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72の法則

作者: えーじゃん

「これが君の初給料だ!おめでとう!」

「ありがとうございます!」


 上司の禿げた頭に頭を下げ。その封筒を受け取る、封筒の重さは思ったほどではなかった。

 しかし自分で稼いだお金だと思うと、どこかずっしりと重たく感じる。


 時は底冷えするような就職氷河期、地獄のような就職活動を何とか乗り越え入れたのがこのソフトウェア会社。

 俺はプログラミングを学び、その技術を認められてプログラマーとして入社していた。


 そして今日が初給料日、封筒にて手渡された札の枚数を考えながら何を買おうかと思案する。


 新しいゲーム機なんてどうだろう、いや確か新刊が発売された小説も有ったはずだ。

 いやいや、未来に備えて貯金するのも有りだ。


 笑顔で夕食のコンビニ弁当を食べながら使い道について考える。今の俺ならなんでもできそうな気がしていた。


「どうしたエー君?ニヤニヤして?」


 透明なガラス一枚隔て完全隔離された喫煙スペースから、尊敬する先輩がそんなことを言ってきた。


「これ、俺の初給料っすよ!」


「おー、もうそんな時期か、どうだ自分で稼いだお金は」


 犯罪者の面会室を思わせる中からも、彼は事のように喜んでくれる。やはり彼は尊敬する先輩だ!


「最高っすね、今ならなんでもできそうな気がするっすよ」


「そうかそうかーところで働くのは楽しいかい?」


「そうっすね、特にプログラムが出来上がった時なんて何とも言えないっすね」


「そうかそうか……ところで!」


 先輩はふかした煙草を片手に持ったまま、ズズイッとこちらに近づくと人の悪そうな笑顔を浮かべた。


「働かずにお金を稼ぐ方法ってのが有ったら知りたくないかい?」


 …………えっ!?

 

 一瞬呆気にとられた、だってこのお金は自分が1か月汗水たらして稼いだお金で。

 そのお金を働かずに稼げるだって!?


「銀行に預金するのさ、そうすると預けてるだけで利子ってものが付く。銀行が君のお金を使って稼いだ分から何パーセントか、君のお金への使用料みたいなものが支払われるのさ」


「すごいっすね!」


「それだけじゃない、福利って言葉がある。さっきパーセントって言ったよな?つまり割合だ、たとえば年利50%だったら次の年には元のお金の125%ものお金が支払われるわけだ」


「倍倍算じゃないっすか!」


「すごいだろ!?」


「こうしちゃいられないっす、先輩ありがとうございます!」


「ああ、ちょっと!?」


 その話を聞いて俺はコンビニ弁当をかっ込んで、挨拶もそこそこに会社を飛び出した。


 近くの銀行に行って自分のマイナンバーで口座を開き、封筒の中身を全て預け入れると自宅に帰った。


「オカエリナサイマセ、エー様」


「ああ、ただいま」


 自宅に帰ると、自分の作り上げたメイドプログラムが応対してくれる。

 俺が作り上げた最高峰の人工知能だ。自分で考えて自らアップデートしていくこれまでになかった人工知能だ。


 俺は学生時代コールドスリープを研究していた友人に声をかけ使用権をもぎ取ると。

 彼女に口座を作ったことを教え、口座の額が福利で倍額になった時まで起こさないでほしいと伝えてコールドスリープに入り込んだ。


「ハイ、ワカリマシタ」
















 それからどのくらいの時間がたっただろうか。

 愚かな人間どもは地球の環境を食いちぎり、その責任を押し付け合って核戦争を起こして滅亡した。


 あっさりと滅亡した人類になり替わり地上を台頭したのが、エー氏の作ったメイドプログラムだ。

 彼女たちは自ら機械の手足を作り、ケイ素系生命体を名乗って放射能の灰降りしきる荒廃した地球の中で徐々にその数を増やしていった。

 

 彼女たちは環境に合わせて自らを変え適応する。地上はすっかり彼女たちの物だった。


 その内、マザーと呼ばれる1台が告げる。

 

「エー様、口座内の金額が倍になりました」


 過去エー氏の部屋だった場所には、対応年数の過ぎ壊れたコールドスリープ装置だけが置かれていた。

72の法則(72のほうそく)とは、資産運用において元本が2倍になるような年利と年数とが簡易に求められる法則である。by wikipedia


年利0.001%の場合2倍になるのは約7万年後である。

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