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俺の平和な転生生活

作者: 雪月夜

ふと気がついたら、何だか分からない、ぼんやりとした空間にいた。


俺は、確か会社帰りにコンビニに寄って、それからどうしたっけ?

よく覚えていない。

まだ30歳にもならないのに、物忘れとは情けないな。



『あなたは死亡しました。死亡した魂の選別結果により、あなたは別の世界に生まれることになりました』



どこからともなく響く声はあっさり告げる。

はい?俺は死んだのか。

自分の死亡宣言を聞くとは、悲しいな。



『あなたは神の守護を受ける資格を満たしました。強い能力を持ち、他人の助けになるならば、更に強い守護を受けるでしょう』



そう言うあなたはどちら様ですか?



『私は神々の声を告げる者、新たな世界での活躍を期待します』



死んだ、それで転生ってことかな、

生まれ変わるのは分かったけど、能力とかは何だろう?

詳しい説明とかは、無いのかな。


何か温かいものに包まれて、心地よい感覚が全身を満たす。

考える間も無く、意識が薄れていく。

死んだなんて、夢オチかもしれないと淡い期待を抱き、意識を手放した。




目が覚めた。

いや、それまでも何か薄っすらと記憶があるような気がしたが、目が覚めたとはっきり意識したのは今が初めてだ。


天井は、俺の部屋じゃないな。

ベッドもなんか違うし、身体の感覚が、微妙におかしい。


もそもそと寝返りをうって起き上がり、ベッドの端に座る。



はあ?

目に入る自分の手足や身体、子供だろ。


生まれ変わるって、マジで生まれてきたわけか。

赤ん坊の記憶が無いだけましだけど、俺、誰なの?年齢はどれくらいかとかは?



あー、待て待て、落ち着こう。


ちょっと、こう、記憶を探る感じで、思い出してみよう。


ベッドに座り、部屋を見回しながら、今の自分についての記憶を引っ張り出す。


部屋の広さはそこそこ広い。

10畳以上はあるんじゃないかな。


部屋の扉から見て、奥の窓際にベッドがある。ベッドの足元側にクローゼット。

書物机に椅子、小さめのソファーセット。


眺め回していたら、段々と見慣れたような気がしてきた。




俺の名前はエリック・レイモンドだ。

レイモンド男爵の3男。

兄が2人、姉も2人いる5人兄弟の末っ子。


少しずつ思い出してきたぞ。


ここは男爵の田舎領地の屋敷。

使用人もそれなりにいる。


そして俺は12歳だ。


はあー、人生をやり直せるのはある意味夢ではあるが、知らない世界でとなると、やり直しではないな。


今は朝だ。

着替えをしないと、もうすぐ朝食のはずだ。


立ち上がり、クローゼットに向かう。

いつも通りの服装に着替える。

脱いだ寝間着は畳んでおいた。


丁度よく、扉がノックされる。

メイドのリリアだろう。


「はい」

「エリック様、朝食ですよ」

「分かった。ありがとうリリア」


食堂に向かうため、部屋を出る。

毎日のことのはずが、やや緊張するのは、仕方ない。


途中の洗面所で顔を洗い、鏡を見る。

金髪に緑の瞳の少年が写っている。


確か、母親似でまだ女顔にも見える。

これがエリック、新しい俺、おはようさん。



食堂には、両親と2歳上の兄だけがいた。

他の兄弟は、この国の王都にある屋敷にいるはずだから。


「おはようございます」

「ああ、おはよう」


父親が挨拶を返してくれた。


両親も兄も、穏やかに微笑みながら、和やかな朝食の風景。


いつも通りだ。

そう、いつも通り。



父親のルーカス・レイモンドは背も高く、丈夫そうな身体つき。

温厚で勤勉、領民に慕われる良き領主だ。


母親のマリーナは、美しく優しい。

使用人も大切にしていて、領民からも慕われている。


2歳上の兄はロビン、大人しく、いつも微笑んでいるような、優しげな人だ。


屋敷には、メイドのリリアの他には、執事の

クラウド、料理人のカールがいる。


それほど大きな屋敷じゃないから、昼間は通いのメイドが1人、通いの家臣が2人来るくらいだ。



優しく美しく、領民から慕われる両親。

穏やかで優しい兄。

辺境の男爵領地にしては、そこそこ豊かな土地。


実に穏やか、和やかに時間は過ぎる。

神々の声が告げた俺の能力は、剣の素振りを始めたり、思いつく限りの魔法を試したりして、確認できた。




兄のロビンが15歳になり、もうすぐ王都の学校に行く頃になった。


今日もロビンは庭でしゃがみ込んでいる。


剣の素振りを終えた俺が通りかかると、ニコリと微笑み、話しかけてくる。


「やあ、エリック。今日も頑張ってるね」

「ロビン兄さんは、いつもの、ですか」

「ああ、蟻は可愛いよ、見ていて飽きない」


ロビンは蟻が好きだ。

暇があれば庭で蟻を眺めてる。


「王都にも蟻はいるかな」

「庭はあるから大丈夫でしょう」


雨の日は、蟻を見られないから、兄さんは悲しむ。

蟻の生態を調べて、蟻博士になるとか、そんな風な好きではない。


蟻が可愛いくて、摘んで食べたりしたと、照れながら告白された。

そんな告白、聞きたくなかったよ。


蟻に関して以外は、優秀な兄だ。

王都で学校に行くのも問題ないだろう。


レイモンド男爵家のみんなは、外見は揃って美男美女。

頭脳も、15歳から入る学校で優秀な成績をおさめ、男爵家には勿体ないほどだ。


決して不幸なはずが無い。


しかし、知ってしまったことはどうしようもない。



両親の寝室に鞭や縄があること。

夜になると、父親の叫び声が聞こえること。


それを立ち聞きしてリリアが、ハァハァしてること。


腕前抜群のカールはガチムチなのに、ガチホモ、しかも可愛がられたい願望な人なこと。


執事のクラウドはまともだと思ってたら、幼女の人形を夜な夜な愛でていたこと。



俺の楽しい異世界転生はどこ行った?

他人の助けになれば、とか告げられたから、まだ人助けしてないからか?



ロビン兄さんが、王都に行ってからの2年、夜になると怪しい巣窟になる屋敷で正気を保つため、剣と魔法の稽古に励んだ。


転生した時の声が告げた通り、剣を握れば、身体が素直に動くし、魔法に至ってはチート過ぎる。


田舎なので、狩りをするには充分な環境だから、実戦経験として、獣や魔物を狩り、料理人のカールに捌き方も教わった。


昼間はみんな普通だから、安心できる。


夜が怖い。


「あぁぁぁぁぁぁぁー」

「お茶の時間に遅れたお仕置きはまだよ」

「マリーナぁその足で踏んでおくれぇー」


「ハァハァハァ」


「愛しい女神たん、お着替えの時間だよ。新しいドレスはきっと似合うよ。うひひひ」


「今日も振られたぁ悔しいー女なんかとイチャイチャしてぇ」


トイレに行かなきゃ良かった。

夕食の時に飲み物を飲むの、やめようかな。

でも、心配されるしなあ。


まだ聞こえる父親の叫び声を忘れようと、ベッドに潜り込む。


毎晩のことなので、いい加減慣れそうな自分も怖い。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー」


「ハァハァハァハァ」


「愛しの女神たぁんー」


「鍛え上げたこの身体誰かもらってぇー」



慣れない、いや、慣れてスルーした方がいいのかもしれないが。



そんな風に、子供の教育環境としては最悪ななか、正気を失わず、剣や魔法に努力した。



15歳、ついに王都に行く日がきた。

王都の屋敷には兄や姉たちがいる。

ロビン兄さんは、蟻から離れられただろうか?



王都へは馬車で1週間、いつも領地に来ている隊商の、帰り道に乗せてもらった。


いざ屋敷を離れるとなると、寂しいものだが、夜毎の魔窟は忘れたい。


旅は楽しかった。

商人や護衛の人たちから聞く王都の話。

眠るのは狭い馬車の中だけど、変な声はもう聞こえない。


途中、獣や盗賊退治を手伝ったりして、精神的にタフな自分を知る。

俺的には、盗賊より変態が怖い。



王都に無事辿り着き、レイモンド男爵の王都屋敷を、地図を片手に探し、兄弟の再会となった。


ロビン兄さん以外はあまり覚えてない。

優しい兄や姉ならいいな。


屋敷の門を潜り、門番の家臣の案内で屋敷に入る。


出迎えたのは執事とメイド頭。

この人たちは大丈夫だよな?


応接室で待っていた兄や姉たちは、みんな美形で明るく優しかった。

旅の疲れを労い、美味しいお茶やお菓子で和やかに語らう。


俺の部屋に案内されて、夕食までに学校の制服やら何やらのために、御用達の服飾店から人が来ることになっていた。



結果、俺は冷や汗と鳥肌で大変なことになってますが。


王都でも評判の服飾店主自ら、採寸してくれてるんだけど、綺麗に化粧してまつ毛はバサバサ、付けまつ毛とかこっちにもあるのか。


柔らかくウェーブした髪を束ねるリボン。

仕事着らしく洗練されたなかにも動きやすさを備えたドレス。

可愛いらしい靴を履き、テキパキと仕事をするゴリマッチョ。


喉仏あるよね?ちょっと髭の跡とかあるよ。

女なの男なの?ねえ、どっちなの、あ、やっぱ知りたくないや。


「レイモンド男爵家の方は顔も身体も良くて何でもお似合いね」


今何気にケツ触ったよね、涙目になりそう。


御用達だからみんな平気なのか?


ふと姉たちを見たら、ノートと筆記用具を持っているけど、何かな。


「やっぱり美形の弟、いいわー」

「なんか新しい題材が見つかったわねえ」

「マッチョに怯える美形、いいわー」


姉さんたち鼻血出てますよ。

てか、題材って何?


メイドが慣れた手つきで姉さんの鼻血拭いて綿詰めてるし、何なのこれ。



夕食の席で、隣に座ったロビン兄さんが、話しかけてきた。


「ここの庭はね、色んな蟻がいるんだよ」

「そ、それは良かったですね」


まだ蟻食べたりするのか?

ああ、食事中だったよお。



長男のラルフは結婚している。

今日は義姉の実家で祝い事があり、出かけてるらしい。

今夜は実家に泊まるそうで、明日挨拶する。


ラルフ兄さんはあまり喋らず、黙々と食事をしている。

ラルフ兄さんは大丈夫だよね、頼むよ。



翌日、義姉さんが帰ってきて、改めて挨拶をした。

優しげな明るい女性。


領地にいる両親に代わり、兄夫婦がこの屋敷を取り仕切っている。

俺の入学手続きなんかも済ませてくれていた。


男爵は下級貴族だから、学校では気を使うそうで、みんなあれこれ心配してくれる。


義姉のアルマさんが帰ってきた翌日からは、ラルフ兄さんも明るくなった。

夫婦仲が良いんだな。



なんて安心した俺が馬鹿だった。


ラルフ兄さんは父親にそっくりだったのだ。

性癖も。



学校に通い始めた俺は、噂で姉たちのことを知った。


彼女たちは、2人で執筆活動をしていて、貴族のご婦人方から、絶大な人気を得ている。


お茶会には引っ張りだこで、王妃様もお忍びで参加されるほどだ。


題材は腐女子的なあれだ。


姉たちは、食事の時も、俺を観察してる。

やっとできた友人(美形)が遊びに来た時にはまた、鼻血吹いてたから。



貴族怖いし、女の子も怖い。


そしてせっかくの能力を活かすため、冒険者をしようと決めた。


学校の休みの日に活動するならと、両親も許してくれた。



あ、ちなみに俺の魔法はまさにチート。

何でも有りだから、瞬間移動で領地と王都を行き来できる。

家族を運ぶこともできて、便利になった。



それで、冒険者ギルドに登録に行った。

登録が終わったら、見事なテンプレで絡まれたよ。


ギルド内で揉め事は駄目だから、表に出ろ的になって、3人組の男たちを雷撃で気絶させてやった。


そしたら、ギルドマスターが出てきた。

何でかね?

で、ギルドマスターの部屋で、冒険者ランクを上げてもらう展開。

これもテンプレだね。


でも、そのまま1時間以上、ギルドマスターの話を聞かされた。

ギルドマスターは短剣ヲタクだった。


長い上着の前を、バッと開けたら、上着の裏は短剣だらけだったよ。

熱い短剣愛を語られ続けて1時間以上。


救いに来たのは秘書のお姉さん。

何故か鞭を持ってた。


マスターの部屋を出て、ため息ついてたらまたアレだ。


「新人に趣味全開は駄目だろぉがぁー」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁー」

「何度言ったら分かるかバカ者めぇー」

「あひぃぃー」


俺、目から汗出てるよ。


しかも、ギルドの依頼板見てたら、気絶させた3人組が復活して謝ってきたけど、1人はなんでか頬を赤く染めてたし。



そんなこんなで、学校と冒険者を続けながら俺は剣も魔法も鍛えた。

強くなったと思うよ。


冒険者は誘われてパーティを組んだこともあった。

美少女2人と筋肉質な青年が最初だったかな。

冒険者としては実力もあり、リーダーの青年も頼れる兄みたいに思えた。


学校の合間に冒険してる時は分からなかったんだ。

休暇の時、護衛の仕事で宿屋に泊まったら、3人共そわそわしてた。


帰りの護衛までの2日で分かった。

美少女2人はSとMの百合ップル。

青年はドMのホモォで、何か専門の娼館に行ってツヤツヤして帰ってきた。


その仕事で、パーティを外れたよ。


パーティを組む度に、そんな感じ。

剣に話しかける奴とかまだ可愛いくらい。

お酒飲んだら全裸になって街に出ようとする男とか、覗き趣味の女とかな。

後、バトルジャンキー過ぎて訓練で人殺しそうになる奴もいた。

ロリについて熱く語り合うメンバーとかも。


俺は普通だ。多分。

最近普通が何なのかよく分からないような気がしなくもない。



学校を卒業して、冒険者で生きていくことにした。

転生した時に人助けをしろと言われたようだし、狩りをして魔物を減らすのも有りだろうから。


1人でも、攻撃なら剣と、強力な範囲魔法やら身体強化、盾になる障壁魔法も、回復魔法は即死以外なら瞬時に治せる。

魔法は同時に5つくらい展開できる。


もう、1人でいいや。

死んだらそれまでのことだし、空間収納もあるから、荷物もいらない。




それから俺は、隣国との戦争に冒険者の傭兵として参戦。

高威力広範囲魔法を同時に操り、勝利に導いたが、姫と結婚するよう言われて逃げ出したり、遠い国の迷宮に挑んだりした。


ちなみに姫は、自らドS発言したから無理だったよ。


今、迷宮の最深部で銀色のドラゴンと戦ってるところだけど、攻撃を続けてたら、ドラゴンがおかしくなってきて困ってる。


最初は凄い攻撃的な感じだった。

ドラゴンだし、こっちも危ないくらいで、ぎりぎりの攻防のはずが、


『んぁぁー』


『あひぃー』


『あぁぁぁぁぁぁー』


「何か、俺もう帰るわ」


『えぁぁー、待ってくれ、待つのだ。この銀龍をこれほどにもてあそ、いや、ご褒美、あ違う力を示した者に守護を与えねばならん』


「いや、別にもういいから」


『龍の守護を受ける人間など千年に1人もいないほどのことだ』


えー、神々の声が言った更なる守護がこれ?

すんごい嫌なんだけど。


ぼろぼろで、目がまだ危ない感じのドラゴンが光って、光が俺に向かう。

思いっきり避けたけど、そこはさすがドラゴン。

俺の身体に光が入った。


『これでお前は銀龍の守護を受けた。500年にわたる封印も解けた。共に行こう』


「あ、お断りします。1人がいいもんで」


銀龍は人の形に姿を変え始めた。

感動とかするとこなんだろうけどな、ご褒美とか言っちゃってたし、色々残念だな。


それで人型になったのはいいけど全裸。

仕方ないから、空間収納から適当な服を出して投げつけた。


人型銀龍は、銀髪で金色の瞳の青年だ。


お断りしたのに勝手に付いて来るらしい。


迷宮の最奥の魔法陣に入り、脱出。


「俺は瞬間移動でどっか行くからな」

「守護で繋がる者なら追うことなど造作も無い。フハハハハ」


チッ、面倒だぜ。


「お前名前とか有んの?」

「よくぞ聞いた。我が名はディアス。そなたの名前を聞いておらんな」

「エリックだ。気安く呼ぶなよ」




それからは、ディアスが勝手に付いてきたので、あちこちの迷宮を踏破した。


ただでさえ強いドラゴンがドMだから無敵だろ。



何となく、世界中を飛び回り、普通で楽しい転生生活を追い求める。


お金なら充分あるし、便利な魔道具も、貴重な薬も沢山手に入った。



そんな時、ディアスが魔族の国に行きたいと言い出した。


「1人で行けばいいんじゃね?」

「エリックの力が必要なのだ」

「魔族って人間と対立してるだろ」

「今は特にそうではない」

「ディアスは魔族の国に行って、はいどうぞってなるのかよ」

「龍は何者からも独立した種族。いたずらに攻撃されることも無い」

「ふうん、たまにはいいか」

「おお、感謝するぞ」



魔族の国は遠い。

龍化したディアスに乗って、空の旅。

悪くないな。


あ、でも俺とドMを一緒に考えるなよ。


魔族の国はかなり広いが、魔王の城に向かって飛ぶ龍は、攻撃されなかった。


魔王城とか、ゲームかよ、勇者の守備範囲だろ。



城の手前で地上に降りて、ディアスが人化した。

銀龍の来訪は伝わっていたらしく、丁重に案内される。


玉座の間に案内されたが、そこにいたのは見た目10歳くらいの幼女。

魔族だから肌は緑色、羊のような角もある。

それを除けば美幼女だ。



で、ディアスが何の用事があるのか聞いてなかった。


「シャーリーン姫、魔王の容態は?」

「苦しいのに頑張っています」

「ディアス、魔王が病気か何かなのか」

「そうです。龍は世界のことを見守る存在故に、気がかりでしたぞ」

「何だよ、世界が分かるなら俺なんかに負けなかっただろ」

「封印されていたから分からなんだ」

「銀龍、そちらの方は?」

「エリック殿は人間ですが、魔王の病を治せるはずです」

「は?俺がか?」

「本当に?ならばお願いします」



ちょっと待て、何故俺だよ。

しかも最初からちゃんと話せよドM龍。


「エリック殿は全ての属性魔法が使えます。しかも同時に発動できるのです。更に守りの宝珠も所持しています」

「私には難しい話は分からないです。治癒の者たちに話を」

「こちらで待ちますか?」

「私の権限で、奥へ参りましょう」


案内されながら文句を言う。


「ちゃんと最初に説明しろよ」

「細かい話は我にも分からんのだ」

「治せなかったらどうすんだよ」

「恐らく大丈夫であろう」



奥まった部屋に、魔族の治癒師たちがいた。

魔王の病気はよく分からんが、薬の材料に闇と聖属性魔法を決められた割合で同時に一定時間かけなければいけないらしい。


魔族は聖属性が苦手だ。

そりゃ苦労するわ。


言われた通りにちゃちゃっと調合。

薄緑の液体ができた。


1日3回4日分。

12本の小瓶に分けられ、早速治癒師が魔王の元へ向かおうとする。


「お待ちください。エリック殿、守りの宝珠を彼らに」

「あー、なんか使うと消えちゃうやつ。あんなもんでいいのか。1個?もっと要る?」

「そのような貴重な魔道具を、惜しみなく下さるとは、1つで充分です」


迷宮の宝箱から出た魔道具だけど、命の危険がある時に守ってくれるらしい。

1回だけで壊れるし、強敵相手だと意味無いと思う。


「薬を飲まれたら、最初は容態が悪化するはず。1日経てば快方に向かわれるでしょう」

「では、早速。ありがとうございます」



魔王の病気が治るまで、城に滞在することになった。

魔族は500年くらい生きるらしい。


シャーリーン姫は人間なら10歳だが、本当の年齢は聞けない。


4日間、話した魔族はいい奴らだった。

肌は緑とか青とか紫とか、角も生えてる。

だけど今のところ変態はいない。


姫は美幼女だけど駄目だった。

専用のお仕置き部屋で、部下をお仕置きしてたから。



魔王の病気が快癒して、宴が開かれた。

魔族のご馳走は美味しかった。


魔族いい奴らじゃん。

何で勇者が討伐したりするんだろうな?


結局1週間滞在して、また世界を巡る旅に出る。

で、何故か姫が付いて来ることに。


「俺、1人がいいんだけど」

「ディアスもいますよね」

「いや、勝手に付いて来ただけだし」

「では私も勝手に付いて行きます」

「俺、瞬間移動で適当に飛ぶし」

「エリックの魔力は覚えましたから追いかけるのは簡単です」

「チッ」



それでも、俺は正常で楽しい転生生活を目指している。



ドM龍とドS魔族姫(幼女)を連れているがな。


魔族姫も人間に擬態できる。

でも幼女にしか見えない。  


また世界中を巡り、迷宮を見つけては踏破。

紛争や戦争に介入したら勝つし、元いた国も無事に姫が結婚したから、たまに帰ることもある。


姉2人とロビン兄さんも結婚した。


俺は結婚なんてできそうにないけどな。


戦う度に、勝手に付いて来る奴らが増えたしお金も増えた。

だから家を建てることにした。


魔族の国と人間の国々の間にある、誰のものでもない場所に、思い切って大きな屋敷を建てる。


防音対策は特に念入りにして、屋敷が完成する頃には、建設工事のために小さな町ができてた。


勝手に付いて来た奴らをみんな、屋敷に住まわせて、適当に生活してたら、町が大きくなっていった。


井戸を掘ったり、川から水路を引いたり農地を作ったりは魔法でやったけどな。


夜の街は発展が早くて、どの様な方でもご満足いただけるらしく、町は街へと発展した。



俺は街を適当な奴らに任せ、まだ世界中を飛び回り、冒険者を続けた。


帰る度に付いて来る奴らがいたし、街もえらく大きくなっていた。


勝手に増えた奴らは変態だが、それぞれの役割では超一流だった。

俺が居なくても、街を治める仕組みはちゃんとできていた。


俺、やっぱ1人でどこか行ってしまうか?

ああ、ドM龍と幼女姫からは逃げられないのか。


そうそう、ドM龍は龍の国から結婚相手を見つけて来た。

仲良さそうだからお互いにいい相手なんだろうな。


俺の街と、魔王城とか他の国の主要都市は転移魔法陣を置いて、みんな好きに行き来できるようにした。


夜の街も人気だが、バトルジャンキー用に、死なない限り回復できる魔道具を備えた訓練場が、見世物として流行るとは思わなかった。


俺は普通に楽しく生活したかった。


これは普通に楽しいのだろうか?



そのうちに、各国から、国として独立を認めたいと打診され始めたが、お断りした。


また冒険に飛び出して、毒の魔境で女性を助けた。

父親の病に効く薬を求めてたらしい。

病の父親多くねぇ?


それでまた父親を治したら、やっぱり娘が付いて来た。



色白で大人しく、清楚な美人さん。

アルメリアというその人に、ちょっとクラっときた。


いや、今まであまりにも色々過ぎて、癒しが欲しかったからな。


慎重に観察を続けて、変な性癖が無いかとか調べたよ。


怪しいところは無かったし、父親も変態じゃなかった。

やっと俺にも婚約者ができた。




婚約して1年、この人なら大丈夫だと思い、結婚へ。

普通の幸せがあれば、もう周りはいいや。


沢山の人から祝福を受けて、結婚式から披露パーティーに、今日は変態どもも許してやろう。


街中が大騒ぎするなか、夜も更けて、俺はアルメリアと寝室に入り寛ぐ。


ソファーに並んで座り、肩を抱き寄せる。


「アルメリア、君に出会うまでの時間は、君に会うためにあったんだ」

「私もよ、エリック」


照れ臭いこんな場面、あり得ない気分だな。

美しいアルメリアに見惚れる。


「エリック、これから長い時を共に過ごしましょう。父の薬で分かっていても、私を愛してくれる愛しい人」

「ああ、共に過ごし、て、父の薬?」

「あれは人の血の代わりになる薬。お分かりだったのでしょう」


アルメリアの可憐な唇が、俺の首筋に向かう。


「アルメリア、待った、ストップな」

「あら、恥ずかしいの?」


俺の背中に冷や汗が流れる。


「まあ、その、何だ、ゆっくりいこうな」

「ふふ、また魔境に咲く花から薬を作ってくださいね」



俺の正常で平和な転生生活は、今、美しい吸血姫に脅かされ始めた。


































































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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです♪ とても読みやすく設定も良かったです( *´艸`) 皆、何かしらの個性は持っているものですが 主人公の場合は超個性的を引き寄せるんですかね(笑) 引き寄せるも何も実家がカオ…
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