プロローグ
ここは冥界――。大魔王サタンの前に二匹の悪魔がしょっぴかれていた。
「おまえたち、いったい何やってんの? とくにトミー、おまえは二度も失敗しやがって」
サタンが先に叱ったのは、トミーという悪魔だった。
「申し訳ありません、閣下」トミーは平謝りだ。
「申し訳ありませんじゃねーよ。おまえの契約は『死の指名』だろう。しくじるほうが逆に難しくね?」
「それが……ちょっと、ややこしい状況になりまして」
「どんな?」
そこでトミーは、最初に狙った尼僧が奇想天外な指名をしたことを説明した。
「ううむ」とサタンは唸った。「その尼僧はジョーンズ、おまえを指名したというのか」
「はい。完全にとばっちりでございます」
ジョーンズという悪魔は、となりにいるトミーを睨みつけて言った。
「おまえがオレのテリトリーで、うろついているのが悪いんだろ!」
「おまえのテリトリーって、決まってないし!」
「やめろ、おまえたち」
サタンが制止するが、トミーとジョーンズは睨み合ったままだ。
「……で、指名されたおまえは、その後どうなっちゃったの? ジョーンズ」
「はい。契約の力によって死神が私に襲いかかってきましたので、急いで人間の体内に隠れました。ところが、」
「出られなくなっちゃったの?」
「……はい」
「あはははははははははは」
サタンが爆笑した。けっこう意地がわるい。
「はーっ、おかしい。でも出られたのは何故?」
「またしても人間の頓知でございます」トミーが口を挿んだ。
そしてトミーは、つぎに狙った看守が神父を指名したことを報告した。神父の体内にジョーンズが閉じ込められていたことも。
「えーっ、そういう場合って、どうなるの?」サタンが聞いた。
「契約によって死神が命を奪えるのは、一人だけ。ところが神父は一人であって一人ではない状態でした。体内にコイツがいたからです」
そう言ってトミーはとなりのジョーンズを睨んだ。
「好きでいたわけじゃないし。元はといえば、おまえの所為だろーが!」
「だから、やめろって」
小競り合いを続ける悪魔たちにサタンは切れた。
「気の毒なのは死神です。けっきょく、尼僧のときと合わせて二度、魂の捕獲に失敗してしまいました。契約では二度の失敗は許されない」
「へー、そうなんだ。それで?」サタンが促した。
「死神の力は失効しました。彼はしばらく神父の頭上をふよふよと漂っていましたが、やがて私を哀れんで、神父の体内から引っ張り出してくれたのです」
「いいやつだなー、死神。っていうか元死神」サタンが茶化す。
そのあとサタンは大きく咳払いをした。
「ともかく、だ。トミー」
「はい、閣下」
「おまえはもう失格」
「ええーっ!」
「そりゃそうだろ。冥界でも優秀な死神を無力化しやがって。……こいつを引っ捕えろ」
サタンの命令により、眷属たちがトミーを連行した。あとにはジョーンズのみが残された。
「……ジョーンズ」
「はい、閣下」
「わかってるな? 二度の失敗は許さんぞ」
ジョーンズは深く息を吸い、そして言った。
「肝に銘じます」