捨てられぬもの
出発の前に、アルザダの護衛依頼を正式なものにする為に冒険者ギルドへ行って受付をしたのだが、レオの話が広まり始めているのか、白髪頭のギルド長が出てきて強引にランクアップさせられてしまった。
特例で試験は無い代わり、事務的な手続きが必要なようで、ロケットの色がランクEの黄色からDの青に変る頃には1時間程かかってしまった。
一緒に街を回る約束をしていたリサ以外は、既にギルドを後にしている。
「ごめんリサ、こんなにかかるなんて」
「別に良いですよ。時間が掛かったのはギルドの都合ですから」
文句も言わずに待っていてくれたリサに頭を下げたレオは、眉を寄せて唸った。
「あんなに強引にランクアップさせられたって事は、確実な情報として回って来てるのかなぁ」
「街を歩くのも、早めに切り上げて出た方が良いかもしれませんね」
「はぁ……まあ、仕方ないか。徴兵されるよりはマシだ」
一昨日までアルザダの手伝いをしていたレオ達は、商品の積み込みの間街を巡るつもり予定だったけれど、この状況では早めに門へ向って手伝った方が良さそうだ。
せっかくリサと街を周ろうと思っていた時間が削られた事に溜息をついたレオだったが、待っていたリサと共にギルドを出る時に、丁度見送りに来たセシリアとかち合った。
「こんにちはレオさん。あら、そちらの方白髪だったので人間の老人かと思ったのですが、違ったんですね」
「ブッ」
レオとしてはセシリアの突然の暴言に驚いて噴き出してしまっただけなのだが、慌てて口元を抑えてリサをみると、彼女は冷笑を浮かべてレオを見ていた。
「どうしたんですかレオさん、今の冗談がそんなに面白かったなら、もっと笑っていてもいいんですよ」
「ち、ちがうんだ……今のはただ、ちょっとビックリしたというか……」
リサはそんなレオの残念な弁明を軽く流すと、何故か困惑しているセシリアに向き直った。
「因みに、こちらのエルフさんは何方ですか」
「えぇと、彼女は前に魔軍の事を教えてもらったセシリアだ」
「セシリアです。あの、レオさんには何度もお世話になっているので、見送りをしようと……」
「スタンプの件とかで、エルフとの繋ぎ役を頼んだんだ。ほんと、それだけなんです」
必死に紹介を続けるが、リサは特に興味が無いと言った風に流した。
「そうなんですかー」
気まずい空気を感じ、セシリアも慌てて手を振って弁明を始めた。
「ご、ごめんなさい。森を出たのも最近だったし、人間とはあまり会話した事が無いので、つい」
流石のレオもこの弁明には納得が行かず、小声で責めるように言葉を続ける。
「いや、ついうっかり言う内容じゃなかっただろ……」
「本当にごめんなさい……でも、ドワーフと話す時は最初にあの位言ったほうが会話が盛り上がるので、異種族は皆そうなのかと……」
言われてみれば、バルドもよく髭を馬鹿にされると言っていた気がする。
確かにドワーフには彼のような性格のものが多いなら、さっきの挨拶で概ね正解なのかもしれない。
「そういう事なら、もう良いですよセシリアさん、知らなかったなら仕方ないです。レオさんは別ですが」
恐縮してしまったセシリアを宥めるようにリサが言った。
「俺は別なのか……」
「何か言いましたか、1時間待たせた上に私を笑ったレオさん?」
そう言って再度笑うリサを前に、許されたはずの案件まで蘇った事に恐怖したレオは、無難に話題を変える事を選んだ。
喉を鳴らした場面で、目を逸らした先に丁度軽食屋が目に留まった。
「その、せっかく来たのに立ち話もなんだろう、何か飲みながら話さないか」
特に反対意見も無かったので、レオはそのままそそくさと軽食屋の中へと駆け込んだ。
茶菓子と薬草茶を頼み、セシリアに向き直ったレオは用件を聞く。
「それで、何か用件があって来たのか」
頷いたセシリアは、戻ってきた時にスタンプと一緒に返したはずのコンパスと、真新しい地図を取り出した。
「はい、実はスタンプを届けた時に、長老からまだこの大陸に慣れていないレオさんに、お礼としてこれを渡してくるようにと頼まれたんです」
彼女の話によると新しい地図はこの大陸の地図のようで、4つの国を分ける線が敷かれている。
その中の一つ、西にある最も大きな国にはナルバ共和国と書かれており、その東の端、中央より少し北の位置に現在居る町、ハウラの名前が書かれていた。
その少し北にはクラム魔術帝国と書かれた地域があり、その国境沿いを西に行った場所に両国の間に割り込むような形で教国と書かれた場所があった。
「この地図とコンパスは、レオさんに差し上げます。国境は状況に合わせて書き換えたもので、森の位置も今では多少変っているかもしれませんが、平野や山は目印になると思いますし、遠慮なく持っていってください」
「ありがとう、正直助かる。聞いた話から想像するのと、実際地図を見るのとじゃ違うからな……アルフにもお礼を言っておいてくれ」
レオが差し出された地図とコンパスを受け取ると同時に、頼んでいた茶菓子と薬草茶が届いた。
それをテーブルの中央に置くと、受け取った地図を再度広げて見る。
「どうぞ、遠慮なく食べてくれ。それにしても、あまり森をでないって言うエルフが、よくこんなの作れたなぁ」
「変わり者が居たんです。本人は馬に乗ってあちこち歩くのが好きで、地図を作ったのはついでみたいなものだったらしいですけれど」
「へぇ……」
最後にもう一度地図を眺めて仕舞い直すと、豆を潰して焼いた菓子を頬張りながら、レオはエルフの森に行ったときの事を思い出しながらしみじみと言った。
「しかし、アルフもよくあの場面で信じて色々と貸してくれたよな。貸してもらえなかったらかなり厳しかったけど、あの時の俺はかなり胡散臭かったきがするんだが」
「ハイエルフの方々は基本的に嘘はつきませんから、信じるのは当たり前ですよ。レオさんは色々と特殊なようですが、嘘を言う人には見えないですし」
真剣な表情で褒めるセシリアに、
「そ、そうか」
と言って照れながら茶を口に運ぶレオだったが、干され気味になっていたリサに背後から毒づかれた。
「話を逸らすのと忘れるのは、随分と上手いみたいですけどね」
「ぅあつっ」
驚いたレオは、飲みかけた茶を少し零して服を汚してしまった。
流石に悪いと思ったのか、リサがテーブルの端にあったフキンを手渡す。
「大丈夫ですか。全く、いつも気をつけてって言われてるじゃないですか」
「いつも?」
飲み物を零した事など滅多に無いレオは、いつの事だろうと小首をかしげた。
するとリサは、何故か顔を伏せて「何でも無いです、間違いました」と言ったきり黙りこんでしまう。
仕方なくセシリアに首輪を外したエルフ達の話を聞きながら、食事を済ませ店を出たのだが、リサの顔色は悪いままだった。
「リサ、具合でも悪いのか」
心配になったレオが声を掛けたものの、リサは困ったように笑って首を振った。
「本当に何でもないんです……ごめんなさい、ちょっと忘れ物を思い出したので、一度宿に行ってから北の門に向かうので、先に行っていてください」
様子のおかしいリサが気にかかったが、隣にはセシリアも居るので、レオは黙って頷いて北の門へ向かった。
リサの姿が見えなくなった所で、レオはセシリアに疑問に思っていた事を口にする。
「そういえば、あんなに人間を毛嫌いしてたのに、リサには普通に接してくれるんだな」
言われたセシリアは、少し呆れたように苦笑した。
「幾ら私でも、あんな娘相手に突っ掛かったりはしませんよ。レオさんが助けたがっていた相手と言うのもありますし、あの子まだ16歳くらいでしょう?」
「ま、確かにな……」
普段しっかりしているのでたまに忘れそうになるが、リサはまだ精神的には大人とは言えないであろう年頃だ。
気を使ってくれたセシリアには、感謝しなければならないかもしれない。
「けど、レオさんは本当に変っていますよね……一人の相手にそんなに必死になるなんて、他のハイエルフの方々からすれば、考えられないのではないでしょうか」
「ん、なんでだ?」
一人の相手に固執するのは、種族関係無くあり得る事じゃないかと思っていたレオは首をかしげたが、セシリアは本当に不思議で仕方が無いという風に続けた。
「アルフさんもそうですが、この大陸のハイエルフは、普通個別の人物に対してあまり感情を持ちません。遠い異国からやって来たレオさんは別ですが、自分の森の者でも、その森のエルフ全体という意味で配慮する事が多いです」
「へぇ」
上位種故の感情と言うモノなのだろうか、元が人間のレオには良く解らなかった。
「生まれた時から皆そうだと言われているので、特例なのでしょうね。魔物の将軍も凄い魔法を使って一人で倒して来てしまうし、レオさんには驚かされてばかりです」
「その話は止めてくれ。仲間にも散々怒られたし、正直今考えれば無謀だった。魔物をナメてたよ」
レッドワイバーンやジャイアントにあまり苦戦しなかった事から、この世界の魔物は大した事が無いだろうと思っていたレオだったが、実際に行った暗殺計画は見事にその奢りに足元を掬われた形になってしまった。
本人としては、今はあまり思い出したくない過去である。
その作戦によって、友人や仲間達が首輪の呪縛から解き放たれたセイリアはもう少し食い下がりたかったが、無謀と言う所はイマイチ否定しがたいので、諦める事にした。
「本来なら、お礼に私も同行したいのですが、私にも使命があるので……」
顔を伏せるセシリアに、レオも沈痛な面持ちで答える。
「行方不明のエルフ達……か、俺の事は気にするな。幸い仲間には恵まれているし、俺も見かけたら助けて静寂の森に行くように伝えておくから、セシリアもそのまま旅を続けてくれ」
「お願いします。ここ数十年あまり見つからなくて……人間嫌いな私も、最近になって森を出る事になったくらいなので」
頭を下げたセシリアを見た視界の端に、北門への道が見えた。
レオが門の脇に目を向けると、丁度ゲオルグとギルが荷馬車に荷物を積み込んでいた。
それを見たセシリアは、微妙に顔を引き攣らせながらレオの後ろに隠れて聞く。
「あの、レオさんはアレに乗って旅をしているんですか」
「そうだけど……どうしたんだ?」
「レオさんには何でもない事みたいですけど……普通エルフは、人間の作った乗り物や道具には嫌悪感が沸くものなんですよ」
顔を引き攣らせたままレオの後ろに隠れ続けるセシリアからは、荷馬車だけでなくゲオルグやギルに対しても嫌悪感があるように感じられる。
レオに気付いたゲオルグは隣に居るのがリサで無くセシリアだと言うことに気付き、首を捻った。
「あれ、誰だいその娘。一緒に居たリサはどうしたのさ」
「リサは忘れ物を思い出して、宿に行ってるんだ。こちらはこの前話した、エルフのセシリアだ」
「なるほどねぇ、アタシはゲオルグ、よろしくね」
そう言って差し出したゲオルグの手を、セシリアはレオの背に隠れつつじっと見つめた。
「どうも……」
暫くその状態が続き、意味が解っていないゲオルグが手を出したまま首をかしげて、解っているレオもどうしたものかと唸り始めた頃、ようやく前進したセシリアは手をちょっとだけ当てて直ぐに引っ込めた。
場が微妙な空気に包まれ、3人とも何と言ったものかと悩んでいると、見かねたギルが荷物を置いて割って入る。
「何やってんだよゲオルグ、この前レオに、エルフの事情教えてもらったじゃねぇか……悪いなセシリアさん、俺はギル、ゲオルグの連れだ。コイツは何も考えないで生きてる奴だからさ、さっきの事は多めに見てやってくれ」
自分を貶し尽くした自己紹介に、若干不満そうなゲオルグだったが、ここはギルに任せた方が良いと思ったらしく、渋い顔をして押し黙った。
セシリアもギルの方はまだ話しやすいようで、レオの横にで頭を下げた。
「静寂の森から来たセシリアです。こちらの方こそレオさんにはお世話になって……そうだ、長老のアルフから仲間の皆さんに伝言で、『我々の事情で仲間のレオさんを危険に晒してすまなかった』と」
またこの話題か。とレオは顔を引き攣らせて明後日の方を向き、それを見たギルは苦笑した。
「それは別にいいぞ。聞いた話じゃ、レオの方が教えてくれって頼んだみたいだし、そっちにも事情があったんだ、謝るような事じゃない」
話の流れは悪いものではなかったが、いい加減この話題から離れたかったレオは、強引に話を逸らす事にした。
「ところで、準備の方は終ったのか?」
「俺達の分は終ってるぞ、アルザダの方はもうちょいだな。そこに置いてある分で最後だ、本人ももうすぐ取引先から戻ってくるはずだ」
「なら俺も手伝おう、セシリアは──」
「勿論私も手伝います」
「そうか、ならあの袋を頼む」
なるべく急ぎたい状況でもあるし、リサを待つ事も兼ねて、全員で残りを積み込むことにした。
積み込みはレオ達が手伝った事もあり、10分程で終った。
多少打ち解けた4人は、荷馬車に腰掛けこれまでの旅について話していた。
「ホント、あの山菜食ったときは、リサに掘ってもらった穴に吐き続けながら、絶対レオを殺してやるって思ったもんだよ」
「そ、その事は散々謝ったじゃないか……」
頭を掻きながら目を伏せるレオを、セシリアが驚いたように見つめる。
「レオさんって、あんなに凄いハイエルフなのに、山菜と毒草の区別がつかないんですか?」
「いや、あの時はまだ、このメモの内容もちゃんと覚えてなかったし、他にも考え事をしててボーっとしてたんだよ」
荷馬車に積んであった収納袋から、薬草が書かれたメモを取り出したレオだったが、それを見たセシリアは更に眉を顰める。
「それって、ハイエルフの方が私達普通のエルフにも解りやすいように、薬草の特徴を纏めてくれたメモなんですけど……」
レオがメモを持ったまま固まって二の句を告げられずに居ると、ゲオルグがニヤニヤ笑いながら詰め寄ってきた。
ゆっくりと剣を鞘ごと取り外すゲオルグを見て、レオは荷馬車から立ち上がって数歩後退する。
「おやぁ、他のハイエルフはこんなの読まなくても、山菜と毒草の区別は付くみたいだけど、アンタひょっとしてわざと間違えた訳じゃないよねぇ?」
ゆらゆらと矛先を探すゲオルグの剣を前に、レオは背中に冷や汗を流しながら後退を続ける。
「や、ヤダなぁゲオルグさん、あの毒草は俺も食いかけたんですよ、知ってたらわざわざ食べようとする訳ないじゃないですか」
必死の弁明も虚しく、ゲオルグの剣はレオの足元を小突き始める。
突然豹変したゲオルグにセシリアが硬直し、これから始まる見世物に期待したギルは面白そうに笑う。どうしたものかとレオが視線を巡らせていると、取引先から帰ってきたアルザダが目に留まった。
「荷物はもう積み終ってましたか。おや、こちらの方は?」
丁度ゲオルグの背後から現れたアルザダは、2人の様子には気付かずセシリアに目を向けた。
「アルザダさん、丁度いいところに……彼女が前に話してた、エルフのセシリアです」
「あ、始めまして、静寂の森から来たセシリアです」
レオの背後から痛い視線を感じる気がするが、振り返ったら負けだと言い聞かせ、何とか平静を保つ。
「どうも、商人をしているアルザダです。ところで、リサさんはどちらに?」
「忘れ物を取りに……って、そう言えば遅いな」
アルザダに言われて気付いたが、途中で宿に寄ったとしてもそろそろ着いていなければおかしい時間だ。
様子を見に行きたいが、人間嫌いのセシリアを一人残していくのはどうだろうと思いレオが視線を向けると、彼女は苦笑していた。
「私は良いですから、様子を見に行ってあげてください」
「すまない、ちょっと宿に様子を見に行ってくる。直ぐ戻るから、待っててくれ」
そう言って走り去っていくレオを見送りつつ、ゲオルグがやれやれという風に言った。
「しかし、レオの世話好きも随分板についてきたねぇ」
「そこがレオらしくていいじゃねぇか。お前だって、アレが面白そうで着いて来たんだろ?」
心底面白そうに笑うギルに、「まぁね」と曖昧な返事をしたゲオルグは、小さく笑って荷馬車に乗り込んだ。
◆◇◆◇◆
──レオ達と分かれたリサは、宿泊していた部屋へ戻っていた。
後ろ手に扉を閉め、部屋の中で一人になると、軽食屋での出来事が思い起こされる。
食事中に、飲み物を零していつも叱られていたのは、レオではなくリサの父親だった。
商売仲間を家に呼んで、話をしながら食事をするのが好きだった父親は、酔ってよくお酒を零しては母に叱られていた。
レオが、自分が何とかしてみせると言って笑った時、リサは北の町で落ち合おうといったきり居なくなってしまった父が、ようやく現れたような気がしていた。
だが、彼はリサの父親になりたくて彼女を助けた訳ではない。
父親のように思っているリサの感情は、レオにとっては不条理な評価なのかもしれない。
けれど、未だ精神的に幼さの残るリサにとって、今最も必要としているのは恋人ではなく、無くしてしまった家族に代わる者だった。
それを自覚した時、宿に置いたまま捨てていこうとした奴隷の首輪を、どうしても取りに戻りたくなった。
嫌な思い出しかない首輪だったが、レオに拾われた時には全ての持ち物を無くしていたリサにとっては、家族の思い出が宿る、最後の品だ。
リサの首には、レオの治癒魔法でもなかなか治せない痣が残っているので、今もレオが買ってきたリボンが巻かれている。
今はこれがあれば大丈夫だと思っていたリサだったが、自分の弱さを自覚した今、首輪が捨てられなくなってしまった。
そっと首輪に指を這わせると、両親や姉の事が鮮明に脳裏に浮かぶ。
「ごめんね……」
ぼんやりとした口からでた謝罪は、誰に対してのものだかリサ自身も解らないけれど、その言葉で、やはりこの首輪は手放せない。と、嫌でも理解させられた。
そのまま、取りとめも無い昔の思い出に浸っていると、あっという間に時間が過ぎてしまい、突然ドアをノックする音が部屋に響いた。
「リサ、まだ居るのか?」
扉の向こうから響くレオの声に、リサは反射的に首輪をポケットに入れた。
「はい、今出ます」
リサは扉の前で一度立ち止まり、表情を作ってから扉を開いた。
廊下に出ると、レオがいつもの様に頭を掻いておずおずと聞いてきた。
「その、さっきの事でまだ怒ってるなら……」
「いえ、私はもう何も怒ってないですよ。ところで、出発の準備はもう終ったんですか?」
「ああ、アルザダの荷物も積み終わったし、後はもう出るだけだよ」
感傷に浸っていた間に、かなり時間が経ってしまったようだと気付いたリサは、困ったように笑う。
「ごめんなさい、遅くなっちゃいましたね。行きましょうか」
それは見ていたレオが心配になるような表情だったが、今のリサには精一杯の笑顔だった。
◆◇◆◇◆
2人が北門へ戻ると、荷馬車からすこし距離を置いた所に立つセシリアが、頭を下げてきた。
「それではレオさん、お元気で。また近くに来る事があったら、森にも寄ってください」
「ああ、色々と世話になったな。セシリアも頑張ってくれ」
セシリアが頷くのと同時に、荷馬車からギルの声が響いた。
「お、来た来た。おーい、そろそろ行くぞー」
最後に会釈したレオとリサが荷馬車に乗り込み、二台の荷馬車はセシリアに見送られながら走り出した。
門で衛兵に「もう少しゆっくりしていっても……」と引き止められたが、正式な命令は出ていない為か、何とか街を出る事ができた。
ダールと違って出会った人は少なかったが、色々な出来事があったリサは、そっとポケットの中にある首輪を握りながら、小さくなっていくハウラの門を見つめていた。
スランプがこんなに辛いものだったなんてorz
お待たせして申し訳ないです。ようやく出来ました……。
内容についてですが、『彼の戦い』までのしわ寄せの影響で、リサの話が多めになっていますが、次回からは仲間の話が出てくるのでご安心を。
それと感想でスタンプについての意見が多く寄せられたのですが、実は1話分省略した話があって、そこで補足するつもりだったのが、そこまで説明ばかりだった事や、どの道『彼の戦い』でスタンプは終わりだと言う事もあり省略しました。
違和感強い方が多いようなら、余裕ができてから加筆しますのでご意見頂ければと思います。