ある日
私には好きな人がいる。通路を隔てた右の席に座っている小杉君だ。モテモテというわけではないけれど、誰にでも優しい。他の男子共の下劣な遊びにも参加しない。笑顔が素敵だし、高身長、そして学力もそれなりに良い。だんだん意識し始めて、学校にくると今日は早くきてるんだなあ、とか机の中整理してあるなあ、とか逐一気になってしまう。
今日は少しだけ早めに登校した。電車に乗ると、すぐそこに小杉君がいたのに気が付いた。どうしよう。話はしたいけれど、顔が温かくなっていくのがわかる。きっと私の顔は今頃真っ赤だ。しかも自然と口角が上がってしまう。こんなのじゃ話せない。必死に抑えるけど、全然直る気配はない。結局、降りる駅に着いてしまった。すると小杉君が出口に、私の方向に歩いてくる。こんな顔見せられないと思って、背を向けたけど、気づかれた。
「あれ、小寺じゃん。」
ちょっとパニックを起こした。
「あ、ううん、あっいや」
どんどん心拍数が上がって行く。脳内に浮かぶ単語が口に出る前に消えて行く。頭が真っ白になった。そのとき、電車のドアが閉まるベルが鳴った。
「あっ、ドア閉まるぞ、急げ。」
手を咄嗟に持たれて、引かれた。
「一応間に合ったな。」
あの素敵な笑顔を見せてくれる。
「う、うん」
私は必死に肯定することしか出来なかった。通学路。小杉君が、色々な話をしてくれる。私はただうつむいて相槌を打つだけだったけど、小杉君は私と話していると楽しいと言ってくれた。