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少女と子狐の夏物語

作者: 結夏

私は、高校一年の涼風(すずかぜ)みやび。部活は、郷土史研究会に入っている。この部活は、いわゆる同好会というのに分類される。

私の学校は、明日から夏休みに入る。そのため、今日は夏休み中の活動についての話し合いをしている。

「夏休み中は、どうする?」

 部活のみんなに、聞いているのは部長の天道(てんどう)まりなさん。三年生の先輩。

「まりなさん、明日から実家に帰るのですが」

「みやびちゃん、そうなの?」

「はい。寮の改装工事が明後日からなので」

「そういえば、寮生への連絡であったね」

「みやびの実家ってどこですか?」

神代島(かみよじま)です。ここからだと、電車と船で一時間です」

「遠いですね。部長、どうしますか?」

 今、私に声をかけてくれたのが同学年の朝霧(あさぎり)かえで。一年生の中で一番頭がよくて、可愛らしい子。クラスは別だけど、よく私と一緒に居る。私の一番の親友だ。

「あかねは、どうする?」

「私は、まりなちゃんについていくから」

「そう? だったら、みやびちゃんの実家に行こう」

「来るのは、一向にかまわないのですが」

 まりな先輩が声をかけたのは、二年生の槙野(まきの)あかねさん。まりなさんの幼馴染みだ。あかねさんは、この部活内では、ストッパー的存在。まりなさんは、よく暴走して周りの人に迷惑をかける。そのため、大変なことになる前に止めるのがあかねさん。

 今回も、まりなさんの無茶ぶりが大いに発揮されている。そのせいで、みんなが来ることになった。断るタイミングを逃していると、あかねさんが声をかけてきた。

「みやびちゃん、断ればいいんだよ」

「あかねさん、断ったら大変なことになりそうだったので」

「みやびちゃんの気持ち、わかるよ」

 まりなさんの無茶ぶりが始まったのは、最近のことではない。無茶ぶりが発揮されるたびに、私達が被害を被っている。そんな、事情があるから二人は気づいてくれた。

「みんなで、神代島に行くよ。」

「はい。わかりました」

 私達は、結局のところ全員で神代島に行くことになった。まりなさんを除いた、私達は諦め半分で頷いた。



次の日、私達は先生に許可をもらって終業式の途中で早退させてもらった。私達は、学校に持ってきていたバックを持って学校を後にした。

駅までは、徒歩で一〇分とはかからない。出てから、そう時間も経たずに駅が見えてきた。

「みやび、夏休み中居て大丈夫ですか?」

「そうそう、大丈夫なの?」

「昨日連絡したとき、行きと帰りのお金だけでいいって言っていたけど」

「家の方に連絡したんです。そしたら、みんなを『泊めてあげなさい』ってお祖父ちゃんが言っていたので」

「みやびちゃんの家って広いのかな?」

「行けばわかりますよ。それから、もうすぐ電車が来ますよ」

 私達が駅に着くと、乗る予定の電車が来るまで少しだけ時間に余裕があった。待合室で涼みながら電車が来るまで待っていた。暇なので、みんなして話し始めた。話題は、私の家についてのこと。話し始めたら、電車が近づいて来た。私達は、バックを持って待合室を出た。ホームに出ると電車が来ているのが遠目からでも見えた。

天霧埠頭(あまぎりふとう)行き、間もなく参ります」

 ホーム内に、アナウンスが聞こえてきた。

「それじゃ、みんな行こう!」

 まりなさんは、他の人よりテンションが低い。ただし、興味があることにはとてもテンションが高くなる。そいった不思議な、人なのである。

「電車の中で昼にする?」

「かえでちゃんは、どうする?」

「私は良いですよ」

 私達は、電車に乗りながらそんなことを話していた。私達が乗る電車は、田舎にある電車のイメージをそのまま形にしたような電車だ。

 中は、板張りの床と木の椅子、天井についている扇風機といった一昔前の内装だ。私達は、電車の中でお昼にすることにした。

 私達は、笑いながらお昼をとったり、話したりしながら電車に揺られていた。

終点の天霧埠頭についたのは、学校を出てから三〇分後だった。


「やっと、着いた」

「まだまだ、これからなんですからね」

「船着き場はどこら辺ですか、みやび」

「駅を出て、右手の方向にあるよ。乗り遅れると、一時間待たないといけないから」

 私達は、バックを持ち直して船着き場に急いで向かった。船着き場が見えてくると、ちょうど船が来るところだった。

「想像していたのより、結構大きい」

「島には、観光名所や祭りなんかがあるから。それで、観光客が多いからそれなりに大きいんだ」

「そうなんだ」

 みんなは、私の説明に驚いていた。普通、島といえば田舎の代表格。だけど私の島は、自然豊かで四季の移り変わりも綺麗な島として有名。そして、島の祭りはテレビや雑誌でも紹介されるほどのものだ。

「みんな、元気にしているかな」

「みやび、みんなって?」

 私が物思いに浸りながらそうつぶやくと、かえでちゃんがそう聞いてきた。

「聞こえていた?」

「うん、はっきりと」

「島に誰か気になる人でもいるの、みやびちゃん」

「居ませんよ、そんな人は」

 私は、まりなさんからの問い掛けに曖昧に答えた。曖昧に答えたのには理由がある。それは、私の友達が動物だから。みんなに、友達が居ないと思われたくなかったから。

私は、みんなから逃げるように乗船した。みんなも、私の後を追いかける形で乗船した。私達は、大間と呼ばれる場所に荷物を置いた。

大間とは、新幹線でいうところの自由席。新幹線と違うのは、仮眠用の毛布が置いてあることと畳が敷いてあることぐらい。

 大間には、私達以外にも親子連れやどこかの大学のサークル、友達同士での旅行客など見渡す限りに居る。

この船は、普通のフェリーと変わらない作りをしているので売店や喫茶店も小さいながら完備してある。

「着くまで、何している?」

「私は、甲板に出ているよ」

 私がそう言うとかえでちゃんは、少し落ち込んだ。様子からして、トランプゲームでもするつもりだったらしい。私は、潮風にあたりたいと強く思っていたから気が付かなかった。かえでちゃんは、最初は落ち込んでいたがまりなさんのことが気になるのかちらちらと様子を見ていた。大丈夫そうだと思い、私は甲板に向かう準備を始めた。

「私も潮風にあたりたいな。みやび、一緒に行っていい?」

「大丈夫ですよ。あかねさん、まりなさんはいいのですか?」

「船酔いしているから。かえでちゃん、まりなのこと宜しく」

「はい。私で大丈夫ですか?」

「うん。問題ないよ」

 私は、そんな二人のやり取りを聞きながら、甲板に歩を進めた。

 甲板に出ると、優しい潮風が薫った。私が、潮風に心躍らせながら、口笛を吹いていると後ろから、あかねさんが出てきた。

「気持ち良い」

「確かに。それにしてもすごいね」

「何がですか?」

 私は、あかねさんが何に対してそういったのか不思議に思った。周りには、日本の海とは思えない海が広がっているだけ。海底まで、透き通った海が。

「本当に綺麗」

「海ですか? えぇ、本当に綺麗なんですよ」

「海もだけど、みやびちゃんが居るだけで風景画として展示出来そう」

「あかねさん、お世辞はやめて下さいよ」

「お世辞じゃないよ。純粋にそう思っただけ」

 私は、あかねさんが私を挟んで海を見ていたのに気づいて頷いた。

 私の故郷である島は、周りを綺麗な海で囲まれていることでも有名だ。小さい頃、島に来る観光客が海の綺麗さに感嘆しているのを聞いたことがあった。私にとっては、普通のことだったので気づくのが遅れた。

「島に居ると当たり前になるんですよ」

「海鳥になつかれるのも?」

「この子たちは、私が小さい頃に手当てをしてあげた雛ですから」

「さっき、口笛を吹いていたのはそのためなんだ」

「えぇ、私が帰ってきたという合図に」

「伝書鳩みたいだね」

 私の周りに海鳥が居ることも相まって、そう言ったのだと分かった。

 私は、島に居る頃から動物に懐かれていた。今では、落ち着いた方だが一時は大変だった。学校に居ても動物が周りに居るから、なかなか友達が出来なかったという苦い経験がある。でも、そんな体質だったおかげであの狐と仲良くなれたのかもしれないと、今では思っている。


「間もなく、神代島に到着します」

 私達が、甲板のベンチで潮風にあたっていると船内放送が流れてきた。私は、行こうとして隣に居るあかねさんに声をかけた。

「あかねさん、着きますよ」

「もう、着くの?」

「はい。あれが神代島、私の故郷です」

 私達は、甲板から大間に戻ることにした。かえでちゃん達と合流すると、まだまりなさんは気分が悪そうだった。ごみなどを片付けて降りる準備が出来たので、あとは着くのを待つだけだ。


 島に着いたのは、船内放送が流れてから十分後。

 私達は、他の観光客が降りてから降りた。島の船着き場には、今来た観光客とこれから帰る観光客で溢れ返っている。私達は、極力ほかの人の邪魔にならないように前に進んで行った。

「ほんとにすごい人だかり」

「ここから歩いて行くからね」

「やった。乗り物に乗らなくていい」

 そんなことを言うまりなさんが、珍しくて私達は笑い合っていた。それを見て、まりなさんが拗ねていた。

 船を降りた私達は、観光客とは別方向に歩いて行った。観光客は、旅館がある方向に歩いている。旅館があるのは、島の名所の一つでもある松ノ浜の方。そして、島のみんなが住む家がある。

私達は、島で唯一の商店街を歩いている。私達が別方向に歩いて行くのが不思議だという顔で観光客はこっちを見ていた。商店街は、そこまで長い通ではないのですぐに向かい側に出た。そこから見えるのは、丘の上に立つ神社と手前にある武家屋敷のような家だけだ。あとは、島の反対側に続く道だけ。

「みやびちゃん、家どこなの?」

「目の前のです」

 みんなは、私が言ったことが信じられないという顔で驚いていた。驚くのも無理はないと思う。何故なら、家が一軒だけ立っていてしかもそれがとてつもなく大きいから。

「それで、商店街の人たちが驚いていたんだ」

 私達が、こっちに着くまでに商店街の人とすれ違った。そのたびに、私達をというより私が居ることに驚いた様子だった。私は、気づかないふりをしていたのだが皆は気づいていたようだ。なので、私は笑って居るしか無かった。 

「お嬢様、お帰りなさいませ。それからご学友の方々、ようこそ御出で下さいました。」

「お、お嬢様?」

「みやびちゃんが?」

「高宮、皆が居る前ではやめて下さい」

 私達が、門の前に着くと小さい頃から私の面倒を見てくれた高宮が居た。高宮の挨拶にみんなは、驚いて固まっていた。確かに私はこの島では、お嬢様のような立場に居たが学校に通うようになってからは付いて来るのを止めていた。

「お嬢様、大旦那様達がお待ちですよ」

 私は、高宮にお嬢様と呼ばせないようにするのを諦めた。話がややこしくなりそうな気がしたので。私の諦め癖が付いたのは、高宮のせいではないかと思い始めた。

「御爺様達が?」

「はい。客間で待っていますよ」

 私は、御爺様の口が軽いのを忘れていた。私は、家族に行く学校の事を教えずに島を出て行ったので少しだけ怖くなってしまった。気がのらない私と未だに固まっているみんなは、高宮の案内で客間に進んで行った。

客間についたのは、高宮に案内されてから五分後だった。

「お嬢様は、こちらに」

 そう言って、高宮に案内されたのは私の部屋だった。高宮は、私に服を着替えろと言っているのだと直感的に判った。

 私は着替えるために、高宮をさがらせて部屋に入った。高宮が置いてくれた物だと分かる着物が畳んで机の上に置いてあった。着物を着るのは本当に久しぶりだったので着られるのか不安だった。だけど、慣れというものは本当に怖い。姿見を見ずに着付ける、私自身が怖くなってしまった。

着付けが終わった私は、みんなが待っている客間に向かった

「お待たせしました。みやび、只今戻りました」

「おかえりなさい、みやび」

「連絡が来たときは、嬉しかったぞ」

「ご心配をかけました」

 私が、客間に入ると部活のみんなはまた固まった。御爺様達に関しては、怒られるかと思ったが心配されていたのだと思い深く反省した。

「ご学友の方々も、立派な方々で安心しました」

「そんな、立派だなんて」

「御謙遜を為さられて」

 みんなは、御爺様達のペースにのまれてさらに固まってしまった。私は、御爺様達がここまで話しているのが珍しかった。高宮が手に人数分のお茶を持ってきたので、話はいったん打ち止めになった。私は、心を落ち着かせるためにお茶を飲むことにした。

 お茶は、自家栽培の茶の葉を使った自家製の物。御爺様が園芸を趣味にしていて、栽培している。お客さんの心を落ち着かせるために、作り上げた独自の品種。そして、数種類に及ぶ茶の葉を用いた高宮特製のブレンド。これらが、相乗効果で旨味を引き出している。

「みやび、舞の方はどうなのですか?」

「はい。昔よりは形になりつつあります。まだ、もみじ姉様には遠く及びませんが」

「そうなの。もみじだけど今年の祭りには出られないそうなのです」

「どうしてですか?」

「昨日、練習中に足を痛めてしまい二週間動け無いそうなのです」

 私は、今年の祭りでもみじ姉様の舞が見られないと知り少し落ち込んでいた。

「もみじさんという方は?」

「みやびの姉です」

 私は、御母様とかえでちゃんの会話を隣で聞いていた。だけど、話の内容は分からなかった。それだけ私は上の空だったのだ。

 もみじ姉様は、私の姉であり尊敬する人である。小さい頃から私は、もみじ姉様の後ろを追い駆けていた。

「みやび、後で舞を見せて下さいね」

「はい、御母様。今までの努力を見せます」

 私は、御母様に向かって意気込んで見せた。御母様は微笑んでいた。何か憑き物がとれたような微笑みだった。

 その後、私達は夕食を食べる前に神社の舞台に移動した。そこで私は、久しぶりに舞を舞った。



この時から、私達の不思議で神秘的な一夏の物語が始まったことに気づいている者はいなかった。居たら、あの出来事は無かったのではないかと今では思っている。

 夏とは現と幻が交差する不思議な季節。その季節に、起きた物事は神秘的な記憶となる。善き日によき記憶と共に。

                                     END?


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