に消えていく。

「ようこそ我が家へ」

中に入ると、三人の男が出迎えた。アルフレトと同じ格好をしている。

「導師、連れが多いですな」と一人の男が言う。

「すまないね、デカン。ちょっと予定が狂ったよ」

「偵察にしては遅いと思い身を案じておりました。首尾は如何に?」

「ああ、神に導かれたよ。彼らは丁重に扱うようにね」

「お茶にしたいところだが、脱出しなくてはならなくなってしまった。行けるかい?」

「ええ、いつでも」


男たちが出ていった。外の騒ぎは一層大きくなっている。

アルフレトは、レムスに菓子と水を渡した。

「抜けられるのか?」

「カガミくんは心配性だね。手筈は済んでいる」

「すまないが、どうやって抜けるのか教えてくれないか?」と僕が問う。

「まあ、予定が狂ったけども、ここまで完璧に来れたのは君たちのおかげだし、教えようか。そのかわり協力してくれよ。人数が少ないのでね」

「わかった。あと・・・」

「まだあるのかい?」

「あなた達の任務は、俺達と同じ目的だということはわかった。だが、目的は完璧に達成したのか?」

「私がここに来たのは、ご存知の通りレムスくんたちが守っていたクマグスくんの調査だよ。ついでにできればデータを盗んでこいというわけだ。ここまでは君たちと同じだろう。だがうちは根性論とシベリアのマッチだけを渡すような野蛮なことはしない。調査だってここまでうまくいくと思ってもなかったが、きちんと逃走ルートは確保してある。

だから君が心配しているようなことはしないよ。このバックアップデータとレムスくんを我々が安全に持って帰ることができるのならね」


僕たちの任務は、ロムルスがシベリアのマッチを起動した瞬間に終わる。我々には、人類の叡智の奪還は不可能だった。アルフレトからレムスとバックアップデータとやらを奪ったところで、我々にはどうすることもできない。

「今回のことはこれ以上無い成果だよ。大漢連邦もうちも、本気で同盟する気なんて無いのは君たちでもわかるだろう?あっちはうちの情報や武器が欲しい、うちはクマグスくんが欲しいのと倭州駐屯軍の戦力調査がしたい、ただそれだけさ。

さあ、ここまで話したんだ。脱出するまでは信頼してくれよ」



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