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交渉  作者: 深江 碧
6/14

交渉5

「や、やっぱり駄目です! み、未婚の男女が、同じベッドで夜を過ごすなんて、やっぱり駄目です!」

 我慢できず、サラは大声で訴えた。

 青年にベッドに押し倒されてたまま、混乱しつつも精一杯の力で押し返す。

「そ、その、やはりわたし達は、甥、姪の関係ですし、結婚もしていないのですから、こんなことは許されないと思います!」

 サラが青年の下で大声で訴える。

青年の体を精一杯押しても、びくともしない。

 のしかかられた姿勢のままでは、目の見えないサラには、明らかに不利だった。

 青年は声を立てて笑う。

 ひょうひょうとして答える。

「えぇ~、今更それを言うのかなあ。元々おれ達は婚約者同士だっただろう? 将来を誓い合った仲じゃないか」

 青年に言われ、サラは口ごもる。

「で、でも、あれはそうしないと、あなたのお兄さんに対抗できないから、一時的に婚約者のふりをしていただけでして。ほとぼりが冷めたら、婚約は解消すると、あなたもあの時言っていたじゃないですか!」

「さあ、忘れたなあ」

 青年は悪びれもなく答える。

 サラはショックを受ける。

「そ、そんな」

 青年の体を押し返している手から力が抜ける。

「君だって、おれが君のためにと思って保護してあげたのに、その後行方をくらませているじゃないか。君がいなくなって、おれがどれだけ心配したか」

「そ、それに関しては、申し訳ありません。わたしもあの時は事情がありまして」

 返す言葉もない。

 青年はサラに顔を近付けてくる。

「事情って、弟君のことだろう? そう言えば、今回は弟君はついて来ていないみたいだけれど。あの、くそ生意気な、弟君は元気にしてる?」

 青年は、くそ生意気、というところを強調する。

 弟の話題を振られ、サラはひと時、自分の置かれた状況を忘れる。

「あ、はい。元気にしています。あの時は、ありがとうございました。弟のことに関しては、本当にあなたには大変お世話になりました。そのことは、あなたにいくら感謝してもしたりません」

 表情を和らげ、答える。

 すぐに自分の置かれた状況を思い出し、顔を引きつらせる。

 青年は人懐っこい笑みを浮かべる。

「やっぱり君は笑っている顔の方が可愛いよ。出来ればおれにも心を開いてくれるともっとうれしいんだけどなあ。弟君に対してのように、素敵な笑顔をおれにも見せてよ」

 青年に可愛いと言われ、サラは顔を赤らめる。

「か、可愛いだなんて。そんな、わたしは、そんなことは」

 可愛いと言われて、サラもうれしくない訳ではない。

 もちろんうれしいのだが、青年の前で態度に表わすのが気恥ずかしかった。

「あ、アレクセイ兄さまこそ、いつも、素敵で、格好良くて」

 サラは小声でささやく。

 顔を赤らめ、恥ずかしそうにしている。

「アレクセイ兄さまのように振る舞えたら、と、わたしはずっと憧れでした」

 夜会での青年は、常に堂々として、人当たりも良く、サラにとっての一つの目標でもあった。

 青年を見かけるたびに、目を奪われずにいられないあの華やかな雰囲気は、サラにとっては得難いものでもあった。

 そのため、青年には自分にはない一種の憧れを抱いてもいた。

 青年はサラの耳元でささやく。

「オリガにそう思われていたなんて、うれしいね。でも、おれのことをそう思っているってことは、君がおれを好きだと受け取っていいのかな?」

 青年はサラの紅潮した頬を撫で、白い首筋へと降りてくる。

「君の好意を期待してもいいのかな?」

 青年の手はサラの首筋を滑り、バスローブがはだけてあらわになった鎖骨へと触れる。

 サラは息を飲む。

「そ、そういう、つもりで言ったのではありません!」

 サラはぴしゃりと言い返す。

 青年は困ったように笑う。

 まるで聞き分けのない子どもに諭すように話す。

「だって、そうだろう? おれに憧れていたってことは、嫌いではないってことだろう? それにおれたちはひと時だけど、婚約者同士だった。本当におれのことが嫌いだったら、婚約者になるのさえ嫌なはずだ。おれのことが心から嫌いだったら、君はどんなことをしても婚約者になるのを拒んだはずだ。そうじゃないのかい?」

「そ、それは」

 青年の話には筋が通っているような気がして、サラは言葉を失う。

 ぐっと唇を引き結び、黙り込む。

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