第四話:どうするよ?
宅地開発等でトンボをあまり見なくなりました。今年は蝉の声も例年より少ないような…。
プール清掃で絶体絶命と絶望していると、急に何かに体を持ち上げられました。持ち上がったと思ったら、小さな水たまりに落とされました。そこには次々と他のヤゴたちが入れられてきました。それから少し時間が経つと、その小さな水たまりごと持ち上げられ、移動し始めました。
その水たまりの事を『バケツ』というのだそうです。バケツに揺られること十数分、次はバケツごとひっくり返されてプールより小さい池に放流されました。なんとか無事に生き延びる事が出来ました。
それから暫く、幸い僕はザリガニなどの天敵がいない新居で特に何事もなく日々を過ごしました。
「そろそろこの体もキツイなぁ。そういえばここ数日何も食べてない」
ヤゴはトンボになる数日前から何も食べなくなる。このヤゴにもトンボになる日が近付いて来たのです。
「明日の天気は雨かなぁ。なら羽化できないや」
トンボは次の日の天気を予測して、羽化する日を決めます。
「おい!」
僕と同種で大きさも同じくらいのヤゴが呼び掛けてきました。
「お前もそろそろトンボになるんだろ?」
「えぇ、まぁ」
「今の皮、きつくない?」
「うん。きついよ」
「俺、今夜羽化しようと思うんだけど」
今夜は雨が降るような気が…。
「いや、今夜はやめたほうが良いと思うよ。きっと雨が降る」
「羽化しないと今の皮がきつくて体が出てきちゃうかもしんないだろ?」
それも一理ある。羽化しないとトンボの体が水中で出てきてしまって溺死も有り得る。でも雨の中で羽化したら羽根がぐちゃぐちゃになっちゃう。どうしよう…。
「俺はもう無理だ。羽化しないと…」
「でも…」
きっと雨は降る。でも僕の今の皮も限界だ。空は星一つ見えない曇り空。空気も何か違う。
「俺は行くぜ。一か八か。溺れ死にたくはないからな」
彼は羽化するために水面から顔を出しました。決意したようです。どうするよ僕? 決断の時は刻々と迫っています。