子猫の悪巧み (インターミッション1)
事件に巻き込まれた主人公と涼花。
何とか解決するも、主人公は足をボウガンで撃たれてしまった。
平日の放課後。
通学路の途中にあるファーストフード店。
店舗の一角にあるテーブルに女子高生3人が座っていた。
目立つツインテールの女子が、言わずと知れた神崎涼花。
その右隣の小柄でショートヘアの娘が、御津御美波、反対側の金髪の娘が田中麒麟。
二人とも中学以来の涼花の親友だ。
「‥そんで、あの護って人が怪我したってワケ?」
麒麟が訊ねる。
「そう。足をボウガンで撃たれたのよ」
「そ、それって大変なんじゃ‥」
美波が驚いた様に口に手を当てる。
「まぁ、ボウガンって言っても飾り用のやつで、そこまで威力は無かったんだけど‥」
「ああ、それであの人暫く休みんだ‥」
美波は頷いた。
「だから涼花は今日、あの店に行かないのか」
「そ、それだけの理由でも無いけど‥」
照れながら言い訳する涼花。
と言っても、麒麟と美波にはバレバレだった。
「チャンスじゃん、涼花!」
「え?」
「怪我して動けないなら‥今度こそアパートにお邪魔して」
「うん、お邪魔して?」
「護さんを‥頂いちゃおう!」
「頂く?」
一瞬、意味が分からず、戸惑う涼花。
意味を理解して慌てて否定する。
「‥ちょっと! 変な事言わないでよ!」
「だってさ、怪我してる今なら、3人掛かりで力ずくで‥」
「そんなの駄目に‥って、 待って。貴方達も行くつもりなの?」
「‥護さんって結構イケてるよねぇ」
美波がうっとりとした表情を浮かべる。
「あのタイプは結構じっくりと気持ちよくしてくれると思うんだよね‥」
麒麟も期待満点な表情で言う。
ここで涼花は麒麟がかなり男女関係に奔放なタイプだという事を思い出した。
「だだだ、駄目ーー! 護さんはっ!!」
立ち上がり、真っ赤な顔をして怒る涼花。
思わず麒麟と美波は吹き出した。
「あはは、冗談だよ、涼花」
麒麟は涼花の肩を叩きながら言った。
「え、冗談?」
「だって涼花ちゃん、全然アタックしないんだもん」
美波も涼花の事を小突く。
「そうそう」
「し、してるわよ‥一応‥」
「それって一緒に猫探したり、風邪の差し入れしたり、とか?」
「そ、そうだけど‥」
「弱いっ!弱弱だよ」
美波は溜め息をつく。
「え?」
「涼花ちゃんのために言うんだけどさ、護さんって結構モテると思うから、早めに既成事実作らないと、後悔するよ」
「き、既成事実ぅ‥?」
「そそ、天井のシミでも数えてれば、終わっちゃうから」
「し、しらないけど‥そうなの?」
「逆に一度しちゃえば、大事にしてくれるタイプだと思うな〜。大事にされたいでしょ?」
「そ、それは‥そうかも」
「はい、これ」
麒麟は一枚の紙を涼花に渡す。
そこには護の住所が書いてあった。
「店長さんに聞いたら、教えてくれたよ」
「そ、そう‥ありがと」
「頑張って、涼花」
「ごーごー」
「う、うん」
何となく、なし崩し的に涼花は護のアパートを訊ねる流れになっていた。
「で、でも、行ってもどうしたら‥」
涼花は普段の高飛車な態度とは打って変わって弱気だ。
「よくぞ、聞いてくれました!」
麒麟は身を乗り出して涼花に耳打ちする‥。
「え、そんな事‥いくらなんでも‥」
戸惑う涼花。
「いや、これくらい必要だって。“いつもお店に来る娘”のままで良いの?」
「う、ううん。それは‥分かった」
涼花は説得されたらしかった。
俺はアパートの自室で寝込んでいた。
先日の事件で受けた傷が悪化し、腫れてしまったのだ。
傷自体は命に関わる程でも無かったので、入院は断って帰ってきたのだが‥それが良くなかったらしい。
救急病院で消毒はして貰ったものの、足りなかった様だ。
ここ数日、出された抗生物質を飲んで、寝るだけという生活だった。
コンセントまで行くのが億劫でスマートフォンの充電もとっくに切れていた。
「痛つつ‥」
寝返りを打つのも辛い状況で、ましてや食事に出掛けるなど考えられない。
傷からの発熱で体がだるいので、あまり食欲が無かった、というのもある。
食事をしないで抗生物質を飲んでいるため、胃が荒れてしまい、余計に食欲が無くなると言う悪循環に陥っていた。
ひたすら、足の痛みが収まるのを待つしか無かった。
“ピンポーーン”
玄関の呼び鈴が鳴った。
来客の予定は無いから、おそらくセールスとかの類だろう。
宅配なら置き配OKにしてあるから、問題ない。
暫く放置したが、懲りずにまた呼び鈴を押してくる。
“ピンポンピンピンポンーー!”
結構、根性の座ったセールスだな。
普段なら1時間位話して冷やかすところだが‥今はその元気もない。
“ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン‥”
放置していたら更に懲りずに呼び鈴を連打する。
なんだ‥隣近所の迷惑も考えずに‥。
段々と怒りが湧いてきて、仕方なく出ることにする。
「くそ、一言、文句言ってやる‥」
ベッドの脇の柱に掴まって立ち上がり、痛めた方の足を使わない様に片足ケンケンをして入り口に向う。
「いつつつつつぅ」
一歩毎の振動が痛めた足に響いて、思わず声が出そうになるのをなんとか堪えた。
何とか入り口まで行き、ドアノブに手をかけた。
「おい、そんなに鳴らしたら迷惑‥」
言いながらドアを開ける。
開いたドアの前には‥涙で顔をぐしゃぐしゃにした涼花が居た。
「あれ、涼花? どうして‥」
「い‥」
「い?」
「生きてたっ!」
そのまま涼花は全力で俺に抱きついて来る。
片足立ちの俺はそれを受け止められる訳もなく‥。
2人で仰向けに転倒する。
相撲で言うところの寄り切りだった。
あれ、こんな事、先日も有ったな‥。
“ドッターーーン”
「いだっーーっ」
転倒の衝撃で、激痛が頭まで突き抜けた。
俺の上に乗る格好になった涼花はその声に驚きながらも‥、
「バカバカバカーー! なんで出ないのよっーーー! 」
そう言って涙を流しながらポカポカと俺の胸を叩いた。
「ご、ごめんセールスかと‥」
「返事くらいしなさいよっ! 死んだかと思ったじゃないっっっ!」
「ご、ごめん‥」
謝るしか無い。
一人暮らしを始めてから、誰かに心配されるなんて事が無かったし、それが普通だと思っていた。
だが、俺を心配してくれる人がこんな身近に居る。
その事を俺は忘れていた。
いや、知っていながら‥気が付かない振りをしていた。
俺の胸から顔を上げた涼花は、手でごしごしと涙を拭いた。
そのままじっと、俺の顔を見る。
じっと‥。
‥。
「あの、涼花‥さん?」
俺の問い掛けに、涼花は目を閉じ、唇を微かに開いて答えた。
「ん‥」
鈍い俺でもこれの意味は分かる。
さすがに未成年にはまずいだろうと言う気持ちと、泣かせてしまって申し訳ないと言う気持ちと、そこまで想ってくれる涼花が愛おしい気持ちと‥。
様々な気持ちでごちゃごちゃになって‥気がついたら、唇を重ねていた。
涼花はその感触に驚いた様に唇を一旦離し、きょとんとした。
そして、今までで一番可愛い笑顔で、今度は涼花から唇を重ねて来た。
“カシャ、カシャッ”
俺達は突然の音に唇を離す。
「既成事実、いただきっ!」
涼花の後方、ドア口に立っていたのは金髪の少女だった。
「え、え?」
「なになになに?」
突然の事態に混乱する。
「動画も撮ったよー」
ショートヘアの少女も顔を出した。
「ちょ、あんた達?」
「あ、お二人はそのまま遠慮なく続けて、続けて」
少女は促した。
「「できるかっ」」
俺と涼花はハモった。
今回は次の事件までの幕間話でした。
そろそろ次の事件が始まってきます




