2人で探索
探し屋の主人公は紆余曲折の末、女子高生の神崎涼花と共に猫探しの捜査をすることになった。
翌日、俺は非番だった。
この時間を生かすべく、朝から探索を始める。
そして、隣には涼花が同行していた。
家を出て少し歩いた所で偶然(?)出会ったのだ。
涼花、段々と俺のアパートに近付いて来ていないか‥?
俺が猫を見つけるより先に、涼花に自宅を突き止められてしまいそうだった‥。
「き、昨日迷惑かけたから‥手伝う」
「え、いや、気にしなくてもいいよ」
「こっちが気にするの。借りを作ったままは落ち着かないから」
「そうか? 」
「そうなの!」
俺は昨晩のうちに探す場所の当たりは付けたから、涼花が同行してもさほど問題はないが‥。
「あんた‥」
歩きながら涼花が口を開いた。
「なんだ?」
「猫探しのバイトするほど生活に困っているの?」
涼花は心配そうな顔で俺を見る。
「い、いや、そんな事は‥」
「それとも、あのお店、そんなに給料安いの? ほぼ毎日働いているのに‥」
「い、いや、これは人助けみたいな物で‥金の問題じゃないんだ」
「本当に? 困っているなら素直にそう言いなさいよ? 例えばアンタに家庭教師を頼んだら、少しお金出ると思うし‥」
俺は涼花の事を少し誤解していた様だ。
ちゃんと周りの事、自分の立場を理解した上で可能な解決策を考えている。
高飛車な態度で誤解されやすいだけで、優しく、聡いことが分かった。
「で、でも家庭教師で家で2人っきりに成ったからって、変な事は‥ダメなんだからねっ!」
「いや、変な事? しないしない」
「なによ、私に魅力が無いって言いたいの? 」
かなり本気で文句を言う涼花。
「いや、決してそう言う意味では‥」
「じゃぁ、 私がちょっとエッチな下着姿とかに成ったら? それでも? 絶対に?」
「まぁ、そこまでされたら‥さすがに自信ないかも」
「やっぱり! 部屋に防犯ブザーつけようかしら‥」
それは、そんな格好しなければ良いのでは‥?
それ以前に、家庭教師をやるとは言ってないんだが‥。
たまに妄想が暴走するのが涼花の欠点かも知れなかった。
他愛ない話をしているうちにまず1つ目の場所、公園に到着した。
公園と言っても、ちょっとした林もある大きな自然公園だから、全部探すのは難しい。
が、目立つ所ならとっくに見つかっているはずだから、残るのは林の方だろう。
林の奥を探そうと踏み入れてみる。
足元は枯れ枝や岩が落ちていて、不安定で歩きにくい。
「んー、ここじゃないわね‥」
見ると、涼花は地面に膝をつき、岩の間まで覗き込んで探している。
「おい、服が汚れるぞ」
「構わないわ」
言いながら、今度は地面スレスレまで顔を近づけて、木の根元を覗き込んでいる。
そのせいで長いツインテールの髪には落ち葉が幾つも絡まってる。
さすがに見かねて、声をかけた。
「昨日の事は怒っていないから‥そう言う所は俺が探すよ‥」
「違う、そんなんじゃないわよ」
探し終えた涼花は立ち上がり、服の埃をパンパンと払った。
「だって、可哀想じゃない。飼い猫なのにこんなに出てこないって事は、きっと怪我とかしてるんだわ」
多くの動物は怪我をすると、目立たない様に隠れて回復を待つ。
その事を言っているのだろう。
「‥まぁ、そうかも」
「だったら、少しでも早く見つけてあげたいじゃない」
言いながら今度は倒木の間を覗き込んだ。
涼花の事を見直したのは今日、何回目だろう。
自分の飼い猫でもないのに、こんなにも心配しているのか。
俺なんかより、よっぽど‥。
それからもあちこちを探したが残念ながら猫は見つからなかった。
場所を変えて探すも、やはり無し。
公園内のめぼしい場所を全て探し終わった頃には昼過ぎになっていた。
俺達は公園の出口まで戻ってきた。
「残念ながら、ここは違ったな」
「そうね‥残念」
と、涼花の後ろ髪に落ち葉が付いている。
「ん、落ち葉が付いてるぞ」
「え、やだ、どこ?」
「俺が取ってやるよ‥」
言いながら、涼花の後にまわって髪に手を伸ばす。
「自分で取る‥」
涼花は言いながら振り向く。
‥互いの顔と顔が向き合う形になった。
その距離、僅かに数センチ。
キラキラした涼花の瞳と長い睫毛が目前だった。
一瞬、言葉を忘れて見入ってしまう。
「‥睫毛長いんだな‥」
無意識に呟いていた。
「!」
涼花は言葉にならない声とともに、一歩踏み出す。
何故か俺に向かって。
俺は思わず見惚れていて、反応が遅れた。
「おわっ!」
「きゃっ」
俺達は抱き合う形で転倒した。
仰向けに倒れた俺の上に、涼花が覆い被さる。
柔らかく、たおやかな涼花の体が俺の上に乗っていた。
涼花の甘い香りがふわり、漂う。
俺を覗き込む、涼花の顔がみるみる真っ赤になってゆく。
「「!!!!!」」
二人とも慌てて立ち上がった。
涼花は真っ赤な顔をしている。
俺も人の事を言えたものじゃなかったが。
気まずい‥。
でも嫌だったかと言われれば、そんな事は決して無かった。




