交渉7
バスローブをはぎ取られたら、下着しか着ていない。
青年の前でそんな恥ずかしい姿をさらすのは、何としても避けたかった。
そもそも、青年がサラの下着姿だけで満足するはずがない。
あまり考えたくないことだが、青年はサラにその先のことを望んでいるのだろう。
――だ、駄目です。やっぱり、駄目です!
青年との行為を想像し、サラは顔を真っ赤にする。
そういった行為の経験のないサラは、いくら青年が相手でも抵抗があった。
――駄目です。絶対駄目です。わたしにはまだ早過ぎます。だって、わたしはまだ学生ですから。学生の本分は学業ですから。こ、こんなこと、まだ経験しなくていいんです。 知らなくていいんです。
サラは心の中で叫ぶ。
麗しい花のつぼみが花開くのはまだ遠く、サラの決心も固かった。
「と、とにかく、駄目ですから! 駄目なものは、駄目ですから! 兄さまも、いい加減諦めてわたしの上からどいて下さい!」
「えぇ~、折角弟君がいない貴重な機会なのに、それはないよ。二人っきりの時って、案外少ないんだよ? だって、君の側にはいつも怖~い弟君がいるからさ。おれがわざわざ弟君を君のそばから引き離すように計画したのに。それだって全部、君と二人きりになるためなんだよ?」
青年はサラの上で子どものように唇を尖らせる。
サラはぴしゃりと言い返す。
「いくらおっしゃっても、わたしは兄さまと今現在、こういった関係を結ぶつもりはありません。兄さまがわたしを思うお気持ちは嬉しく思いますが、今はそれをお受けすることは出来ません」
サラの言葉にも、青年は動かない。
不敵な笑みを浮かべる。
「じゃあ、力ずくでしか、もう方法はないのかな。どうせなら両者の合意の上にしたかったけど。残念だなあ」
青年は大仰に悲しんでみせる。
その言葉にはまったく感情がこもっていない。
そもそもサラの話を聞こうと言う姿勢がまったく感じられない。
サラの上からいっこうにどこうとしない。
――こ、この人に、何を言っても、もう無駄なのね。
サラは青年の子どもっぽい態度に呆れつつ、どうにかして青年の下から逃げる方法を考えていた。
以前、弟に教えてもらった護身術を思い出す。
弟は実際の場面を想定し、手取り足取りサラに指導してくれた。
何者かに組み敷かれた時の対処法も教えてくれた。
サラはその時のことを思い出すために、じっと考え込む。
それをサラが観念したと受け取ったのか、青年は上機嫌で顔を近付けてくる。
「ようやくおれの魅力に気付いたみたいだね、オリガ。何も心配することはないよ。初めてでも、恥ずかしがることはないんだよ」
生温かい息が鼻先に吹きかけられる。
青年の体がサラにもたれかかってくる。
バスローブを付けたサラの胸の上に、着ている服を通して青年の厚い胸板が押し付けられる。
――ひいいっ!
青年の体の感触に、サラは全身に鳥肌が立つのを感じる。
思わず全身が強張る。
頭が真っ白になる。
焦る気持ちばかりが優先して、何も思い出せなくなる。
サラは必死に記憶の糸を手繰り寄せる。
――お、落ち着いて。落ち着くのよ、わたし。落ち着いて対処すれば、何も怖いことはないんだから。
そこに至ってようやく弟に教えてもらった護身術を思い出す。
――ま、まずは、相手がどんな姿勢か、確認するところからだったわよね。
そう思い、サラは青年の下で身じろぎする。
と言っても、青年は体に密着しており、サラの体を動かすことはあまり出来なかった。
ベッドの上で両足の膝から下が、かろうじて動かせるだけだ。
サラの両足は閉じてあったので、青年の足はその両脇で開いているはずだった。
相手が男性の場合は、急所を蹴り上げるのが有効だと、弟は言っていた。
しかし相手の急所は、サラの体に密着しているので、蹴り上げることが出来ない。
そのためには青年に体から離れてもらうしか方法はない。
――問題は、どうやって兄さまに離れてもらうか、だけど。
サラはその方法を考えあぐねる。
他にも肩や頭を使った護身術もあるのだが、ここまで密着されてはそれも出来なかった。
「オリガ。おれの可愛いオリガ」
耳元で青年の荒い息遣いが聞こえる。
その直後、サラの唇が塞がれる。
「――!」
青年はサラの頬に手を添え、その唇を吸う。
サラの心臓が跳ね上がる。
顔だけでなく、首筋までも真っ赤になる。