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    国境の村


 更新遅くなって申し訳ありません、スランプ時に無理に書き続けたせいもあって本格的に体調崩してしましました。


 間結構空いてしまったので、今の所問題ないと思いますが後に変更点あるかもしれませんが、ご了承くださいm(_ _)m





 北周りに教国を目指し、二つ目の村が見える頃には、一行がハウラを出てから二週間が経過していた。



 予定ではもう少し遅くなる筈だったのだが、保存の利く食べ物や調味料を一つ目の村で捌くはずが、北にあったその村は、ハウラに来る前に魔軍の略奪に遭い、多くの者が今も近隣の村に逃げ込んでいて廃村に近い状態だった。

 アルザダの頑張りもあり多少は売れたけれど、それでも多くの在庫が余ってしまい、リサが魔法の冷気で持たせながら旅路を急いでいたのだ。

 この辺りはウルフの上位種であるワイルドウルフが出没するポイントで、ウルフより匂いに敏感なワイルドウルフが背後から群れを連れて現れる事が多いので、レオを含む前衛3人が後続に、リサとアルザダが前方の馬車に乗り込んでいた。


 手綱を2人に任せているレオは、相変わらず水鉄砲の練習をしている。

 冷気をかける事ができれば練習にもなるのだが、誤って凍らせてしまうと商品としての価値が落ちてしまうので、任せてもらえなかった。

 それでも最初に比べれば魔力の操作上達してきており、消防の散水並みだった水圧は、家庭用の物程度には落ちてきていた。


 表の座席に座って、気だるそうに手綱を握っていたギルだったが、ふと思い出したように振り返ると、レオの隣で横になっているゲオルグに声をかけた。


「なぁ、そういやお前の住んでた所この辺だったろ。ちょっとよっていかないか」


 ギルは真面目な調子で言ったのだが、面倒そうに溜息をついたゲオルグは、寝返りを打って背を向けた。


「別に、今は急いでるし、去年は一度戻ってるからいいさ」


「ん、行くならアルザダさんには俺から言うけど、本当に良いのか?」


 レオとしては気を使って言ったつもりだったが、ゲオルグはうざったそうにヒラヒラと手を振った。


「いいんだよ、どうせ生きてる知り合いは居ないんだ。墓参りだけなんだから、そう頻繁に行かなくてもいいさ」


「あ、そうだったのか……すまん」


「別に気にしなくていいよ。共和国と魔術帝国は昔から仲が悪くて、小競り合いなんてしょっちゅうだから、それ程珍しい事でもない」


 それきり黙ってしまったゲオルグから視線を外すと、ギルが申し訳なさそうにレオを見ていた。視線が合うと、気まずい雰囲気を壊すためか、ギルはそのまま軽い調子で聞いた。


「ところでレオ、確か初めて会った時空飛んでたよな」


「ん、そう言えばワイバーンの時は飛んだな」


 あまり目立ちたくなかった為、ハウラに戻る時に全力で駆けた時以外は空を飛ぶのは避けていた。

 飛行魔法の話に興味を持ったのか、ゲオルグも顔を上げてレオを見つめる。


「え、なにアンタ空飛べんの?」


 レオが頷くと、割り込まれそうになったギルが身を乗り出して聞いてきた。


「なぁ、次の休憩の時ちょっと俺を乗せて飛んでくれねぇか?」


「別に……構わないけど」


「クッ」


 予約が取れたギルは嬉しそうに拳を握り、先を越されたゲオルグは苦々しげに呻いた。

 2人の余りのテンションの高さに、ぼんやりとしていた頭が醒めたレオは、慌てて付け加える。


「ただ、あんまり目立ちたくないから、人が来たらやめるからな」


「ああ、わかってるって。しかし、空を飛ぶなんざ、昔大枚はたいて巨鳥に乗らせて貰った時以来だな」


 ギルが楽しそうに言い、軽快に手綱を振ると、ゲオルグは心底つまらなそうな顔で座席に寝なおす。ただし、寝るときに「二人目はアタシだからね」と言うのは忘れずに。

 別に面倒という訳でもなく、楽しみにしている2人に水を注すのも悪い為、極小さな声でレオが呟く。


「良いけど、空飛ぶっつっても大した事無いと思うが……」


 その呟きには誰も気付かないまま、荷馬車は真っ直ぐに数時間後の休憩地点へと向っていた。




 休憩地点に着いたレオは、安全の為に寝袋数個で作った着地点を用意すると、革のベルトを数個使ってギルの身体を固定していた。

 前の荷馬車からリサとアルザダも降りてきて、何をしているのかと聞いてきて、ギルが事情を説明すると、納得したリサは自分も乗せて欲しいと頼んできた。


「アルザダさんは興味ないんですか?」


「私は高い所は苦手なので……遠慮しておきます」


 気まずそうに言うアルザダに軽く謝り、周囲の警戒を頼むと、レオは自身にレビテイトをかけた。


 準備を終えたレオは、ギルを背負って一息に空へと駆け上がっていった。

 常人の数倍の身体能力を持つレオの全力の上昇に、ギルが感嘆の声を漏らす。


「おほっ、こりゃすげぇな。見ろよレオ、もうあいつ等あんなちっちゃくなっちまった」


 下を覗くと、確かに荷馬車の脇に居るリサ達が小さく見えていた。


「そうだな……けど、悪いがこれ以上は上がれないんだ。あんまり高い所で魔法が切れたら困るし……」


「まぁいいさ。お、見ろよ森の向こう、次の村が見えてるぞ」


「あれがそうか、じゃ、あっちの方には行けないな。反対に行くか」


 身を翻し、山道を逆走するレオだったが、ハウラに戻る際森の上に入り込むと巨鳥に襲われると学んでいた為、背中にギルを乗せていて戦闘は無理だという事もあり、あまり自由に飛ぶ事は出来なかった。

 それでも最初の内は遠くを見渡して楽しんでいたギルだったが、徐々にその言葉も途切れ、彼の着るチェーンメイルが鳴らせるカチャカチャという音だけが響くようになった。


「なんか……すげぇ高い山を走ってるみたいな感じだな……」


「まぁ、実際走ってるだけだしな……」


 飛んでいると言っても、自由に滑空している訳ではない。レオが空中に作った足場の上を走っているだけなのだ。

 慣れてくると飛んでいるというより、吊橋の上を走っているような感覚になってしまい、面白みに欠けてきたのだろう。


「なぁレオ、そろそろ……降りないか」


「ああ……」


 どことなく残念な空気が流れ始めた所で、空中散歩は終わりとなった。

 着地点に降りると、リサとゲオルグが駆け寄ってきた。


「ギル、どうだった?」


 目を輝かせて聞くゲオルグに、ギルは何とも言いにくそうな表情で頭を掻いた。


「いや、なんか思ってたのと違って、飛んでるって感じじゃなくってな──」


 上空で感じた残念な空気をギルが説明すると、リサとゲオルグは落胆の表情を浮かべてレオを見た。


「そんな目で見るなよ……俺の飛行魔法はこれしかないんだ。足を踏み外したら危ないし、つまらないって言われてもなぁ……」


「怪我しないように、って事なら仕方ないですね」


 諦めの表情を浮かべるリサとは対照的に、ゲオルグは口をヘの字に歪めて腕を組んだ。

 暫く考え込んだ後、首を捻りつつレオに聞く。


「なぁ、さっきの飛行魔法、アタシにかけるってのは無理なのか?自分で走った方が面白そうだ」


「いや、あんな高度な魔法他人になんて無理だと思うぞ」


 無茶振りと思ったギルが割って入ったが、実はレビテイトは他人にもかけられる魔法だった。

 けれど慣れるまで操作が難しく、向こうでは落ちてもダメージは無かったが、こちらでは高度に寄っては死んでしまう事もある。


「やれる事はやれるが、危ないから止めた方が……」


 それを聞いたゲオルグはニヤリと笑い、その顔を見たギルは「なんでやれるって言うんだよ」という表情でレオを見た。

 ギルの言わんとした事に気付いたレオだったが、時既に遅く、ゲオルグに詰め寄られてしまう。


「高いとこに行かなきゃ良いんだろ。大丈夫だって、アタシは身体も頑丈だし、木の上くらいまでしか行かないからさ」


 ゲオルグの性格を考えると、何とか断った方が良いかもしれないと思ったレオだったが、気晴らしにもなるだろうし、フォローしてやれば大丈夫だろうと思い直した。


「まぁ、そのくらいならいいか。俺も並走するから、行き過ぎるなよ」


「わかってるって、良いから早くやってくれよ」


 ゲオルグの足元ににレビテイトのイメージ──円とルーン文字が浮かぶ──を浮かべたレオだったが、魔法をかけられた本人は首を傾げた。


「まだかい?」


「え、もう魔法はかけたはずだけど……」


 そうなのか。と、生返事をしたゲオルグはその場で足を上げたり、ジャンプしたりしたのだが、一向に空中に足場を作れる様子は無い。

 空中を足で掴む感じで──とか、足の裏をなるべく水平に──等とアドバイスをしながらも、レオが何度か魔法をかけなおしたのだが、結局アルザダが村の方から来る旅人を見つけるまでかかっても、ゲオルグが空を飛ぶことは無かった。


 ゲオルグは不満そうにぶつくさ言いながら諦めたようだが、レオはそう単純には済まなかった。

 思い返してみれば、リサが放った魔法を完全に食い止めたレジストシェルも、元のゲームの時とは性質が違っていた。

 大き目の薪の上に腰掛け、配給された食糧を食べながらどうしてだろうかと考えるレオの所に、ギルがやってきて声をかけた。


「よう、どうしたんだ」


「ギルか。ちょっと考え事してただけだよ、何か用か?」


 相談したい所だったが、呪いの事があるので正直には言えずにはぐらかすと、ギルはレオの隣に腰掛けて言った。


「いや、用って訳でもないんだがな。さっきの荷馬車で話した事で、ゲオルグのやつ臍曲げちまって、こっちに追いやられたってわけだ」


 肩を竦めて冗談めかして言うギルに、「俺の隣は流刑地なのか」とレオが項垂れながら呟くと、ギルはニヤニヤと笑いながら答えた。


「困った事がある奴は、皆レオに吸い寄せられていくんだよ」


「全く嬉しくない引力だな……ところで、随分詳しいみたいだったけど、ギルとゲオルグって付き合い長いのか」


「別に長いって訳でも無いぞ。この近くで野垂れ死にかけてたゲオルグを拾ったのが始まりだったんだが、最初は一緒に旅してた時、護身用にって剣を教えたら、あっと言う間に追い越されちまってな。俺じゃ高ランクのクエストは着いていくのも覚束ないってんで、すぐに別れたんだ」


 更にギルは明後日の方向を見ながら、「それに、あの頃はDランク止まりだったしな」とギリギリ聞こえる程の小さな声で言った。


「へぇ……」


 何となく興味が沸いてチラリとゲオルグの方を見ると、向こうもレオ達のしている話が気になるらしく、目を据えてこちらの様子を伺っていた。

 慌てて食事に集中したレオは、話し相手のギルに視線を戻すと、話題を変えた。


「ん、けどゲオルグに剣を教えてたって、ギルって歳いくつなんだ?」


「今年で31になる」


「なるほど」


 何だか妙に気が合う相手だとは思っていたが、レオの元の体の年齢と近いと言うのもあったのかもしれない。

 一人で納得して頷いているレオを不審に思ったのか、ギルも聞いてくる。


「そういうレオはいくつなんだよ。ハイエルフは見た目と釣り合わねぇ歳だってのは前聞いてたけどよ、実際何百歳くらいなんだ?」


 別に隠す事でもないしと思い正直に答えようとしたが、よく考えるとこの世界での1年が何日だか解らなかった。


「ちなみに、一年って何日だっけ?」


「360日だろ。って何の質問だ今の」


 元の世界と殆ど大差が無い事に安堵し、首を傾げるギルを何とか笑って誤魔化すと、レオは28歳だと告げた。

 これにはギルは大いに驚いたようで、大きく目を見開いて声を上げた。


「って事は、お前も年下だったのか」


「ああ、3つ年下だな」


「そうか……」


 何やら考え込むように黙ってしまったギルを尻目に、食事を終えたレオは荷馬車でこり固まった身体を伸ばした。


「なあ、ちょっと運動がてらまた剣の練習しないか。この所、ずっと座ってばかりだし」


「剣の相手ならゲオルグの方がいいんじゃねぇのか?」


 肩を竦めて自嘲気味に言うギルに、レオは呆れたように溜息をついた。


「ゲオルグは……強いけど、熱くなると終らなくなるんだよ……」


「確かに、それは厄介だな」


 納得したように笑ったギルは、立ち上がって荷馬車から木刀を取り出す。

 レオもそれに続き、二人は荷馬車が出発するまで、小一時間ほど身体を動かした。




 出発してから3~4時間程度行った所で、寂れた村が見えてきた。

 近くの商店に交渉しに行ったアルザダとギルを残し、レオ達3人は先に宿を取りに行く。

 その途中、ゲオルグが不意にレオの肩を掴んだ。


「東の宿は止めときなよ、あの宿は安いがあんまり清潔じゃないんだ。西の方に小さいが良い宿がある、案内するから付いてきな」


 踵を返して西へ向うゲオルグを見て、事情を知らないリサがレオに不思議そうに聞いてきた。


「ゲオルグさんどうかしたんでしょうか、いつもとちょっと様子が違うような」


「色々と事情があるみたいだ。俺からはちょっと……気になったなら、後で本人に聞いてくれ」


 リサは頷くとゲオルグの後に続いた。

 あの2人は普段からよく話しているし、間にレオが入る必要も無いだろう。


 西にあった宿で、手続きを済ませて部屋に荷物を置くと、魔軍の情報を聞くために道中で見つけた冒険者ギルドへ向った。

 通信手段の少ないこの世界では、最新の情報を得るのは難しいかもしれないが、注意して置いて損は無い。

 だが、予想通りと言うべきかギルドのカウンターに居た若い男は、レオの魔軍に関する質問に首を捻った。


「うーん、ハウラが襲われたって話はきいたけど、他に魔物の軍の話は聞かないなぁ。なんでも、身長3メートルくらいで筋骨隆々の化け物みたいな顔したエルフが、単独で魔物の将軍を倒したって噂だし、向こうもまだ混乱してるんじゃないか?」


「へ、へぇ……」


 あまりにも尾ひれがついた噂に、どこから突っ込んでいいか解らなくなったレオは、魔物の事以外は聞かなかった事にした。

 帰り際、魔物の侵攻は暫く無いと踏んでか、かなり緊張感に欠けるギルドの受付に忠告をしておく。


「まだ話が伝わってないかもしれないが、魔界じゃ飢饉があったらしくて魔物は飢えきってるから、これかは魔軍とは関係なく数が多くなるかもしれない。気をつけたほうが良い」


「その話は初耳ですね。確かな情報でしょうか?」


「ハウラで聞いた話だ、間違いないと思う」


 それを聞いた受付の青年は、困り顔で頭を掻いた。

 情報があったとしても、ここのように多少大きい程度の村では殆どとれる対応など無いのだろう。

 溜息と共に言われた礼を受け取ると、保存の効きそうな食材を買い足して宿へ戻った。




 食堂へ行くと丁度リサとゲオルグが話をしている所だった。

 ゲオルグの話をしていたようだが、一区切りついた所だったようでレオが近づくと、空いている席に着くよう促される。


「ギルドの方はどうだったんだい?」


 ゲオルグの問いに、少々顔を顰めたレオが答える。


「あの後はあまり動きは無いみたいだ。といっても、明らかに楽観してる風だからそもそも情報を集めてないだけかもしれないが」


「ただでさえこの辺りは国境の小競り合いで厄介ごとが多いんだ、あんまり期待するのも酷ってもんさ。ともかく、全然話も出てないって事は良い事じゃないか」


「ま、そうだけどな」


 序盤でいきなり要人を失った魔軍の方も、今は荒れている事だろう。

 自分達で納得している二人を他所に、横で聞いていたリサは首を捻った。


「確かにここまで、そんなに魔物も多くなかったですね……でも、よく考えたら魔物って動物みたいなモノが殆どなのに、どうして少ないんでしょう」


 リサに言われて気付いたのか、ゲオルグもこれまで倒した魔物を思い出すように中空を見た。


「言われてみれば、腹減ったら軍の意向なんて無視してこっちの世界に来そうなヤツが多いね」


 何でだろう。と、首を捻るリサとゲオルグにレオが答える。


「向こうに行って見た感じだと、そこそこ頭がいい奴が管理してるみたいだったな。畑とかもある程度整備されてたし」


「ああ、思い出した。前に魔物の研究してるとか言う、ヘンテコな学者に聞いた事があったな。大昔に召喚された悪魔と魔物の混血種は、強くて頭もいいとか」


 ゲオルグの話が本当なら、魔物達も意外と人間に近い生活をしているのかもしれない。

 向こうでの戦争は新しい魔神が生まれるまで無かった事から、将軍の死で混乱が続いているようだが、その混乱が収まればいよいよ本腰を入れて襲ってくるだろう。

 リサとゲオルグは話に昇った学者について話している。

 それを横目に、もう一度魔物が攻めてきた時、自分はどうしているだろうかと考えながら、レオはぼんやりと二人を眺めた。


 何となく口寂しくなったので、厨房に行って軽食と水の入ったカップを取って戻ると、別行動になっていたギルとアルザダが戻ってきていた。

 二人共、少々肩を落として溜息をついている。


「やれやれ、あの雑貨屋の老婆にはやられました」


 疲れ果てた様子のアルザダの肩を叩きながら、ギルも呆れたように呟いた。


「あそこまでしつこく値切ってくるとはなぁ。ま、こんな日もあるさ」


 どうやら相当値切られてしまったようだ。

 苦笑したレオが手に持った食べ物をアルザダに差し出すと、「ありがとう御座います」と呟いてもそもそと食べだした。


 落ち着いた頃合を見て魔物の話を始めたが、話と言うほど大した物でもないので、直ぐに終ってしまった。

 日が暮れ始めると、酒場としても開放している宿の食堂は人気が多くなってきた。

 騒がしくなるかと思ったのか、頃合を見て疲れきっていたアルザダとリサは席を立っている。レオも立とうとしたのだが、襟首をゲオルグに掴まれてしまった。


「ちょっと付き合えよ」


「え、いや俺は……」


 断ろうとした時、ギルがそそくさと席を立って部屋に戻るのに気付いた。

 いつもならギルが付き合うのだろうが、今日は雰囲気が良くない。しかし故郷の近くを通って、飲みたい気分になっているのだろう。

 何となく事情が解ってしまうレオは、諦めの溜息と共に椅子へ座りなおした。


「たまにはアンタもどうだい」


 差し出されたウィスキーのような酒の入った簡素なボトルに、容易に想像できる翌朝のリサの表情を思い浮かべ、項垂れながらグラスを合わせた。

 一口飲んで喉を潤すと、さっさと逃げたギルを恨みつつ損な役回りを演じる。


「しかし、そんなに怒らなくても良いだろ」


「ん?」


 解っているとしか思えない顔でとぼけるゲオルグに溜息をつきながら、もう一度指摘する。


「ギルの事だよ。あいつだって悪気があって言った訳じゃないんだから──」


「そんな事は解ってるさ。ただ、アタシにだって色々とあるんだよ」


 レオとしてもあまり深入りしたい話題ではないが、このままの状態では不味いのではないかと思い唸っていると、ゲオルグが一度グラスを煽ってから続けた。


「旅の途中でもあるし、何日も引き摺ったりはしないさ。この話は終り。ほら、アンタも飲みなよ」


 しぶしぶレオがグラスに口をつけなおすと、ゲオルグは嬉しそうに笑った。

 店は仕事帰りの農夫達と宿に泊まっている冒険者でそこそこ繁盛しているため、少し大きな声で会話を続ける。


「ところでギルに聞いたけど、ゲオルグってギルに戦い方を教わったんだって?」


 未だ何故自分が刀の扱いが出来るようになったのか解らないレオは、戦いの中での駆け引き等はまだまだ練習中の身だ。

 今まさにギルに教わっているレオからみると、ゲオルグは兄弟子と言う事になるのかもしれない。


「教わったって言っても最初の頃ちょっとだけで、アタシの性分にも合わなかったから、基礎の部分意外はあんまり影響受けてないけどね」


 思い起こしてみれば、ギルとゲオルグの立ち回りは真逆だ。援護やサポート重視のギルと敵陣に切り込んでいくゲオルグでは、戦い方が全く違うのだろう。


「それにランクが上がってからは、すぐに別に行動しようって言われたし、期間としてもあまり長くなかったのさ」


 当時の事を思い出しているのか、少し遠い目をしたゲオルグが付け足す。


「なるほどな」


 相槌を打ちながら酒を煽るレオに、今度はゲオルグが聞いてきた。


「そういうアンタはどうなんだよ。あんな扱いにくそうな剣自然に使ってる割に対人戦は弱いし……どういう鍛え方したら、そうなるんだよ」


「う……」


 刀の扱いはこの世界に来ると同時に、いつの間にか身についていたモノだ。説明を求められてもレオには答えられない。


「これは、その……呪いの事とも関係するから、今は言えないんだ」


「ふーん」


 全く納得は行っていないようだが、呪いの話を出されては追求しようもないので、少し考えて諦めたようだ。

 だが最後に、釘を刺してくる。


「今は言わなくていいけどさ。教国についたら、ちゃんと説明してくれよ。ギルやアルザダなんかは、恩人だからってあやふやにしたままでも文句言わないけど、アタシは知っておきたいと思ってるんだ」


「あ、ああ」


 普段あまり思慮深いとは思えないゲオルグからの意外な言及に、レオは少々面食らって頷いた。

 一旦両者が黙り込み、暫く酒場の喧騒だけが耳に入っていたが、あまり面白くない話が続いていた為か、ゲオルグが急に話題を変えた。


「ポーカーでもやんないか。結局アタシとは一回しかやってないじゃん」


「え”」


 確かにポーカーは元の世界を思い出せるのでレオも好きだが、ゲオルグとやるとなると話は別だった。

 賭けをしていた訳ではないのだが、前にレオが一度勝負してから、仲間達は全員「ゲオルグとはポーカーはしない」と心に決めていた。

 実の所ギルが金を賭けないならやらないと言っていたり、アルザダが絶対にやらないと言っているのは、ゲオルグ対策でもあるのだ。


「待て待て、魔物……魔物の話をしないか?例えばこれまで倒した一番デカイ魔物とか──」


「誰かさんが一人で倒した、ジャイアントよりデカイ魔物を倒した事なんて無いさ。良いからとっととトランプだしなよ」


 話を逸らすつもりが、ジャイアント戦の事を思い出させる事で余計に逃げ道を無くしてしまった。

 これから起こる事を考えて冷や汗を流しつつ、顔を引き攣らせたレオは収納袋からトランプを取り出し────




 開始から三時間程が経ち、辺りはすっかり暗くなり、客も粗方帰り初めている。

 ポ^-カーと言っても金は賭けていないのだが、テーブルの上には点数代わりの鉄貨と、ゲオルグが飲み干した空の酒瓶が数本置かれている。

 四度ほど分け直した鉄貨は、今回『も』殆どがレオの前に移動していた。


「ぐ……ぬぬぬ……」


 何度やってもリードさえ取れないゲオルグは、空になったボトルを片手に、握りつぶすような勢いでトランブを掴んで震えている。

 今にも爆発しそうなその有様に、対面に座るレオはいつでも逃げられるようにと腰を浮かせて構えていた。

 と言ってもこの惨状の原因の半分はテーブルに転がっている酒瓶のせいだ。

 やはり故郷が近いと言う事もあってか、レオが止めるのも聞かずハイペースで飲んでしまっている。


 もう一つの原因であるトランプだが、ゲオルグはそれ程運が悪い訳ではない。

 だが、手札がそのまま顔に出てしまうのだ。

 それは読み合いが主なポーカーに置いては致命的である。どんなに良い手が来ても、降りられてしまえば終わりだからだ。

 しかしどんなにレオが指摘しても、一向に改善される事は無く、手が良ければにやけ、悪ければ眉を顰める。

 さらに悪い事に、レオがわざと負けたりすると勘の良いゲオルグは直ぐに気付き「手加減してんじゃないよ……」と、殺意の篭った視線をぶつけてくる。

 レオにしてみれば正しく八方塞がりだった。。


 始める前から決まっていた終わりが徐々に近づいて来て、レオはゴクリと喉を鳴らした。


「え、えぇと……ツーペアだ」


 レオが手札を晒すと、ゲオルグの手からカードがパラパラと落ちた。



 彼女の手札は、何の役も揃っていない。



 これにより、ゲオルグの持つ点数は五度ゼロになった。

 何とか宥めようと言葉を選ぶが、レオ自身も焦っている為に何も浮かばなかった。

 やがて、猫背になっていたゲオルグがポツリと呟く。


「イカサマだ……」


「いや、イカサマなんて使う必要が……」


 つい本音で突っ込んでしまい、慌てて口をふさぐが、最早後の祭りである。

 視線だけで殺されるのではないかと言う程の勢いで睨まれ、思わずたじろぐ。


「じゃぁ、何で毎回アタシのストレート負けなんだ」


「だから、手札の良し悪しを表情に出さないようにしろって──」


「アタシは表情になんてだしてない!」


 酔っ払いの怒鳴り声に酒場は静まり、レオの背中には冷や汗が流れる。


「ちょ……ゲオルグ、冷静に……」


 泥酔したゲオルグはながら、空っぽのボトルを放って腰から剣を抜く。


「ま、まて、剣は抜かないって約束したじゃないか!」


 鞘に収まったままとは言え、殴られればただではすまないだろう。

 泥酔しているはずなのにしっかりと標的を見据えるゲオルグに戦慄しつつ、完全に酔いの醒めたレオは数歩後退した。

 半泣きのゲオルグは、ゆらゆらと頼り無い足取りでレオを追いかける。


 このまま店内で剣を振り回されると宿を追い出されかねないと思ったレオは、全力で宿の外へ駆け出す。


「待ちやがれレオォォォォ──……」


 こうして、泥酔状態のゲオグルの怒声を背に、レオは小さな村の中を暫く駆け回る羽目になった。










 どうも、作者です……。


 内容忘れられそうなくらい間が空いてしまいましたorz


 勘も鈍ってると言うか、見直してもこれで良いような悪いようなという、完全なブランク明けモードになってしまいました……。

 徐々に戻していくつもりですので、暖かい目で見守って頂けると助かります。


 内容についてですが、次回もアルザダの話という事で、脇道逸れる回が続きます。

 間空いた直後で説得力ありませんが、なるべく早めに出せればと思います。



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