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お憑きの人

 変な夢を見た。

 それだけで体調を崩す私の体は中身の性格に似合わずとても繊細らしい。


「この場合myの後には前置詞……」


 頭がくらくらし気分は悪く、講義の内容がまったく頭に入ってこない。

 工業大学でも英語は必修だということに入学してから絶望した私だ。このままでは非常にマズイ未来が訪れてしまう。


「……じゃあ今日はここまで。この辺りは皆も高校でやってるはずだから、次々先にいくぞ」


 まったくやった覚えが無いのは学校のせいか私の頭のせいか。

 まあ間違いなく私の頭のせいだろう。


「佐倉さん。この次講義入ってないよね?」

「……?」


 椅子から難儀して立ち上がったところで、聞き慣れない声をかけられた。


「少し話があるんだけど」


 振り返ったそこに居たのは、五十嵐さんの取り巻きの一人であるビジュアル系崩れみたいな頭をした金髪の男子。

 嫌なタイミングで嫌な人種がきた。

 そう思いながらも断りきれず、私はズルズルと学内のカフェに引きずられていった。



「何でリンカさんを避けるの?」


 カフェに着き注文したものが届かない内から、金髪はそんな事を聞いてきた。


「……はい?」

「リンカは佐倉さんを気にして声をかけてあげてるのに、佐倉さんはいつも逃げてるだろ。リンカに失礼だと思わないの?」


 失礼といえば失礼だが、その事について五十嵐さんが文句を言うならともかく何故におまえがしゃしゃり出てきた。


「佐倉さんっていつも一人だし、リンカもそれに同情して話しかけてるのに無視までして、少しは……」


 うざい。

 大体私が五十嵐さんを避けるのは生理的に受け付けないのもあるけど、最大の理由はこいつらみたいな人種が面倒だからなのに。


 お節介な人間はそれが大きなお世話だと微塵も思わず正義の仮面を着けて人を傷付ける。

 私と五十嵐さんの問題に助言するならともかく首を突っ込む資格なんて他人には無いのに。


 ああ、気分がさらに悪くなってきた。いっそこいつ目掛けてリバースしてやろうか。


「どうせ佐倉さん友達居ないんだろ。折角リンカが友達になりたがってるんだから……」

「残念ですが」

「……は?」


 不意に金髪の言葉をを遮るように、よく聞き慣れた安心できる声が響いた。


「佐倉さんにも友達は居ますよ。ねえ佐倉さん?」


 いつの間にか椅子の背に手を置いた一ノ宮さんが、ニッコリと微笑んで私を見下ろしていた。


「……一ノ宮!?」

「はい。そういう君は桐生くんでしたか。今日は五十嵐さんは体調不良でお休みらしいですが、お見舞いに行かなくて良いんですか?」

「な、本当に!?」

「嘘をついてどうするんですか」


 呆れたような一ノ宮さんの言葉を聞き終わらない内に、金髪は椅子を蹴倒すように立ち上がると走ってカフェを出ていった。

 私はお礼を言おうと一ノ宮さんへと振り向こうとしたが、こみ上げた吐き気を抑えきれずテーブルに突っ伏した。


「……?」


 おかしい。いつもなら一ノ宮さんがそばに来たら気分は良くなっていたのに。頭痛はおさまらず、胃は酸を放り込まれて焼きただれたみたいにシクシクと痛み続けている。


「……良くないものを拾ってきましたね」


 一ノ宮さんが何やら呟くのが聞こえると同時、背中を暖かい手で撫でられる。


「……?」


 するとそれまで頭が割られたみたいに苛んでいた頭痛は嘘みたいにおさまり、胃も少しムカツキが残るものの痛みは和らいでいった。

 一体何故と悩んでいると、背後に居た一ノ宮さんが一つため息をついて隣の椅子に腰かけた。


「はらっておきました。本体ではなく思念の残り香のようなものですから、少しすれば気分もよくなるはずです」

「……え?」


 払った? 祓った?

 何を? というかどうやって?


「……一ノ宮さん見える人ですか?」

「見えるといいますか一応本職ですね。お祓いは頼まれたらやる程度で本業ではありませんが」


 お祓いが副業な仕事? まさか一ノ宮さんは僧侶なのかと思い頭を見てみるが、その烏の濡れ羽色な黒髪がカツラとは思えない。

 そんな事を考えながら頭をガン見する無礼者な私に、一ノ宮さんは苦笑しながら言う。


「実家は神社ですよ。後を継ぐことも決まっていて、そのための資格も得ています。そのせいでこちらの大学に入るのが遅れたんですけどね」


 神社を継ぐ……ということは一ノ宮さんは男性?

 いや、最近は女性の宮司も居るみたいだし、男性だと決まったわけでは……。

 でも一ノ宮さん巫女服似合いそうだしなぁ、やっぱり女性なのかなぁ。


「さっきまで私は何に憑かれてたんですか?」

「憑かれたというのはいささか違う意味合いになるのですが、私に見えたのは――」


 ――黒髪の女性。


 そう告げられて寒気と共に脳裏を過ったのは、祖母がくれた人形だった。

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