交渉4
カルロは通訳士のエレナ、身辺警護の総責任者のデイヴィッドと一緒に、今回の夕食の交渉の予定について話していた。
本来は今回の主賓であるサラも一緒に話に加わるべきなのだが、彼女は長旅で疲れているだろうと思い、カルロが遠慮したのだ。
それに前もって予定を話してあるし、サラは以前の経験からこういった場所に慣れている。
そのためカルロはあえて会談直前まではサラをそっとしておいた。
カルロは会談をする食堂の図面を片手に、テーブルの席順を確認する。
「今回の会談では、聖イストア皇国の財閥の副総帥の呼びかけで、その国の経済関係者が集まります。ただ、副総帥はあくまで発起人と言うだけで、中立の立場を取るようで、後は我々が経済関係者に呼びかけて会談を持つ、ということしか」
エレナとデイヴィッドの二人は、おおよその予定は前もって聞いていたが、今回はイストア側からの提案だったので、どこでどのような交渉がなされるのか、詳しい場所などは事前には知りようがなかった。
「そういう訳だけど、今回は急に予定だったから。こちらも事前に準備できなかったし、手落ちの面は多々あると思う。何か気になるところがあれば、遠慮なくどうぞ」
夕食の席の予定を一通り説明し終えたカルロは、黙って聞いていたエレナとデイヴィットの意見を尋ねる。
デイヴィッドが手を上げる。
「警備の面から言うと、この東向きのガラス窓は不用心ではないのか? この窓の側に我々の席があるのは、暗殺者に我々を狙ってくれと言っているようなものだ。今回の集まりが公式はなく、秘密裏にとり行われる以上、相手を疑ってかかった方がいい」
次いでエレナも意見する。
「私もデイヴィッドに賛成。確かにこの国境の街は、ラスティエ教国に属しているものの、イストア人の住民も多いわ。この街の中であれば、行き来も比較的楽にできる以上、用心に用心を重ねた方がいいと思うわ。この交渉が相手側からの提案であるために、私たちには時間も、選択の余地もなかったしね」
カルロは渋い顔でうなずく。
「それを言われたら、痛いところだね。でも、この提案を飲むしか方法がなかったのが、我々の痛いところだね」
肩をすくめ溜息を吐く。
「そもそも、この交渉もサラさんのつてがなかったら実現していないところだから、イストアと交渉に持ち込めただけでもいいとしないといけない」
カルロの言葉に、二人は顔を上げる。
「どんな小さなことがきっかけで、二国間の和平に繋がるかもしれませんしね」
「そうだ。国のためにも、これからのためにも、我々がここで彼らと交渉することは、必要なことなのだ」
エレナとデイヴィッドは真剣な顔でうなずく。
「そのためにも、今回の交渉は何が何でも成功させないといけない」
カルロは二人の顔を順番に見て、大きくうなずいた。