ズササーッ、ゴロゴロゴロ……
「私が口移しに、飲ませて差し上げます」
そう言ってジョーンズはニターッと笑った。
いらんいらん、そんなもん。……さあて困ったぞ、会話のネタが尽きてしまった。もう次の瞬間にもヤツが飛びかかってくるかもしれない。
と、そのときドンドンッ、と大きな音が聞こえた。ドアを叩く音だ。
「シスター・ロバート、いらっしゃいますか! 返事をしてください!」
めっちゃデカい声がした。グレイン氏がアタシを呼ぶ声だった。続けざまにドアを叩く音がする。たぶん施錠されていて、こちらへ入ってくることができないのだろう。
「おや?」ジョーンズが不敵な笑みを浮かべて言った。「ずいぶんと発覚が早いですね。おかしいなあ、この建物の入り口もすっかり封鎖したというのに」
「そこを、どいてください」
アタシはダメ元で言ってみた。
「もし断ったら?」ヤツはアタシの台詞を真似た。腹立つわー。
はいはい、それなら強硬手段に出るまでです。アタシはテーブルの上のスープ皿を手にとって、その中身をヤツの顔にぶちまけた。
「ぎゃっ」
ジョーンズが怯んだ隙にアタシはドアへ向かって駆け出した。食堂の入り口までたどり着いて、思わず絶句した。
観音開きのドアが南京錠で施錠されている。鍵はたぶん悪魔が持っているのだろう。これではグレイン氏を中へ入れることができない。
「グレインさん、ロバートです。ダメです南京錠がかかっています!」
アタシはドア越しに叫んだ。すると彼は、
「ステンド・グラスを打ち破ります。下がっていてください!」と返した。
そして、がっしゃーん、という音とともにドア脇のステンド・グラスが飛び散った。パラパラと細かいガラスの粒を払いながら、グレイン氏が食堂のなかへ入ってきた。ワイルドだわー。
「怪我は、ありませんか」
彼は薪割り用の斧を持っていた。
「ええ……それより、」アタシは赤い汁まみれの彼女を指して言った。「彼女は悪魔に取り憑かれています。どうか彼女に手荒なことは、しないで」
彼女にスープをぶっかけたアタシが言うのもなんだが、斧で叩くのだけは勘弁してあげてほしい。なにせ身体はシスター・パトリックのものだ。
「わかりました」
彼はそう言って、赤い汁まみれのシスターを不審げに見つめていた。まあ、それはそうだろう。
アタシにスープをぶっかけられたジョーンズは、よろよろと動きながら、しきりに顔を手で拭っていた。悪魔にはタオルや衣服で顔を拭うという知恵(もしくは習慣?)はないらしく、いつまでもベタベタと要領の得ないことをやっている。とりあえず、アタシは救援を呼ぶ時間が稼げたので助かった。
「きみはまた、味なマネをしてくれるね!」
やがてジョーンズが憎々しげに言った。スープだけに味なマネか……誰が上手いことを言えと。だが、その目つきは極悪なものに変わっていた。
「……ほう、助けを呼んだのか。でも何人増えても同じさ」
ヤツはこちらへ歩み寄ると、いきなりグレイン氏に手を上げた。グレイン氏はもちろんそれを防ごうとした。ところがだ。
ものすごい勢いで彼の身体が弾かれた。食堂の床をズササーッという感じで彼が滑って行く。止まる前にグレイン氏はゴロゴロゴロ……と万歳した状態のまま数回転した。それで彼は動かなくなった。一撃だった。




