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初投稿失礼します。
この話、小説の起承転結のいろはなんて全く、作者の考えている内容をも無視して主人公が独走しはじめる気がしてなりません。オソロシヤ。
不定期更新になるとは思いますが、生暖かく見守ってくだされば幸いです。
あの本も、この本も、物語っていつも最後はだいたい同じ。
『竜に攫われたお姫様を、王子が救い出してハッピーエンド』とか『魔王を倒した勇者が姫様にプロポーズしてハッピーエンド』とか。
でも、それって本当にハッピーエンド?
つり橋効果でときめいて、相手をよく知りもしないで嫁ぐなんて、本当に幸せなのかしら。『ハッピーエンド』のその先の、語られない人生って。
性格知らないで結婚して、後で後悔したって話しはいくらでも聞くのに、物語のお姫様は会って間もない人に、『素敵!結婚して!』ってなるのは軽率すぎると思うのよね、私。
ぶっちゃけ私は物語のお姫様が大嫌い。自分は弱いから誰か助けてって泣いているだけ、ただ王子や勇者が幸せを運んでくるのをまっているだけで、自分は何もしやしない。
っていうか、そもそも普通、竜になんか攫われる?知能の高い竜は人の姿になるとも言われているのに、例え一目惚れしたとしたって、空を飛ぶトカゲの姿で攫って何のメリットがあるのよ。恐がられて嫌われるのを、普通なら避けないのは不自然すぎるし。それを踏まえて考えるなら、お城を襲撃するような竜なんて、普通の獣よりちょっと知能が高い程度の動物でしょう?攫う前に一飲みよ、一飲み。ペロッと一口で平らげられちゃうとは思わない?お持ち帰りにしたとしたって、下町のお父さんたちが家族にお弁当をテイクアウトしていくようなものだろうし、何ヵ月も旅をして強くなって助けに行くなんて、普通その頃には餓死しているか既にお腹の中で消化されたあとだと思うのよ。
それに、魔王にしても竜にしても、一回の襲撃で普通に王都くらい滅ぼせる力があるというのにわざわざお姫様だけを奪っていくとか阿呆なのかしら。って、別に私は魔王や竜に攫いにくるくらいなら王都を滅ぼせなんて思っているわけじゃ無いけど。
なんにせよ、本当に物語のお姫さまは楽観的すぎるのよ。いつか運命の王子様が私のことを迎えに来てくれる、なんて悠長なことやってたら、政略結婚にしろ何にしろ、気立てのいい優良物件な相手なんて直ぐに売り切れて、自分だけが売れ残りになるなんてことになったら目もあてられない。行き遅れだなんだって後ろ指さされて笑われる前に、自分でも好意云々差し置いて候補を見繕っておかないとダメよ、ダメダメ。
…まぁ、見繕っておいたとしても、自分が決めた相手と結ばれたほうが幸せに違いないけれど。
とある城の一画にある厩舎。そこで1人の少女が藁山の上に腰掛け、本に目を通していた。…いや、読みながら考え事に耽っていると言ったほうがいいかもしれない。どうも、先程からページは捲られていないし、そもそも話しの結末の一文に目を止め、眉をひそめてているだけなのだ。
ところで彼女、どうしてこんな場所で読書もとい考え事に耽っているのだろうか。平凡な顔立ちだけをみれば、厩舎の管理に雇われている小間使いの一人にも見え無くもないのだが、妙に仕立ての良い乗馬服を着ているのだから、そうではないのはパッと見でも気付けるものだろう。
「姫さま!何処におられますか姫さま!」
不意に遠くにそんな声が聞こえ、本を片手に思考の海にどっぷりと使っていた彼女…ベリル・エーデルシュタインは、聞こえてきた声によって現実に引き戻され、面倒ね、と小さくつぶやいた。
とびきり美しい絶世の美少女でもなければ、目もあてられないようなへちゃむくれでもない。と、見た目は何処の町にもいるような、良くも悪くも平凡な彼女。その実、魔法や自然と調和して生きる国、ビジュエルにおいては案外重要なポジションにいる人物だったりする。
ビジュエル王国第一王女、正統王位継承者。それが彼女の肩書きである。
…まぁ最も、冒頭で物語のお姫様を否定するくらいには、物語のお姫様とかけ離れているのだけども。ああ、現在声を枯らして彼女を探しているのも、姫遣えの侍女の一人である。
…それはさておき、先程からドタバタと駆け回っているらしい声の主がへばってきているのは気のせいではないだろう。なにぶん普通の姫君より、ベリルの行動範囲が広すぎるため捜すのは一苦労になってしまうのだ。…別にベリルにしてみれば、隠れているつもりはさらさらないのだが。
「姫様ー!」
時折、喘息のときのようなヒューヒューとした呼吸音が混じっているあたり、少々哀れな気もしてくる。しかし、
「コーラルったら運動不足ね」
明日から朝の体力作りに同行させようかしらと見当違いに、一介のメイドに求める必要のなさそうなことをベリルは考えていたりするのだから、少々どころではなく哀れというか気の毒である。
肩で息をついている侍女がベリルの元にたどり着いたのは、それから10分ほどあとのことであった。
「はぁ…はぁ………こ、こんな所にいらしたのですね姫様…。ヒュー…どうして厩舎なんかに…?ヒュー…」
「馬術のあとにオブシディアンが興奮したから、落ち着くまで傍についていただけよ?コーラル…ちょっと安静にしないかしら。」
「…す、すみません…」
因みに、オブシディアンというのは黒鹿毛の美しい3歳の牝馬のことで、ベリルの愛馬である。余談だが、調教師には月毛<パルミノ>と呼ばれる金色と称される毛色の馬や白馬を奨められていたのだが、出産にも立ち合えた子がいいと言って黒馬に乗っているベリル。…オブシディアンが育つまでも父オニキスや母ブラックパールに好んで乗っていたので、出産に立ち合えたからと理由はつけてはいるが、単に彼女が黒馬好きなだけなのだろうが。
「ところでコーラル。それで、何の用事なのかしら?」
侍女が大分落ち着いてきたのを見計らい、ベリルは訊ねた。