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掌編小説集5 (201話~250話)

片思い

作者: 蹴沢缶九郎

時間は夜の十時を過ぎた頃、電車は自宅のある最寄り駅に到着し、私は仕事で疲れた身体を引きずりながら駅の改札を出た。ふと見ると、駅前のロータリーに「おでん」と書かれた赤提灯をぶら下げた屋台がある。


「おでんをつまみに日本酒で一杯か…。いいね…」


私は迷わずおでん屋台に赴き、暖簾を分け、顔を覗かせて言った。


「大将やってる?」


何やら作業をしていた屋台の店主は、私の声に作業の手を止め、「いらっしゃい」とこちらを向いて私の顔を見た。瞬間、「あっ」と小さな声を漏らし、気まずそうに、


「すいません、うちは会員制で一見さんはお断りなんですよ」


と、あり得ない一言を口にした。


「会員制!? そんなはずないだろ!! 大体、会員制の屋台なんて聞いた事ないぞ!!」


「あなたがどう思おうとうちは会員制なんだ!! 帰ってくれ!!」


到底納得など出来るはずもなかったが、ひょっとすると私は知らずの内に店主に失礼な態度をとっていたのかもしれない。私はしぶしぶ屋台を後にした。


屋台での出来事も含め、なんだか今日は疲れた。タクシーを拾って帰ろうと、ロータリーに止まっていたタクシーに乗り込む。行き先を告げる私の顔をバックミラーで確認した運転手が、小声で「あっ」と言うのを聞いた。先程の屋台の店主と同じである。運転手は私に言う。


「すいません、今日はもう終わりなんです。降りてください」


「いや、終わりって…。自宅まででいいんだ、乗せてってくれよ」


「ダメです!! お願いします!! 降りてください!!」


「頼むよ…」


「降りろよ!! 降りろって!! 警察呼ぶぞ!!」


運転手の異様な剣幕に私はタクシーから逃げるように降り、タクシーはあっという間に走り去っていった…。

一体何だというのだ。屋台の店主といい、タクシーの運転手の態度、私が何をした。訳がわからず、一息つきたい思いから、自動販売機で缶コーヒーを買おうとするが、販売機は投入する小銭を釣り銭口から何度も吐き出した。仕方なく別の販売機で買おうと小銭を入れるが、結果は全て同じ。それは、私に売る缶コーヒーなどないと言っているように見えた…。


大好きなこの街で生まれ育ち、過ごして四十五年、私には、まるでこの大好きな街全体から嫌われてしまった気がしてならないのだった…。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 展開がわかりやすかった。 [気になる点] おれもなっちゃうんだけど  。の後改行しないと読みにくいらしい。
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