第三話:奇跡の存在
今回からはトンボのお話となります。
僕はヤゴ。トンボの幼虫。近年水質悪化や外来魚のせいですっかり数がへってしまったんだ。特にアメリカザリガニとプール清掃の影響は大きくて、後者の場合、誰かが助けてくれないと間違いなく全滅しちゃうんだ。僕が暮らしているのはシーズンオフのプールの中。このままだとトンボになれないよ…。
でもプールでの生活は食事に困らないし天敵も少ないんだ。僕たちトンボの仲間は肉食性で、生きている虫や小魚を主食にしていて、ここにはアカムシやミズムシなどが大量発生していて食べ放題だ。
でも気をつけなきゃいけない。トンボの世界に共食いは日常茶飯事。ここには僕より大きなシオカラトンボやギンヤンマのヤゴだって居る。それと、僕と同じアキアカネでも共食いはあるんだ。ヤゴは生まれてから脱皮を繰り返して大きくなっていく。脱皮したての頃は身体が黄緑色で柔らかく、敵に狙われやすいんだ。あと、人間と同じで身体の大きさには僅かだけど差がある。
いま僕は『終齢幼虫』っていってトンボになる直前の姿なんだ。後は最後の脱皮、『羽化』を残すのみなんだけど、このままじゃ水中でトンボの身体が出て羽化出来ないまま死んじゃう。
そろそろプール掃除の季節。
どうなっちゃうの僕!?
どうするよ僕!?
「お腹空いたなぁ…。とりあえず何か食べよう。あっ、アカムシだ!」
標的のアカムシにそっと忍び寄る。そして近づいたらアゴをサッと伸ばして口に戻す! これでも水中のギャングなんて呼ばれてるんだ。
「うわっ!? はっ、離して!! 痛い!!やめろおおお!!」
「抵抗すんなや雑魚!! 素直に食い殺されろや己!!」
食事は命懸けの決闘!! 抵抗されて噛み付かれたら逆に殺されちゃう。そこで登場するのがもう一匹の僕!普段の僕だと弱くて相手に勝てないんだ。
6月、とうとう運命なプール掃除の日が来た。流されないように排水溝から目一杯離れ、泥に身を沈めた。
「じゃあプールの水抜くぞ!」
とうとう排水が始まった。例え排水溝に流されなかったとしても拾われなかったら終わりだ。
水が凄い音で流れていく。火山の噴火口みたいな音だ。火山の音なんか知らないけど。
「うぁぁぁぁぁ!!」
「キャー!!」
「助けてくれー!!」
あちこちからそんな声が聞こえてきた。震えが止まらない。他のヤゴや虫たちがどんどん下水処理場に通じるブラックホールに流されていく。
中にはこんな声もあった。
「やだよ!! 折角今夜トンボになれるのに!! こんなのアリかよ!? 神様は夕焼け空を見る事すら許してくれないのかよ!? ただそれが見たいだけなのに!! くそっ! くそーっ!!なんでたよ…。なんのために頑張って生き残ってきたんだよーっ!!」
トンボは奇跡のような存在。殆どが幼虫の間に死滅する。産卵して子孫を残せるなんて夢のまた夢。何百万分の一だろう。僕も夕焼け空を飛ぶことすら許されないのかな…。
近年、あまりトンボを見かけなくなりました。
トンボは人間にとって有益な昆虫で、蚊や蜂などを食べて暮らす肉食昆虫です。オニヤンマに至ってはヒグラシを食べていたという例もあります。
トンボが住める環境は人間にとっても快適な環境なのです。羽をちぎったりして遊んだりザリガニの餌にするのはやめましょう。ザリガニはパンとか百円程度のザリガニの餌でも与えれば生きられます。




