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    奴隷の国



 街の中に入ってみると、心配していた混乱は無く、普段道理と思われる活気に満ちていた。

 アルザダと別れ、宿を取ってリサを休ませると、前衛3人はバルドに紹介してもらった鍛冶屋に向かう。

 ゴブリンやオーガとの連戦で、武器を酷使していた為だ。


 その店先で、店主と思われるドワーフと、エルフの少女が楽しそうに話していた。

 だが、こちらに気付いて笑いかけ──ようとして、後ろの仲間2人をみて顔を顰めて去っていく。

 何で出会う女性全員に嫌われるんだろうと思ったが、良く考えるとゲオルグも女だった事に気付いた。


「何か失礼な事考えてない?」


「えっ、いや、何も……」


「そう、ならいいけど」


 本当に何となく思っただけなのか、ゲオルグは深く追求してこなかった。

 だがレオは、元Aランク冒険者の勘の鋭さに肝を冷やす。

 鍛冶屋のアイゼンに紹介の手紙と武器を渡して、来た道を戻る。




 それから長旅の疲れもあり、レオ達は宿に戻って直ぐに眠ったのだが──その夜、一度目の魔物の襲撃があった。




 翌日にはちょっとした騒ぎになっていた。


 午前中、冒険者ギルドに情報を確認しに行ったゲオルグが、レオとギルの待つ宿の食堂へ戻ってきた。

 リサは長旅の疲れか、それともレオへの指導の疲れか……ともかく、まだ眠っている。

 席に着くと、ゲオルグは顔を顰めて首をひねる。


「奪われたのは、外壁の、外の畑にある食料だけらしい。偵察は出したようだし、他に被害が無いから大きな騒ぎにはなってないけど、これはいよいよヤバそうだ」


 それを聞いた2人は唸った。

 街の中に居る住人達はまだ危機感が薄いが、異常を感じていたレオ達は別だ。


「直ぐ戻るにも、多少の準備は必要だぞ。武器は今日中に出来るらしいが、夜に発つ訳にもいかん。疲れもあるし食料も……そう言えばアルザダはどうした」


 思い出したように聞くギルに、レオが頭を掻きつつ答えた。


「すまん。実は駄目元で奴隷を解放してくれそうな貴族を探して貰ってるんだ」


「そうだったか。まぁ、それが当初の目的だし、多少は調べないとな」


「ああ、どの道出るのは明日になるだろうと思って、無理を言って調べてもらってる」


 軽く頭を下げるレオに、「気にするな」とギルが手を振った。

 と、暫く黙っていたゲオルグが苦しげに呻く。


「規模は小さいとは言え魔物の群れの侵攻なんて、御伽噺でしか聞いた事なかったけど……もし本当に来たら、ギルドから強制召集されるかもね」


「あぁ、ランクの低いレオは別だが、BやCの俺達は恐らく駆り出されるだろうな」


「すまない、こっちに来たのは俺の判断ミスだった……」


 目を伏せて落ち込むレオに、2人は笑いかける。


「別にいいさ、アタシら好きで付いて来たんだから。それにダールに居たって、魔物が来ない補償なんて無いんだ」


「ゲオルグの言う通りだぜ、特に俺達は無理言ってついて来たんだからな」


 その時、食堂の扉が開き、アルザダが帰ってきた。


「おお、良かった。レオさん、ちょっと良いですか」


 レオが断りを居れて食堂を出ると、アルザダが興奮した様子で外へ連れ出した。


「実は、何人かの奴隷を解放していると言う貴族の噂を聞きまして、話を聞いてみると金貨15でスタンプを貸してもらえた方も居たようで、頼んでみたら面会の機会も得る事ができました」


「本当ですか、良く受けてもらえましたね」


「えぇ、何でもこの国では有数の資産家だそうで、多少の我侭も効くそうなので」


 これは嬉しい誤算だ。準備は他の者に任せてでも、行ってみる価値はある。


「ここで待っててください、リサを起こしてきます」


「あ、ちょっと待ってください」


 喜び勇んでリサを連れてこようとするレオを、アルザダが引き止めた。


「この前のギルの話ではありませんが、貴族の方は少々困った性格の方も多いのです。まずは我々だけで行って、取引を成立させた後で、彼女を連れて行っても遅くは無いはずです」


「なるほど……」


 一度金を受け取った後ならば、さすがの貴族もそう易々と話は変えまい。

 それに、奴隷については良く知らないアルザダが無理をして駆け回って掴んだ情報だ、ある程度は慎重に行動した方がいいだろう。


「解りました。取り合えず俺達だけで行きますか」


「それが良いかと。さて、お待たせしているはずなので、急いでいきましょう」


 アルザダに促され、レオは貴族の住む高級住宅街へ入っていった。




 貴族が多く住む高級住宅街の中ほどまで行った時、バスラ公爵の屋敷が見えてきた。

 平均して大きな家が立ち並ぶ通りの中でも、その家は一際大きく見える。

 使用人に案内されて執務室に入ると、多少顔立ちの良い、筋肉質な中年の男が出迎えた。


「これはアルザダさん、どうも初めまして」


 にこやかにアルザダと握手を交わしたバスラだったが、レオを見て若干顔を顰めた。


「もしや、こちらのエルフが依頼主ですか?」


「はい、冒険者のレオさんと言います」


「どうも、始めまして」


 レオが手を出したが、バスラは握り返さずに椅子を勧めた。


「どうぞ。しかし、開放するのは人間の女性と聞いていたんですがねぇ」


 その言葉には流石のアルザダも面食らった。


「いえ、開放するのは人間の女性ですよ。リサさんと言う方です」


「ほう……」


 バスラは少々訝しげな視線をレオに向けた。

 レオは何故そんな視線を向けられたか解らず、困惑してしまう。


「ちなみにランクはいくつで?」


「Eです」


 それを聞いたバスラは薄く笑う。

 流石のレオも少々怪訝に思い始め、アルザダが何とか場を取り成そうと声を上げた。


「えぇと、それで報酬の件ですが……」


「あぁ、金貨15と決めているが、正直それはどうでも良い」


 多少高くても払えるようにと、金貨を全て持ってきた2人は驚いた。

 だが、その後の言葉で凍りつく事になる。


「そうだな、三日ほどその奴隷を貸してくれるならそれで良いんだ」


「は?」


 思わず呆けた声を上げるレオに、バスラは笑って続ける。


「私は、気に入った女しか解放しないと決めていてね。本当に親しい相手の頼みでもない限り、必ずこの条件をつける事にしているんだ。なぁに、安心してくれ、他人の物を壊すような事はしないさ」


 その言葉を聴いたレオは握った拳が無意識に刀に伸びかけ、慌てたアルザダが声を上げる。


「待ってください!先ほどと話が違うじゃありませんか」


「大っぴらに言う事でも無いのでね、いつも家に入れてから話しているんだ。それに、こちらもエルフが主人だったとは聞いていない」


 あまりの発言に、更に怒りの声を上げようとしたアルザダだったが、レオの冷たい言葉に身を竦ませた。


「アルザダ」


 レオの実力を知るアルザダは緊張に身を強張らせるが、バスラの方はEランクの冒険者に負けるはずが無いと嘲笑を浮かべている。


「暴力に訴えるのはやめた方がいいと思うよ。私はこれでも、数年前まで騎士団でそれなりに上位に位置していたからな」


 できれば「レオが本気になったら、お前なんて素手でバラバラにされるぞ」と、教えてやりたかったが、隣のレオが突然立ち上がったので恐怖で身動きが取れなくなる。


「帰ろう」


 それだけ言ってバスラに背を向けるレオに安堵しつつ、アルザダは彼の後を追った。


「私の要求を蹴ったら、後々後悔しますよ。私の他にエルフにスタンプを貸す者など、絶対に居ないと言っておきましょう」


 背後からバスラの嘲りが聞こえてきたが、2人は振り返る事無くその場を後にした。




 バスラの屋敷を出てから数分して、がっくりと肩を落としたアルザダがレオに謝罪した。


「本当に申し訳ありません。まさかあんな事を言われるなんて……」


「別に、アルザダさんのせいじゃないですよ。それより、明日には発ちますから、準備をお願いします」


「解りました……レオさんはどうしますか」


「刀を取ってきます。あ、保存食を売っている店を教えて下さい。終ったら宿の食堂で落ち合いましょう」


「それでは夕刻でいいですか」


 その答えに頷いて店の場所を聞いたレオは、アルザダと分かれて商業区の広場へ向かう。

 1人になったレオは、先ほどの事を考えていた。


 盗賊を殺した時、あれほどの罪悪感に包まれていたのに、バスラの事を本気で殺そうかと思っていた事に、ショックを受けているのだ。

 人型の魔物を多く殺して、普通の人間の感覚が麻痺して来ているのかもしれない。


 それともう1つは、リサの事だ。

 ひょっとしたら、リサの人生全体を考えれば、先ほどの申し出を受けた方が良かったのかもしれない。

 だが、レオとて薄々気付いていた。

 初めの内は、どちらかと言うと罪悪感や、他の事が上手く行かない自分から目を背ける形でリサを助ける事に専念していたレオだが、徐々に好意の方が強くなっていた。


「情けねぇ」


 吐き捨てるように呟いても、胸に残る靄が消える事は無かった。




 商業区にある広場の脇の、保存食専門店に向かう途中、中央で奴隷のオークションが準備されているのに気がついた。

 檻に入った奴隷の中に、女性のエルフが居た。

 彼女は檻を掴んでレオに助けを求めるような視線を向け、レオは反射的に財布を確認してしまう。


 しかし、そこまでで思いとどまる。

 ダールの街で、強ければ何でも思い通りに成る訳ではない事は痛感していた。

 自分がただの1人の冒険者でしかない事は、フィルに叱られた事で嫌と言うほど理解している。


 渋い顔をして目線を逸らすレオに、エルフの女性は力なく座り込んだ。

 なるべくそれを見ないようにして店に入──ろうとして、昨日鍛冶屋の前であったエルフの少女に腕を掴まれた。


「なっ、ちょっと」


 そのまま人気の無い路地まで引っ張られ、ようやく手が離される。


「何なんだ一体……」


「お願い、お金を貸して!」


 突然、お金の無心をされたレオは困惑した。


「待ってくれ、何で俺に頼む」


「他にこの街に出てきている者が居ないの、貴方だって解るでしょう」


 何を言ってるんだ。と返そうとして、ハタと思いとどまる。

 そういえば自分はエルフだが、エルフとしての常識は持っていない。


「えぇと、何の事だか解らないんだが……」


 なるべく疑われないようにやんわりと聞いたのだが、エルフの少女は困惑の表情を浮かべた。


「何を言ってるの、貴方くらいの歳なら……」


 途中まで言った言葉が途切れ、目が見開かれる。


「貴方、もしかしてハイエルフ……?」


「えっ、解るのか」


 確かにゲームの設定ではエルフでは無くハイエルフだった気がする。


「失礼な口をきいて、申し訳ありませんでした。黒い髪のハイエルフと言うのは、初めて見ましたので……」


 突然腰の高さまで頭を下げた相手に、レオが混乱する。


「ちょ、ちょっと止めて下さい。それより、どういう事だか教えてくれませんか」


「はい。私はセシリア、この近くの静寂の森と呼ばれる所から来ました。貴方はどちらの森の方でしょうか」


「俺はレオ……その、東の方の島国から来たんだ」


 異世界から来たとは言いにくく、何とか誤魔化そうとしたレオだったが、それを聞いたセシリアは驚いたように呟いた。


「もしや、最近発生したのですか」


「発生?」


「ハイエルフの方は、樹齢数万年の霊木が昇華して成ると聞いています。といっても、こちらの大陸では若葉が薬草として使われて乱獲され、実際に生まれた所を見たことはありませんが……東の島国には、その事を教えてくれるエルフは居なかったのですか?」


 内容は少々的外れだが、勘違いされたままの方が良さそうなので頷く。

 するとセシリアは少し考えた後、困り顔で言った。


「少し時間も有りますし、こちらの大陸のエルフの事情を説明します。貴方様にとっても、聞いておいた方が良い話だと思いますので」


「様は止めてくれ、こちらのハイエルフは偉いかもしれんが、俺はただの冒険者だ」


 セシリアは「解りました」と言って説明を始めた。


「3千年程前まで、この地に住む者と魔物は定期的に戦争をしていました。最近の状況は、昔の戦争時に酷似しているらしいのです」


「待て、魔物と言うのは野生生物じゃないのか」


 そんな素朴な疑問に、セシリアの方も首をかしげた。


「魔物は魔界からやってきます。この世界と魔界は重なり合って存在していて、その歪から抜け出て集落を作っているのが、森に居る魔物です。勿論、ウルフ等は元からこちらの動物ですが」


 魔界から来る者というのは、ゴブリンやオーガといった者達のようだ。

 勿論人型以外にも居るようだが、今までは魔物の弱い場所にしか行っていないため、名前を出されてもわからなかった。


「と言う事は、近くそこから魔物が攻めてくるのか」


「はい。ですが、エルフにとっての問題はそれとは別で、これまでの3千年の方にあります」


 意味が解らなかったので、レオは口出しを止めて聞くことにする。



「3千年前の戦争は、こちらに住む者の完全な勝利で終りました。

 ですが、向こうの魔界は魔物の地、それ以上侵攻する物好きはおらず、魔物との戦いの為に増強されていた人間の軍は、やがて力を持て余し人間同士で戦争を始めます。


 私達この大陸のエルフは、その間森から出ずに不干渉を貫いていたのですが……200年程前、当時この場所にあった帝国で力を増してきていた、一部の貴族と奴隷商人が、エルフの長い耳はゴブリン等のとがった耳と同じ魔物の証しだ。と言う、根も葉もない噂を流したのです。

 帝国はその頃長い戦乱と、貴族の優遇で腐敗を極めており、民衆の不満の捌け口としてエルフに戦争を仕掛けました。

 エルフも応戦しましたが、かつての戦友達の子孫を相手に序盤で剣先を鈍らせ、不利になってそのまま数に圧されてしまったのです。


 結局最後は見かねた人間の神が、天罰を下し、神々が直々にエルフに謝罪して戦争は終ったのですが、神の口ぞえが有っても所有物となってしまったエルフの奴隷は見つけるのが難しくて、所有者が死んで売りに出されるのを探し出す為に、私のような若いエルフが旅をしているんです。

 奴隷制度を守りたい諸国が緘口令を敷いたので、今では殆どの人間がその事を知りません。けれどこの大陸のエルフは、その事を永遠に忘れないでしょう」



 道理で街では殆どエルフを見なかったはずだ。


「でも、そのわりに昨日は楽しそうに話してたけど……」


「ドワーフは別です。元は仲が悪かったですが、彼らは一方的に攻撃されるエルフを見かねて、かつて自分達が住んでいた鉱山や洞窟にエルフを匿ってくれたんです。表面上は悪口を言い合うこともありますが、心の底からドワーフを嫌っているエルフは、今はもう居ません」


 言われてみれば街でエルフを見かけたのは、全てドワーフの店の近くだ。

 人間とは種族を別にするドワーフは、当時周囲の人間より冷静に状況を見られたのかもしれない。

 そこまで言うと、セシリアは再度頭を下げた。


「東方の島国から来た貴方には、関係の無い事情かもしれませんが、あの子は私の幼馴染なんです。でも、オークションを考えるとどうしてもお金が足りなくて……金貨5枚、いえ4枚で良いんです。何とか貸してもらえませんか」


 レオは唸った。

 正直リサの事や状況を考えると、金を失うのは厳しい。

 だが、ここまで聞いて断れば、森に戻った彼女から事情を聞いたエルフ達から、冷やかな視線を向けられるかもしれない。

 少々悩んだが、金塊もあるし今後の為にはどうしようもないと結論付け、貸す事にした。

 幸い交渉の為にワイバーンの素材の代金も持って来ていて、手持ちは多い方だ。足りなかったと言う事になれば目も当てられないので、多めに貸す事にする。


「オークションなら予想以上に高くなる事もあるでしょう、10枚渡して置きます。明日にはこの街を出るつもりですが、余った分は返して下さいね」


「ありがとうございます!」


 土下座しようとするセシリアを、こんな所ゲオルグやギルに見つかったら何日も笑われる。と焦って止めた。

 ついでに宿泊している宿を告げ、向こうの宿も聞いた。


「商業区の十字路にある大きな宿です。私も魔物の事をドワーフに警告して回っているので、数日は滞在します。何か用があったら来て下さい」


 恐縮して何度も頭を下げるセリシアをなだめ、当初の目的だった保存食の店に向かう。

 その後アイゼンの鍛冶屋に行くと、既に研ぎは終っていたので、それを持って宿へと戻った。




 夕刻、宿の食堂で反省会をしたのだが、皆一様に渋い顔をして押し黙っていた。

 アルザダがあの後調べた所、バスラはこの国全体でも有数の貴族で、発言力もそれなりに大きいと言うのが解ったからだ。


「すみません、私の調査が不十分だったばかりに……」


「いや、アルザダさんは悪くない。さっきのエルフの話を考えれば、責任の一旦は俺にもありそうだ」


 セシリアに聞いた話は既に皆にしている。

 落ち込んだ雰囲気を壊すように、ゲオルグが一気に酒を煽って言った。


「あーもう、それはこの際しょうがないよ。それより、魔物の軍の話は本気でヤバい。準備も済ませたし、金を返してもらったら午前中にも出よう」


「そうだなぁ、俺も強制招集は避けたいぜ。アルザダ、荷物の方は?」


「まだ多少売れ残っていますが、もう諦めますよ。午前中に出る方向で、異論ありません」


 皆の息が合った所で、レオが頷いた。


「解った、それじゃ今日はもう解散にしよう」


 そう言って隣で終始無言だったリサを見ると、怯えるように顔を伏せていた。


 彼女はレオのように力を持っている訳でも無い、ただの商人の娘だ。奴隷の解放も上手く行っていないし、戦争が近いと聞けば恐ろしいだろう。

 レオはそんなリサの頭に手を乗せ、ポンポンと撫でる。

 顔を上げたリサを安心させるように、微笑んで言葉をかけた。


「大丈夫、俺が何とかしてみせるよ」


 やつれた顔に無理やり笑みを乗せるレオを見て、今度こそリサは死んだ父のようだと思った。




 部屋に戻って数刻後、そろそろベッドに入ろうかと言う時、ノックの音が響いた。


「どうぞ」


 ギルかアルザダかと思ったが、入ってきたのはリサだった。

 部屋に入ってきたリサは、気まずそうに俯いている。

 少々不思議に思ったが、こう言う時のリサは黙っていれば話すと学んだので待っていると、やがて小さい声を発した。


「あの……トランプしませんか」


「ああ、そうか、別にいいよ」


 不安で眠れなくて暇を潰しに来たのだろう。

 レオは立ち上がってテーブルを薦めると、収納袋からトランプを取り出した。


「気に入ってくれて嬉しいよ。ギルは金を賭けなきゃやらないって言うし、アルザダには賭博関係は一切やらないって断られるし……」


 言っていて「俺、人徳無いのかなぁ」と不安に思ったレオは、取り合えず言葉を区切って席に着いた。

 日本と同じ遊びが出来るなら、いつでも歓迎だった。

 賭けはもうこりごりだが、リサは賭けたくないと言えばそのままで相手してくれる。


 暫く殆ど会話も無いままポーカーを続けたが、やがてリサが声をかけてきた。


「レオはさんは、どうして……そんなに必死に、私を助けてくれるんですか」


 その質問に、カードを3枚取り替えながらレオが答える。


「んー、何でだろうな」


 真剣に聞いたリサとしては、その答えはちょっと気に入らなかったが、眉を顰めたリサに、慌てて訂正するようにレオが続けた。


「あぁ、いや、本当に解らないって言うか……最初はお姉さんを見殺しにしたとか、何かほっとけなかったとかそう言うのだったけど、いつの間にかそうするのが当たり前になってたっていうか……」


 好意の事も正直に言おうかと思ったが、以前のように警戒されるといけないので黙っておいた。


「そう、ですか……」


 それからお互い少し黙っていたが、やがて手札を晒す時が来る。



 レオは3のスリーカード、リサは8のフォーカードだった。



「また、私の勝ちですね」


 そう言って彼女はクスクスと笑う。



「リサは本当に強いなぁ」


 初心者に惨敗しているレオは、困ったように頭を掻いた。




 それから何度かポーカーを続け、暫くするとリサは部屋へ帰って行った。







 ────そして、明け方、二度目の魔物の襲撃があった。







 ちなみに、バスラさんの名前の由来はネーミング辞典の162ページ下から2行目か、エキサイトスペイン語でBasuraと打って下さい。




 それと申し訳ありませんが、少々難しい所に入るため、集中するので、感想等への返信遅くなります。

 友人にチェックしてもらって、本当に不味い所は確認するので、ご容赦ください。



 ※セシリアとの会話、霊木関連追記しました

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