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作者: 五月愛珈

 例えば、二階建てのアパートで寝ていたとしよう。すると、天井の方からどたどたと走るような音が聞こえてくる。上の階には誰も住んでいないし、幻聴ではなく実際にはっきりと音がする。

 ――普通、これはなんだろうと思う。そして考えるよね、原因はなんだろうと。

 考えているうちにふと、上の部屋の隣には小さい子供がいたことを思い出す。そうすると、足音が響いただけだと推測できる。原因がわかったところで迷惑には違いはないんだけれども。

 仮に二階で寝ていたとしたらどうだろう。

 上から音がするはずはないし、原因不明の音が聞こえてくるわけだから、薄気味悪いよね。

 でも、押し入れの上の板を外して中をのぞいてみたら、糞らしきものが落ちている。これは鼠などの小動物だろう、とおおよその推測はできる。

 すると、不気味でもなんともなくなるよね。


 で、ここからが本題なんだけど。

 仕事から帰ってきたら、部屋に俺の叔母さんがいたんだ。

 叔母さんは俺の母親の姉にあたる人で、俺は律子叔母さんって呼んでるんだけど。律子叔母さんが訪ねてくることを俺は事前に知らなかったし、合鍵を渡しているわけでもない。うちの母親と一緒なら、まだわからないでもないんだけど。

 小さい頃はよく律子叔母さんの家に遊びに行ったし、娘の夏奈子(かなこ)姉ちゃんにも可愛がってもらったと思う。

 小さい頃は休みになると家族で律子叔母さんの家に遊びに行ったり、うちにも律子叔母さん達は遊びに来てたしね。夏奈子姉ちゃんは美人だし、遊べるのが楽しみだったな。

 で、律子叔母さんは口うるさいうちの母親と違って、実におしとやかな人で。確かお茶の先生をしてたんだったかな。

 なにが言いたいのかというと、姪っ子の家に無断で立ち入るような常識ない人じゃないってこと。

 俺の部屋はワンルームなんだけど、窓際にシングルベッドが置いてあって。ベッドをソファー代わりにすると、ちょうどテレビが見やすい位置になってるってわけ。

 そのベッドとテレビの間で、なぜか律子叔母さんが正座をしてる。

 俺に背中を向けてるから顔は見えないんだけど、着物を着た後ろ姿でああ叔母さんだなってわかる。ぴっと背中をまっすぐに伸ばして、黙って青い遮光カーテンの方を見てる。

 普通はさ、部屋の住人が帰ってきたらリアクションの一つぐらいすると思うんだ。こっちを振り返るとか、おかえりって言うとかさ。叔母さんは黙って座ったままこっちを気にしてる素振りすらない。

 俺は思わず一旦外に出て、母親に電話してそれとなく律子叔母さんのことを聞いてみたんだよね。

 母親と律子叔母さんは仲が良いから、なにか心当たりがあるんじゃないかと思ったわけ。

 俺も律子叔母さんには良くしてもらってるけど、俺の家には来たことはないから。当たり前みたいに部屋にいられても、どう対応してよいやらわからないしね。

 それなのにうちのオカンときたら、のんきに夏奈子姉ちゃんの子供の夏姫(なつき)ちゃんが幼稚園のお遊戯会で白雪姫やったとか、次はいつ帰ってくるのとか長々と話やがる。仕方なく適当に話を切り上げてみたものの、部屋には律子叔母さんがいるわけで。気まずいなとか思いながら、仕方なく俺は部屋に入ったわけですよ。


 そうしたら律子叔母さんは、普通に消えてた。


 さっき見た時は、律子叔母さんが透けて見えるとかじゃなくて、本当にそこにいるんだと思った。 それほどはっきり律子叔母さんだと思ったにも関わらず、誰もいない。 律子叔母さんが死んでるんなら、霊の仕業なんだろうとか、まだ納得のしようもあるんだけど。

 それと、死んだ人が最期に報せにくるって話だっけ、亡くなった時刻に生前の姿で現れたりとかするやつ。

 さすがに、それはないか。

 現実的に考えてあり得るのが、ベランダに隠れた可能性と単なる俺の勘違いってとこか。

 一応確認のためベッドの横を通ってベランダに行こうとしたら、どこからか知ってる臭いがした。

 ――これはお線香臭いか、って思ったらぞっとしたね。

 んで、慌ててカーテンを開けてみたけどベランダには誰もいないし、鍵はきちんと施錠されてた。

 いろいろ考えてみたものの原因は、今でもそれはわからないままだったりするから、ふと思い出すと気になるわけだ。







「あ、もしもし。律子姉? うん、いま美明(よしあき)から久しぶりに電話きたんだけど……うんうん、やっぱりそうなの……?」

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