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    人型の魔物(上)



 昨日初めて飲んだ酒が効いたのか、起きたのは既に日が6割ほど上っていた頃だった。


 カラカラの喉を潤す為に食堂に行こうと思い立つが、軽い二日酔いのままでリサに会うのが嫌で、廊下やロビーをそれと無く確認しながら移動する。

 水を貰い、スープを頼んで席で突っ伏していると、女将がやって来た。


「部屋をボロボロにして飲んで帰ってくるとは、いい身分だねぇ、ちょっと教育が足りなかったかな」


 女将の声が耳に入った途端、弾かれたように起き上がりゴクリと喉を鳴らすと、必死の弁明を試みた。


「い、いやぁ仕方なかったんですよ。冒険者の先輩に進められて……」


「はいはい、やましい思いがあるまま酒飲んだ冒険者は大抵そう言うんだよ。次からはもっとマシな言い訳を考えな」


 対面に座った女将は、呆れたように手を振る。

 遣る瀬無い感情に包まれながらも、再度怒られる流れでは無いようなので溜息をついた。


「それはそうと、あの娘何時まであのままにして置くつもりだい」


 急に真剣な表情になった女将が、レオの目を見て聞いてきた。一人で居る事の多いリサの事だろう。

 確かに首輪の問題は解決し、多少は外に出れるようになったが、この街は近いうちに出て行かねばならない。友人を作れとも言えないし、かと言ってレオも彼女ばかりに構っては居られない。

 ここに留まるなら良いが、不信感が強いままのリサを連れて旅に出るのは、不安があるのも事実だ。


「何とかしてあげたいのは山々なんですけど、現状俺ができる事全てやってこの状態なので……」


「不甲斐ないねぇ、まぁ私から見てもあの娘は取っ付きにくいけど。何だったらアタシが少し話してやろうか」


 さり気なく頼んでくるかのような口調を不思議に思ったが、少し考えるとレオに配慮しての事だと解った。

 恐らくもっと早くリサと話したかったが、所有者であるレオの性格が不明だったので、余計な事を言わないために遠慮していたのだろう。


「是非、お願いします。冒険者の、特に男には強い抵抗があるので、出来ればそこは気を利かせてあげて下さい」


 自分で言って少し悲しくなったが、現状は認めるしかない。

 女将は何処かホッとしたように息をつくと、いつもの笑顔に戻って続けた。


「アンタならそう言うと思ってたよ。さて、スープも出来たようだ、水ももう1杯飲むかい」


「3杯程まとめてお願いします……」


 あいよ。と言って苦笑すると、女将は食堂のカウンターへ向かう。

 リサの事は女将に頼めるようなので、昼には戻れないかもしれないが1度ギルドに行って依頼を受ける事にした。




 ギルドに行ってフィルに挨拶すると、「ちょっと待ってください」と言われた。

 暫くそのまま待っていると、鎖のついた赤色の水晶のようなものを持ってきて、にこりと微笑む。


「おめでとう御座います、ランクアップです。魔晶石の色を移すので、ロケットを出してください」


 ロケットと魔晶石を重ねると、ロケットが赤く光った。

 恐らく衛兵がロケットを確認していたのは、識別とランクを確認する為だったのだろう。


「これで完了です。それと、昨日の戦績を見て、ギルド長の判断で条件付で更にランクアップできる事になりました」


「本当ですか、ちなみに条件と言うのは」


「レオさんは今まで、ギルド近くの東門から出ていましたよね」


 その通りだったので頷く。


「Eに上がる為には、西門から出た先にある森で、ゴブリンとホブゴブリンを倒してもらわないといけません。知能も低いし強さはウルフと同等らしいですが、一応規則なので」


 その話は正直気が進まなかった。

 実を言えば、人型のモンスターには今まで出会っていない。恐らく東門の先には居ないだろう。

 正直ホッとしていたのだが、旅先でそれらに襲われるならば、それを殺せる事も必要な要素の1つだ。冒険者の前提条件だと言われてもおかしくは無い。


「解りました、行ってきます。因みに数はどの位ですか」


「形だけの条件なので、ゴブリン5、ホブゴブリン1でいいそうです。余り奥に行くと彼らの集落が有りますから、行き過ぎないようにして下さい」


 そう言って手渡された紙を受け取り、レオは内容を確認して懐に仕舞う。

 敵の特徴──特にゴブリンとホブゴブリンの差──を聞いてお礼を言うと、ギルドを後にした。

 ギルドの外に出て空を見ると、太陽はまだ昇りきっていなかった。急げば正午には戻れるかもしれない。




 西門から外へでて、1時間ほど歩いた所にある街道脇の森へと向かった。

 少しするとゴブリンが8体現れた。≪グラビティワールド≫でも狼男のような魔物はいたが、醜悪な子供のようなゴブリンを斬るのは中々に覚悟が要った。

 一瞬気絶させて耳だけ取ろうかと思ったが、ランクアップが掛かっているのだ、下手な事はできない。


 叫び声を上げて倒れるゴブリンに顔を顰めつつ、丁度5匹倒した所で他の3匹は逃げ出した。


「しかし、それにしても……」


 他の冒険者からするとウルフと同じらしいが、何やら戦いにくさ以外にも手こずった気がした。

 ウルフの時と比べれば消極的だったが、それでも必要な事だと言い聞かせ、暫くゴブリンを斬って歩く。

 少し体が大きめで、赤い肌の色が濃いホブゴブリンを見つけて倒す頃には多少は戦いなれていたが、妙な違和感は残ったままだった。




 結局西門に戻った頃には正午を過ぎてしまい、リサの様子を見るのは諦めてギルドに行こうとした矢先、近くの問屋前でアルザダとギルが話をしているのを見つけた。

 声を掛けてみると、丁度行き先の事を話していたようだ。


「公国の近場は駄目そうだし、ナルバ共和国に行ったほうが良いかも知れませんね」


 公国というのは、ここダール興商自治区を含むガザン公国だ。

 ダールは公国と共和国の国境なので、外国だが、近場と言える。

 国外に行くと言うのは面倒じゃないかと思ったが、アルザダの話では商人護衛として行けばそうでもないらしい。


「ナルバ共和国に行けば可能性が有るんですか」


「あの国は奴隷制度発祥の地です。その為かなりの数の奴隷が居ますが、全体的にはここより待遇は良いのです。スタンプ持ちもこの国より多いですから、行ってみる価値はあるかと」


 レオが興味を持ったように考え込むと、ギルが口を挟んだ。


「俺は、あそこの貴族はあまり信用できないと思うんだが。まぁ、ここよりはマシか」


「何か問題でも?」


「人によるが冒険者を舐めてやがる。騎士団が強いという自負からだろうが……アルザダが交渉すれば、大丈夫かもしれんけどな」


 アルザダの方を見ると、「勿論同行しますよ」と言った。

 レオが少し困ったような顔をすると、笑って手を振る。


「ドリュークから持ってきた鉱物の残りも、新しく仕入れた物もありますから、赤字にはなりません」


「そうですか、なら数日後にでも発ちましょう。俺も今からギルドに行ってランクアップの試験をしてくるので」


「解りました、詳しい話は2日後にギルド隣の酒場で落ち合って詰めましょう」


 そう言うと、アルザドはお辞儀をして問屋の中に入っていく。

 彼を見送りギルドに向かおうとすると、ギルに声を掛けられた。


「そういや、ランクアップするって、今のランクは幾つなんだ」


「Fだよ、特例ですぐ上げてもらえる事になったから、もうすぐEかな」


「まてまてFって……ってそうか、今までギルドに入ってなかったのか。よし、俺もついて行こう。Fのランクアップなら俺が居た方がいいはずだ」


 にやにやと笑いながら着いて来る、突っ込み担当だったハズのギルに首をかしげながら、今度こそ冒険者ギルドへ向かった。




 ◆◇◆◇◆



 食堂の椅子に座って外を眺めていると、不意に女将が向かいの席に座った。


「どうした、何か考え事かい」


 彼女は少し額に浮かぶ汗を拭きつつ、笑いかけてくれた。

 身体を拭くのを手伝ってもらった時から、女将は良くリサを気遣って声をかけてくれる。


「いえ、別に……」


「なんだいなんだい、仕事が珍しく早く片付いたんだ。ちょっとくらい話し相手になってくれても良いじゃないか」


 そう言って、じっと見つめてくる女将を見るのが気まずくて、俯いてしまう。


「はい……」


 言いにくい事だったので、ついつっかえてしまうが、女将は黙って待っていてくれた。

 暫くして何とか言葉を紡ぎだす。


「私は、ずっとお姉ちゃんに護られていました。お姉ちゃんが死んで、彼に買われて、必死に抵抗するつもりだったけど、今思えば自分の力で状況を何とかしようなんて、今まで一度も考えてこなかった」


 俯いているのも気まずくなったので、顔を上げて外の喧騒を見る。


「でも、昨日外にでて街を見て周ったら、急に懐かしい気分になって……あの頃に戻りたいと思ったんです」


 あの頃、まだ故郷に居た頃。自分と母と姉の3人で、父が仕入れを行っている間、良く買い物に出かけていた。

 今は自分1人しか居ないけれど、活気のある街はどこか暖かくて、懐かしい気持ちになった。


「だけど今の私には、何にも出来る事がない……」


 遠い目で外を見るリサに、女将は言う。


「あの男を手伝ってやれば良いじゃないか。アイツが悪い奴じゃないって事くらい、リサだって解ってるだろう。アイツの言ってる事が本当なら、手伝えば手伝った分だけ、リサが自由になるまでの時間は短くなると思うよ」


「でも……」


 言い淀んでしまうリサに、呆れたように女将が続ける。


「嫌だと思ったら止めればいいんだ、そんなに難しく考えなくてもいいさ」


「けど、私はまだ信じられなくて」


「別に信じなくって良いだろ。アイツが襲ってきたらタマでも蹴って『貴方は最低のクズです』とか言えば、アイツの事だ、泣きながら逃げていくに違いないさ」


 その様子が何となく頭に浮かんだリサは、クスリと小さく笑ってしまう。

 それを見て満足した女将は、「さて」と言って立ち上がった。


「そろそろ仕事に戻るか。元気出たなら、また街でも歩いてきな」


「はい」


 女将に笑いかけたリサは、立ち上がって宿を出て行く。

 それを横目に見た女将は、鼻歌交じりにロビーに歩いていった。




 ◆◇◆◇◆




 ギルドについて皮袋と依頼証を取り出し、フィルに預けた。

 フィルはそれを確認して別な書類に何か記入すると、カウンターに銀貨を置く。


「確認しました。少し待っててくださいね、今──」


「あぁ、フィルちゃん、模擬戦の相手なら俺がやるぞ」


 突然割って入ったギルに、フィルは驚いたような目を向けた。


「え、でもCの中でも上位のギルさんが相手だと……その……」


「大丈夫、下手な事はしないさ」


「ならいいですけど……ちゃんと手加減してくださいね」


 その言葉にギルは苦笑してレオを見る。

 そういえば戦闘訓練みたいなものって言ってたなぁ。などと考えていたレオは、それに気付いて視線を合わせた。


「手加減なんて要らねぇよな、レオ」


「ん、あぁ。良いんじゃないか?」


 その様子に、呆れたように「怪我しても知りませんよ」と呟き、フィルはギルドの奥へ向かった。



 ギルドの裏手にある小さな訓練場は、夕方や夜には真面目な冒険者が詰めているが、昼間は皆出歩いていて人は居なかった。


 フィルとギルド長だという老人の監督の下、木製の得物を持った2人の男が開始の合図を待っている。


「それでは、始めッ」


 老人の合図により、2人はゆっくりと距離を詰めた。


 2人は軽く剣を合わせ、お互いの力量を測る。


 ナイフの形の木刀は、刀に慣れたレオには少々扱いにくく、力でねじ伏せるタイプのギルの剣は流すので精一杯だった。


 それでも上手く使って牽制を加えつつ、時には身を翻して予想外の行動を取るレオの動きは、対応が難しく、ギルも攻めあぐねていた。



 先に息が上がってきたギルが勝負を仕掛ける。



 低い姿勢から繰り出された足払いを、レオが宙を舞ってかわした。


 レオが空中から首めがけて木刀を振るうが、ギリギリで避け、着地点に向けて強引に剣を振るう。


「グッ」


 2本の木刀を何とかあわせ、後ろに飛んで威力を軽減する。


 距離が開いた隙にギルは剣を持ち直し、完全に体制の整っていないレオに向けて大きく振りかぶった。


 しかし、レオが前傾姿勢になりかけるのを見て、慌てて剣を振ろうとする。


 直後に姿勢を戻したレオに、ギルもフェイントだと気付いたが時既に遅く、次の瞬間に止めかけた剣と首に向けて、尋常ではない速度で体重と勢いが乗った木刀が襲い掛かる。


「まいった」


 首に添えられた木刀を見て、ギルは少し残念そうに呟いた。



「さすがだ、やっぱり駄目だったなぁ」


「そうでもないさ、着地の時の一撃はかなり危なかった。対人戦はあまり慣れてないから、本気でやったけど思うように行かなかったよ」


 ≪グラビティワールド≫での対人戦とは、プレイヤーキラーとの戦いの事だ。

 確かに一時期狙われていたが、基本的にはモンスターと戦うゲームなので、全体から見れば極僅かだ。


「そういや、確かにフェイントは一回しか使ってねぇな」


「うっ、後でその辺ちょっと教えてくれると助かる」


 恐らく、ゴブリンに妙に苦戦したのはその辺りが理由だろう。知能がある相手と戦いなれていないのだ。

 その当たり前のような二人の様子を呆然と眺めていたフィルとギルド長は、一度互いに顔を見合わせてしまう。


「腕は立つだろうとは思ってましたが、ここまでとは……」


「いっそDにしてしまうか……?」


 呆然と呟くギルド長に、慌ててレオが止めに入った。


「ま、待って下さい。ただでさえ特例2回で目立つんですから、これ以上されたら悪目立ちしすぎます。取り合えずはEでいいですよ」


 本来名を売って貴族に繋がりを持つつもりだったが、ここの貴族が駄目だとわかった以上、あまり目立ちたくはない。

 せっかくの提案を断られたギルド長は少々顔を顰めたが、一理あると思ったのか、諦めてフィルと共にギルドへ戻っていった。




 ランクアップの作業を終えて、ロケットの光を赤から黄色に変えたレオは3時間ほどギルと訓練をした。

 日が傾きかけて来たので訓練を終えてギルドを出る。


「どうだ、汗も流したし、今日も付き合っていかないか」


 酒を飲む仕草をして誘ってくるギルに、レオは困ったように視線を背けた。


「昨日あの後ちょっとな……今朝二日酔いもしたし、今日は止めとくよ」


 今日も飲んで帰ったりしたら、明日の朝フライパンを持った女将に出会う事になるかもしれない。

 残念そうに「そうか」と言って酒場に入るギルの向こうで、トランプのような物で遊んでいる男達がみえた。


「あれは……」


「ん、トランプがそんなに珍しいか?確かにちょっと高くて、持ってる奴はそう多い訳じゃないが」


 トランプの存在に興奮したレオは、売っている店を聞いて後で買っていこうと心に決めた。

 幾らここが現実だと認めたとは言え、望郷の念が消えた訳ではない。

 元の世界の遊びに再会できると興奮しているレオに、呆れたようにギルが声をかける。


「そんなに喜ぶ事かぁ?トランプなんて、結構一般的な……」


 と、そこまで言って何か思い出したのか、ギルが入りかけた酒場から戻ってきた。


「そういや、前に一般生活用の魔法覚えるって言ってたが、もう覚えたのか?」


「あ」


 折角教えてもらっていたのに、冒険者ギルドに入った時の興奮から、すっかりその事を忘れていた。

 間抜けな声を上げたレオに苦笑しつつ、ギルが一緒に冒険者ギルドへ戻るように促した。


「生活用の魔法ですか?」


 受け答えたフィルが、考えるように首をかしげた。


「ええ、魔法は使えるので、覚えられると思うんですよ。有れば便利なものも結構あると聞くし、覚えておこうかと」


「因みにどんな物を?」


「洗濯とか、綺麗な水を作るとか、お湯を沸かすのとか有ると聞いたんで、良かったらそう言うの教えて欲しいです」


「それ位なら、魔術師を探すまでも無いですね。実は私も多少魔力があるので、訓練所で教えてあげますよ」


 訓練所に行って待っていると、フィルが桶を持ってやって来た。


「それでは、まずはちょっと見ていてくださいね」


 そう言ってフィルは桶を置き、その上で指を下に向けると、「雫よ」と呟く。

 指先から水道を捻った時のように水が出て、暫くすると桶が一杯になった。


「こんな感じですね。使う魔力も少ないので呪文も簡潔です」


 その後「回れ」と言うと、今度は桶の中の水が回りだす。

 それが止まると立ち上がって、「どうぞ」と水の入った桶を指した。

 レオは少し緊張しながら桶の前に立つ。周りではフィルと、何故かついてきたギルが様子を見ている。


「回れ」


 さっきの光景を思い出しながらレオがそう言うと、とてつもない勢いで水が回って周囲に飛び散った。



「「「…………」」」



 ずぶ濡れになった3人は暫し無言になったが、フィルが場をとりなすように声をあげる。


「…………えぇと、水、無くなっちゃいましたし、次は水を出す魔法をしてみますか」


 何となく先の予想がついたのか、レオが指を桶に向けると、ギルは慌てたように数歩身を引いた。


「雫よ」


 すると、お世辞にも雫とは呼べない量の水が一気に溢れ出し、水鉄砲となって発射されて桶が地面を滑っていった。

 流石のフィルも、これには困ったと頭を抱えた。口元を隠して震えているギルは、笑っている訳では無いと信じたい。


「えっと、レオさんは手加減という言葉を知っていますか?」


「ハイ」


 そうですかー知ってるんですかー。と再度頭を抱えるフィルに、レオは目を瞑って肩を落とした。

 落ち込んでいるレオを何とか励まそうと、フィルがフォローを入れる。


「ま、まぁ皮袋を買ったお店に行けば、金属製の水筒もある筈ですよ。それじゃ、次は……お湯を……」


 そこまで言ってフィルは自分の体を見た。


 さっきの『水』で、ずぶ濡れになっている。


 隣のギルを見ると、彼も同じ事を考えていたようで、2人は視線を合わせて背中に伝う冷や汗を感じた。


「きょ、今日はここまでにしましょう。私もそろそろ、ギルドに戻らないといけないし!」


「あ、ああ、俺もそういや、ゲオルグと飲む約束があったんだ」


「いやっ、ちょっ……」


 片手を上げて引き止めようとするレオから逃げるように、2人は訓練所から消えていった。




 部屋に戻って忍び装束から服に着替えていると、誰かが扉をノックしてきた。


「ちょっと待って……どうぞ」


 てっきり女将かと思ったのだが、扉を開けてこちらを見ているのはリサだった。


「へ、リサ?あ、どうぞ入って」


 悩むように逡巡しているリサに声をかけ、部屋に招き入れる。

 椅子にリサを座らせ、レオは少し離れて立つ。

 テーブル脇の椅子は、昨日巻き込まれて1つ壊れてしまったため、修理中で1つしかなかった。


「それで、何か用かな」


「……」


 中々言い出さないリサにえもいわれぬ焦りを感じたレオは、何の話か考えた。

 街中を歩いているようなので、買い物の相談かと思う。


「あ、なにか必要なものがあるなら……」


「違うんです」


 否定したあと、また暫く黙り込む。

 首を傾げたレオに、意を決した様子でリサが話し出した。


「……次から私も、街の外に行く時に連れて行って欲しいんです」


「外へ連れてってくれって、依頼に……?」


 これにはレオも戸惑ってしまう。

 依頼を手伝うと言う事は、冒険者の同業になると言う事だ。彼女の心情を察すれば、少々急すぎる変化に思えた。


「無理はしなくて良いんだよ。信じられないかも知れないけど、俺も結構強いし……」


 リサに見られた痴態の数々を思い浮かべ、後半は声が小さくなってしまった。

 しかし、リサは真剣な表情でレオの目を見つめ、冗談では無いと訴えかけている。

 暫く見ていても表情を変えないリサの真意を察し、レオも真面目に答える事にした。


「解った、正直リサが居ると色々と助かる。これから宜しく頼むよ」


 リサはそれを聞いて何処かホッとしたように肩の力を抜き、一度立ち上がってレオの方を向く。

 そして奴隷商人に仕込まれた通りの挨拶をした。


「よろしくお願いします。レオ様」


 それを聞いたレオは笑って軽く頭を振り、「様なんて着けなくていいよ」と、言────



 ────おうとしたのだが、そこは流石にレオも男。頭を振るまでは実行出来たのだが、そこまでで止まってしまった。



 れ、れれれおさま?レオ様ぁ!?い、いや駄目だ、俺はリサを奴隷から解放しようとしているんだから……でももう一回くらいなら──……



 ハッハッハッと笑いながら暫し壊れた人形のように頭を振り続けるレオを、リサが不審に思い始めた頃、ようやく決断したレオが言葉を続けた。


「も、もういっ……ゲホゲホ。俺に様なんて着けなくていいぞ、別に俺は貴族でも何でもないんだし」


 言ってから、ふぅ。と深呼吸をするレオに、不思議そうに「はぁ」と曖昧に頷くと、挨拶をしなおした。


「よろしくお願いします、レオさん」


 うんうんと微妙な表情で頷くレオに、これで良かったのかなぁ。と少し不安になるリサだった。




 話が終わり、リサを部屋から出そうとした時、レオはいい事を思いついてリサを引きとめた。


「リサっ、ちょっと頼みたい事があるんだ」


 突然真面目な顔で呼び止められたリサは、少々顔を強張らせると、レオが切羽詰った声で頼み込む。


「魔法を教えて欲しいんだ……」


 以前に強力な魔法を見せ付けられていたリサは、少々面食らうが、知りたいのは生活用の魔法だと言う事で納得した。

 真面目な顔で頼み込まれた時は、一体何を頼まれるのかと思ったが、簡単な事だったので安堵の溜息をつく……が、数分後、彼女は別な意味で溜息をつく事になった。




 師匠に教えてもらった魔力制御の基礎を、2時間かけて説明した頃には、夕暮れになっていた。

 それでもほんの少ししか弱まらなかった水鉄砲に、リサは頭を抱える。


 レオの方は生まれて初めて感じる体内の魔力に、とても上機嫌になっていた。

 何でも頼んでいいよと言われたので、リサは片っ端から高いものを頼んでやった。


「あ、そうそう。食事が終ったらちょっとトランプでもやろう」


「とらんぷ?」


 懐から出したトランプに、リサは小首をかしげる。

 しかし料理が来たので一度仕舞い、食後に説明する事にした。


「食べたらやろう、幸い報酬の銀貨が結構あるしポーカーでもしようか」


 そうして食後にポーカーをしたのだが、最初の3戦程はルールが良く解らず、リサが連敗してしまう。

 リサの顔がどんどん険しくなって行ったが、4戦目にわざと1回負けると、ほんの少し嬉しそうにしていた。

 その顔を見ただけで、トランプを買ってきた甲斐があったなと思う。









 ────例えその報酬として、リサに大銀貨を3枚払う事になったとしても。









 こういう事って、良く有りますよね。






 え、何かって?

 連敗している初心者をかわいそうに思って、わざと負けたら、本当にツキが逃げていってその後連敗してしまう事です。因みに作者はあります。ギャンブルって難しいですね。


 ようやく仲間が1人増えました。これからが本番なので気合を入れなおしています。

 そろそろ説明も終わりです。近く、動き出す事になると思うのでご期待ください。



 psちょっとPCの調子が悪い……大丈夫かな


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