迷いの屋敷
探し屋の主人公は、女子高生の涼花と共に猫探しをするが、発見できずにいた。
そこで、主人公は‥
俺達はその日、暗くなるまで捜索を続けた。
それでも、肝心の猫は発見出来なかった。
ただ、一カ所だけまだ探していない候補地がある。
「俺はこれから依頼人の家に行く」
暗くなった道を歩きながら涼花に伝えた。
「家に居るかもってこと? それはさすがに‥」
涼花にはまだ猫が死んでいると言う事は言っていなかった。
生きているなら、そこに居続ける事は無いだろう。
だが、既に死んでいるのならば‥可能性はある。
場所によっては気づかない事もあるだろう。
ただ、さすがにここを探すのは最後にしていた。
俺達は依頼人の自宅前に来た。
大きな門にアプローチ。
そこそこ大きな屋敷だ。
相当に裕福な家だと分かった。
辺りは暗くなり、既に宵の口を過ぎている。
「もう遅いからここで帰りな?」
何か予感めいたものを感じた俺は、涼花を先に帰らせようとした。
「いやよ」
「嫌な予感がする‥帰った方がいい」
「それなら、尚更じゃない」
涼花は一歩も譲らなかった。
「それじゃ、一つだけ約束してくれ。俺の指示には必ず従うこと。でなけりゃ連れていけない」
「癪だけど‥わかった」
渋々涼花は頷いた。
目前の門のインターフォンを押す。
程なくして返事が有った。
『あら、神島さん? どうされました?』
出たのは依頼人だったようだ。
『ここにチャオが居るかもしれない』
『‥どうぞお入りください』
“カチャン”
電子ロックの外れる音を確認して、門を入った。
玄関では依頼主がドアを開けて待っている。
「神島さんは“チャオ”がウチに居るとお考えなのですね?」
「良ければ、探索させて貰えないかな?」
「もちろんです。広すぎて、使わない部屋も有るので‥散らかっているかも知れませんが、どうぞ」
俺と涼花は家の中に案内される。
「こんなに広い屋敷に今、一人で?」
「あ、はい。以前は妹が一緒に住んで居たのですが‥」
依頼人はぽそり、と答えた。
正面の広間まで来た。
「部屋に鍵は掛かっていませんのでご自由に。私は少し用事をしていますので‥」
そう言うと依頼人は部屋に戻って行った。
「片っ端から探す?」
涼花が訊ねる。
「とりあえず全体の様子を確認しよう」
涼花と共に屋敷の廊下を、ぐるりと回って見る。
一階の廊下は回廊になっていて、進むだけで全部の廊下を見ることが出来た。
一階を一巡し、広間から今度は二階へ上る。
二階の廊下を突き当たりまで進んで、折り返し反対側の突き当たりまで来た。
これでとりあえず一通り中を一巡したはずだ。
‥何かがおかしい。
この家全体には強い気配が有るのに、個々の部屋にはうっすらとしたものしか無い。
まるで、同じ空間に、こことは別のもう一つ建物があるみたいだ。
「ねえ、なにか‥気持ち悪くない?」
「どうした? 具合が悪いのか?」
「ううん、私じゃなくて‥この建物‥」
「建物が気持ち悪い?」
女子高生の感性はよくわからないが‥俺と同じ様な事を涼花なりに感じてるのだろうか。
「なんかね、建物が伸び縮みしてるみたい‥」
「それは、不思議の国のアリスか」
「んー、探してるのはチシャ猫だった?」
「ペルシャ猫のはずだが‥」
言いながらも、念の為に依頼人から受け取った写真を見てみる。
‥確かにペルシャ猫だ。
更に何枚か写真を眺めてみる。
寝ている猫、伸びをする猫。
依頼人が猫を抱いている写真もある。
これは‥依頼人の妹が撮影したのだろうか‥。
次の写真は依頼人と妹が2人で‥。
“ガツンッ!”
「がっはっ」
まるでバットで殴打されたような衝撃が来た。ふらついて思わず片膝をつく。
「ちょっと、大丈夫??」
涼花が慌てて声をかける。
物理的に殴られた訳では無い。
余りに強い“反応”にショックを受けた。
例えるなら、小さな音を聞こうと耳を澄ませていた所に突然、爆音が鳴った様なものだ。
俺は頭を軽く振って立ち上がった。
「大丈夫だ‥」
もう一度写真を見る。
これほど強い“反応”が有ったのは‥妹の方だった。
まるで目前に居るように気配がする。
だが、目の前に有るのは廊下の突き当たりの壁だ。
この屋敷は猫どころか、この少女まで飲み込んでしまうのだろうか?
「ねえ、やっぱり変だよ」
涼花が廊下の反対側から呼ぶ。
「何が変なんだ?」
涼花の所まで歩いた。
「今、歩いた感じ、覚えて」
涼花は奇妙な事を言った。
「ん? わかった」
疑問を感じつつも応じる。
「んで、今度はここから向こうへ歩くと‥」
スタスタと廊下の反対側へ向かう涼花。
俺は涼花を追って歩く‥。
‥。
‥。
あれ?
「ね? 変だよね?」
「ああ、さっきより早く歩ける様な‥」
「建物が傾いてるのかなぁ」
「うーん?!」
歩く速度に影響するほど、傾いている様には見えないが‥。
だが、何かがおかしい。
胸の中をざわざわと悪寒が這い上がってくる。
俺は思わずシャツの胸元を掴んだ。




