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    人型の魔物(下)



 朝、服のまま外へ出ようとすると、女将に呼び止められた。


「ようレオ、昨日は良い見世物だったよ」


 痛いところを突かれたレオは、ぎこちなく振り返る。


「見てたって……仕事はどうしてたんですか」


「仕事なんて手につく訳無いだろ、3戦勝った後のアンタの負けっぷりって言ったら……プッ」


 昨日の光景が思い出されたのか、女将が噴出した。

 その場に居るのが辛くなってきたレオが、振り返って宿を出ようとしたのだが、何とか堪えてレオを呼び止めた。


「あぁ、ちょっと待ちな。昨日はみんな面白がって見てたからほっといたけど、ウチは博打は禁止だ。次やったら引っ叩くから覚悟しな」


「はい……」


「ま、昨日で多少は懲りただろうがね。皆にカモだと思われたんだ、今日は早めに帰ってきな。ウチに居る限りは守ってやっから」


 女将の優しさに、不遇慣れしたレオはついつい瞳を潤ませてしまった。


「あ、有難う御座います」


 肩を竦めながら、さっさと行けと手を払って笑いかける女将にもう一度礼を言って、レオは宿を出た。




 小太刀を持ってバルドの工房に行く前、ギルドの左向かいの店鉄製の水筒を買いに行ったが、鉄板が薄く、少々強度が不安だった。

 後で鍛冶師に会いに行くのだし、駄目元で強化を頼もうと思い、取り合えず買っていく。


 バルドの工房兼店が見え始めた時、店からエルフが出て行くのが見えた。この街で始めて見るエルフに興味もあったが、工房に用もあるし、道の反対側に行ったので諦める事にした。

 レオが店の中に入ると、奥の工房からそれを見つけたバルドが「待っていたぞ」と、声を上げた。


「良く来てくれた、座って話そう。工房に来てくれ」


 中に入り、椅子に座ってポケットから刀を取り出した。

 それを見て目を輝かせたバルドは、慎重に受け取って刀身を見た。


「それは回避……というか、攻撃に対する対応速度を上げる魔法がかかっている……はずです」


「ほう、それはまた便利な……」


 嘗め回すように全方向から刀を見るバルドに苦笑しつつ、來国俊も取り出す。


「言われた通り手入れしてみました。それと今回は他にもう1つお願いがあるんですが」


 持っていた刀を置き、先に來国俊を確認し始めた。

 前回余りにも酷い扱いを受けていたと知ったので、心配だったようだ。


「ふむ……カタナの方は大丈夫なようだな。それで、頼みってのは何だ」


「この水筒の鉄板を補強して欲しいんですが……」


「んな事鍛冶ギルドに頼めよ──って、もしや旅に出るのか?」


 腕を組んで聞いてくるバルドに、レオが頷く。


「ええ、数日後にナルバ共和国の方へ行きます」


「それならこのカタナを貸すのは不味いだろ、それに着いてく訳にもいかねぇんだ。代償の研ぎだってできん」


「刀は予備がまだ幾つかあるから、大丈夫です。それと、研ぎの代わりに水筒の強化と、ナルバ共和国に居る腕の良い鍛冶師を紹介して欲しいんですが」


 確かにコイツは素人には……と、納得したように頷いたバルドは取り合えず水筒を見せろと言ってきた。

 水筒は一般的な楕円状の物で、それを見たバルドは少々顔を顰めた。


「これは面倒だな、1から作った方が楽だろう。他に何か要望はあるか」


「それなら全体は薄く、口を大きくしてもらえますか。水は自分で作れるんで、空にして常に持ち歩けるように」


「解った、明日……いや、明後日には仕上げよう。半端なものは渡したくないしな」


 お礼を言って握手をすると、今日は多少暇があるのかお茶を持ってきた。

 ドクダミ茶のような香りがする薬草茶で、レオは一口飲んで驚いた。


「随分と美味しい茶ですね。何処で買ったんです」


「あぁ、いや、実はさっき来たエルフに貰ったんだ。気に入ったならアイツが前に持ってきたメモをやろう。俺はそれを見ても薬草の見分けがつかなかったが、お前さんなら解るだろう」


 そう言ってバルドは作業台の横にある机からメモを一冊持ってきた。

 軽く中を見ると、様々な薬草の効能や特徴が書かれていた。


「ありがとう、旅の途中で見かけたら集めてみようかな。ところでここにはエルフって結構来るんですか」


「おう、この街はドワーフの鍛冶屋は2軒しかないからな、鏃やナイフなんか良く買いに来る」


 ファンタジー系のネタでは、ドワーフとエルフは仲が悪いのが通例じゃないかと思ったのだが、ここでは違うようだ。

 レオが少し考えるようにしていると、バルドも思いついたような声を上げた。


「そう言えばお前さん、弓は使わないのか。エルフは例外無く弓の名手だと聞いたが」


 それを聞いたレオは小さく唸った。手裏剣や投げナイフのスキルはあったのだが、弓は現実でもゲームでも経験が無い。

 ちょっと不味いだろうかと思いかけた時、バルドが慌てて付け加えた。


「ま、まぁ……何事にも例外はつき物だよな」


 気まずそうに目を逸らすバルドに、何とも言えない気持ちになりつつ、取り合えずは誤魔化せて良かったと胸をなで下ろした。




 工房で朝食をご馳走になった後、バルドに貰った紹介の手紙を持って部屋に戻る頃には、気分は少し浮ついていた。

 昨日リサが、これからは一緒に依頼をこなすと言ってくれたからだ。

 忍び装束に着替えて収納袋を取り出し、部屋をノックすると中から返事が返ってくる。


「どうぞ」


 部屋に入って挨拶をすると、早速今日の予定を言う。


「数日後にはここを発つから、旅の準備に服の注文をした後、ちょっと依頼を受けようと思うんだ」


 そう言って収納袋を探るレオを、リサが制止した。


「あの、その前に1ついいですか」


「ん?」


 言いつつ収納袋を探り続けるレオを、呆れ混じりの困ったような声でリサが止める。


「あの鎧は、無いと思うんです」


「えっ……」


 リサの最もな指摘に、小心者で心配性なレオは眉をハの字にして、収納袋から顔を上げた。

 自慢の装備が否定されて悲しいと言うのもある。


「で、でも危ないし……」


「それを言うなら、あれを着ていると、いざと言う時に走れないです。それに、レオさんは足が早いので着いていくだけでも大変でした」


「ごめん……」


「それとまた門の衛兵さんに、事情を聞かれると思いますよ」


「うっ……」


 それでも何とかリサに鎧を着せようと食い下がるレオだったが、やがてリサの視線がどんどん冷めていくのを感じて、盾だけを持たせるに止めた。




 あの後レオの持つローブを着せようかとも思ったが、元々長身のレオでもブカブカだったローブをリサに着せても結果は見えているので、新しく買う事にした。

 一応丈を合わせられないか洋服店で聞いてみたが、魔法が掛かっているので加工が難しく、時間が掛かると言うので今回は諦める。

 既製品の灰色のローブを着せ、レオの持っていた地味目の装飾の青い杖を持たせると、どう見ても魔術師なリサが出来上がった。

 服の寸法だけ測りなおして、ギルドを目指す。


「しかし、やっぱり胴鎧だけでも……」


「まだ言いますか」


 リサの呆れたような声にしゅんとなるレオだったが、通りの向こうからゲオルグの声がして驚いて顔を上げた。


「よう、レオじゃねぇか。おっ、そっちが前言ってた女の子か」


隣のギルも「よっ」とリサに手を上げる。


「ああ、彼女はリサ、ディアマンディ人の魔術師だ。こっちはゲオルグとギル。BとCランクの冒険者で、これから一緒に旅をする事になってる」


 レオが簡潔に仲介をすると、リサもおずおずと頭を下げた。

 それを見てゲオルグは笑って右手を差し出す。


「よろしくね、リサちゃん。アタシはゲオルグ、訳あって男の名前だけど、こう見えて正真正銘女だ」


 女性と言う所で多少警戒感が薄れたのか、リサも手を右手を出して握手をした。


「ま、正真正銘、意外にも。だけどな」


「何か言ったかい」


 おどけた調子で言ったギルだったが、ゲオルグの鋭い眼光を前に「いや、別に……」と、視線を逸らした。

 そんな2人の様子に、リサも楽しそうに少し笑うと、顔を戻して挨拶をする。


「よろしくお願いします。ゲオルグさん、ギルさん」


 あっという間に仲良くなった3人を見て、心を開き始めたリサに嬉しくなりつつ、これまでの苦労を考えると遣る瀬無さを感じてしまうレオだった。



 話を聞くと、丁度旅費の準備に一稼ぎしようとしていた時らしく、一緒に行かないかという話になった。


「珍しくオーガ群れが出てるらしくてね、これから討伐に行くんだけど、レオ達も一緒にどうだ」


 話によるとオーガと言うのは、人より少し大きめの、ゴブリンのような人型の魔物だそうだ。

 少し強い部類に入る魔物らしいが、対人戦の訓練をしたかったレオには丁度良かった。


「行ってみようかな。けど、Eランクでも受けれるものなのか?」


「単体ではそこまで強く無いからな。群れとなると別だが、俺達と一緒なら問題ないだろう。俺とレオでギルドに行って受けてくるから、二人は先に行っててくれ」


「あいよ、女をあんまり待たせンなよ。リサちゃん、行こうか」


「はい」


 そうして男女に分かれて少し歩いた所で、何度か背後を確認したギルが小声で相談を持ちかけてきた。


「ちょっといいか、ゲオルグの事なんだが……」


「ん、どうした?」


 その困ったような口調に、少々真剣な雰囲気で答える。


「アイツの性格は知ってるよな」


「ああ、悪い奴じゃないよな」


「そう、悪い奴じゃないんだが……アイツの頭の事情も知ってるよな」


 何の話か大体察したレオも、一度背後を確認してから頷く。


「レオの実力の件なんだが、あまり知られたく無いなら、街を出るまででも良いからアイツには秘密にして置いた方がいいぞ」


「そうか……」


 正直今目立って引き止められたりしたら面倒だ。ゲオルグには悪いが、ひとまず秘密にして置く事にした。

 ギルドに行くと、フィルは昨日の2人の訓練を見ていたので、特に問題無いだろうとオーガ討伐の依頼証を渡してくれた。


 西門の前で合流し、4人で森を目指す。

 その途中、リサが前に渡した指輪をつけ続けてる事に気がついて、外すよう頼んだ。


「戦闘中には、何回か敵に狙われる事もあるだろうし、その度に警報が鳴ったら皆驚くから、外しておいて」


「あ、すみません」


 そう言って指輪を外すリサを見て、ゲオルグはニヤニヤと笑った。


「大仰な盾に警報つきとは……しかも、聞いた話じゃ全身鎧まで着せようとしてたみたいじゃない」


 恐らく女性2人で待っていた時に話したのかもしれない。レオは勤めて聞こえないふりをして森を見たが、長い耳が真っ赤になっていてバレバレだった。

 唯一の救いと言うか、残念なところは、リサが良く解らないと言う顔をしている事だろう。

 しかし、放っておけば気付かれそうだったので、慌てて話題を変えた。


「そ、そう言えばオーガは何匹くらいの群れなんだ?」


「ククッ……あぁ、5~6くらいってフィルちゃんは言ってたな」


 後ろでこっそり笑っていたギルが、助け舟を出した。

 ゲオルグは、まだからかい足りない様子だったが、森の前に着いたので顔を引き締める。


「んじゃ、行くよ。レオはEランクだから、無理せず援護とリサの護衛。まぁ、やれそうだと思ったら自由にしな。リサは魔法でアタシ等の援護を」


「はい」


 1番ランクの高いゲオルグの指示に頷き、4人は森へ入っていった。




 森に入って2時間ほど雑魚を蹴散らして歩いた頃、ようやくオーガの群れを見つけた。

 聞いた数より少々多く、10を少し越えるくらいだ。

 まずゲオルグとギルが襲い掛かり、側面をレオが牽制する。

 少し離れた敵にはリサが魔法で氷柱を飛ばし、4人が連携になれ始めた頃。


 左側面から、敵の増援が来た。


 それを見たゲオルグは驚愕する。


「ジャイアント……」


 見上げる程の巨人は、ジャイアントと呼ばれており、Bランク以上でも安全に倒すなら2人、それ以下なら4~5人は要るという化け物だ。

 更にその外にオーガが数匹、ゲオルグの近くに現れた。


「不味い引けっ、アタシが──



 ギャイイイイィィィン───……



 ──は?」


 自分が引きつけると言おうとしたゲオルグの前で、巨人の持つ斧の先端が3割程、切り取られて宙を舞った。





 ん、随分でかいなあのオーガ、リサの方に行きそうだし俺が相手するか。


 ジャイアントを最初に見つけたレオは、特に気負い無くその巨人へ向かう。

 あれだけ大きければ、動きも鈍いだろうと思ったからだ。


 最初はジャイアントも雑魚を払う気持ちでレオに斧を振った。

 レオの方も動きは遅いだろうと思っていた事もあり、意外と早いその斬撃に少々面食らい、刃を全て落とすつもりが、3割程しか斬れなかった。

 両者共に驚きで一瞬距離を取ったが、鉄の斧を呆気無く斬られたジャイアントは、最も優先すべき敵としてレオを認識した。


 襲い来る巨人に舌打ちしつつ応戦する。

 敵の動きは想像以上に素早く、リーチの差もあって中々攻めに転じられない。



(っていうか、リアルでこんなの相手に魔法禁止の縛りプレイをする事になるとはね……)



 ゲオルグの前で魔法は使いたくなかったが、巨人は中々に強敵だった。


 一方、巨人の方もレオが右手に持っている≪天羽々斬り≫の威力を知って、左側を攻める為に四苦八苦していた。


 しかし経験の差か、やがて完璧なタイミングで巨人の斧がレオに迫る。


 それを強引に左手の刀で受け流したレオは、転がるように巨人の懐に入り、刀を振るう。


 火花を散らせながらも、折れる気配の無い左の刀に巨人も慌てて後退するものの、下段から伸びた刃を避け切れず、右の脇腹から胸までの斬り上げを食らった。


 体制を崩したレオも一旦引き、両者の距離が開く。


 チラリとゲオルグの様子を見ると、増援のオーガに集中していた。


 その隙に、せめてこれだけはとクィックを使う。



 ゴッオオオォォォ!



 突然魔法を使った相手に驚いたのか、巨人が慌てた様子で叫びながら突撃して来る。



 レオも刀を構え直し、巨人に向けて走り出した。



 限界まで引き絞った斧がレオを襲う。



 寸前に左の刀を捨てたレオは、倒れこむように地面に伏す。



 胴を狙った斧は、本来ならばそれでも僅かに当たっていただろうが、刃を削がれていた事で完全に空を斬る。



 斧が過ぎた直後、レオは左手と足に全力を注いで飛び上がった。



 宙を舞いつつ、アドレナリンとクィックで限界まで引き伸ばされた時間の中、視界の端に見えた巨人の首に刃を這わせる。



 流石に強引に飛んだせいで、しゃがみ込むような無防備な格好で着地してしまい、慌てて周囲を警戒した。



 周囲の安全を確認した後、レオが緊張と興奮で荒れた息を整えつつ立ち上がった頃に、背後で巨体が崩れ落ちる音を聞いた。



 一息着いてゲオルグ達を援護しようと振り向くと、オーガは全員逃げ出していた。


「あれ?」


 間抜けな声を出して首を傾げるレオを、オーガを倒して援護しようとしていたゲオルグは口を開けて眺め、ギルは苦笑しながら、リサは無表情で周囲を警戒していた。




 仁王立ちしたゲオルグの前で、レオは何故か正座している。

 どうして正座を選んだのかと言うと、ここ数日で身につけたレオの勘が、今は正座だと告げたからだ。


「へっえぇ~、つまりこう言う事。アタシが馬鹿でぇ、口を滑らすかもしんないからぁ、秘密にして置いた。と……」


 鞘に入った剣でペシペシとレオの顔や肩を叩くゲオルグに、必死の弁明を図る。


「ち、違いますよ、別にわざわざ言うほどの事でも無いかなぁ。なんて……」


 ゲオルグの眼光により、言い訳は途中で途絶えてしまう。

 必死にギルに助けを求める視線を送るが、ギルは笑いを堪えるような妙な顔をして周囲を警戒するフリをしている。

 いっそばらしてしまおうかと思うが、口裏を合わせていたと知られたら、頬を撫でる鞘着きの剣から、鞘が取られる事請け合いである。


「ジャイアントを単独で瞬殺できるのって、言うほどの事でもないんだー。ふーん」


 剣呑な雰囲気に、背中を伝う冷や汗が倍増した。


「で、でもホントなんか気迫を感じ無かったと言いますか、弱ってたような……」


「はぁ?ったく、何言って……」


 だが、ジャイアントの死体を見たゲオルグは眉を顰めた。


「おいギル、レオもちょっと手伝え」


 リサを警戒に残し、3人で巨人をひっくり返した。


「これは……」


 死体を仰向けにして見ると、ジャイアントは確かに痩せていた。

 ジャイアントは元々少しアバラが見えるのだが、この死体はそれが多い。

 しかも良く見ると頬もこけている。

 魔物は強さで上下関係が決まる。この森の中で、ジャイアントは間違いなく1番強いだろう。そのジャイアントが痩せ細っていると言うのはどう考えてもおかしかった。


「レオの話は置いといて、コイツは全員で倒した事にしてでも、早く帰って報告した方がいいんじゃねぇか」


「そうだな、何だか妙な感じだ。上に報告を入れておいた方がよさそうだね」


 ギルの言葉にゲオルグも頷いて、オーガとジャイアントの耳を持って街へ戻る事にした。




 報告を終え、酒場に行くとアルザダが待っていた。

 5人分の席を取っていてくれたので、皆でそこに座る。

 席に座るとアルザダがリサに声をかけた。


「大分顔色も良くなったね。食事はちゃんと食べているかい」


「はい、あの時はお世話になりました」


 奴隷の輸送中に食べ物を分け与えていたアルザダは、父親と同じ商人と言う事もあってリサにはかなり好印象だった。

 因みにギルがさほど警戒されなかったのは、アルザダと共に食べ物を配っていたからでもある。


 ただ、それを見たレオが「何で俺の時だけ……」と、誰にも解らないよう小さく肩を落としたのは仕方のない事かも知れない。

 少しして飲み物が届けられた。レオとリサ意外は酒だ。


「では、再開と新しい出会いに」


 アルザダの挨拶で乾杯も終ったところで、旅の計画を練る前に、今日あったことを話し合う事にした。


「最近魔物が増えてるってのは良く聞くけど、西の街道でジャイアントが出るってのは、さすがに予想外だね」


「そうだな、しかもジャイアントが痩せてたなんて聞いたことねぇ」


 神妙な顔で考え込む冒険者2人に、アルザダが不安げに声をかけた。


「ギルド長はなんと?」


「調査をしてみるってさ。まぁ、北の街道の近くだから流れて来た可能性も無くは無いが……向こうでも滅多に見ないからね」


「それでは、暫くは様子を見た方がいいのでしょうか」


 少々気弱になったアルザダに、ギルが首を傾げる。


「どうだろうなぁ、正直、この後変化があるとすりゃ、悪い方だと思うぞ。行くなら早い方がいいだろう、さもなきゃ暫く様子見かな」


「待ってくれ、アルザダはもう仕入れをしてしまっただろう。今から中止になったら、かなり不味いんじゃないか」


 皆の視線がアルザダに集まる。

 アルザダは、少々困ったように頬をかいた。


「そうですね……この辺りが特産の食料も結構買ったので、暫く行かないとなるとかなりの赤字になってしまいます」


 暫し沈黙が場を支配したが、レオは迷いを振り払うように頭を振った。


「俺としてはアルザダの助けも必要だし、ここに居続けても良い事は無い。行く事にするよ」


「ま、そうだね。アタシらが居れば、大抵の敵が出てきても問題無いだろう」


 リサは少し不安そうだったが、この際仕方がない。


「で、出発はいつだい」


「二日後でどうだ、間に合いそうか?」


 アルザダは頷いた。


「私はもう殆ど準備は終っています」


「俺とゲオルグは、元々冒険者だ。出るなら直ぐにでも出れるさ」


「なら明日俺達の荷物のチェックを頼む。準備は念入りにしたい、出発は二日後だ」


 それから夕食をとって酒場を後にした。




 宿に戻って部屋に入ろうとすると、背後から呼び止められた。


「あの……」


「ん、リサ、どうかした?」


 彼女は少し迷うように言い淀んだが、


「……いえ、何でも無いです」


 と言って部屋に戻ってしまった。



 何を言いかけたのか少し気になったが、良く解らなかったのでレオも深くは考えなかった。





 これで説明と紹介ばかりの一章は終わりです。


 特に話しに進展もなかったのに読んでくれて有難う御座いました。



 二章は序盤笑いも少なく、地味な展開ですが、後半はちょっとは盛り上がるカンジになると思うので、もう暫く我慢してお付き合いください。


 今回はちょっと最後不気味な雰囲気を出したくて、後半笑いを少なくして予定していた物より少し短くなりました。雰囲気は出ていたでしょうか……?


 さて、次回はちょっと時間が飛んで旅立つところからの予定です。

 これからはシリアス成分が増えるかと思いますが、よろしくお願いします。



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