涼花と暗雲
主人公は猫探しを請け負ったが、既に死亡している可能性が高いと判断する。
だが、依頼人は死んでいても発見したいと継続捜査を依頼した
翌日もいつものように店のカウンターに立つ。
放課後の時間になり、涼花が来店した。
そこまではいつもと変わらない日常だった。
涼花は俺に出迎える間も与えず、ズイズイとカウンターに向かって歩いてくる。
「い、いらっしゃ‥」
思わずその気迫に言葉を詰まらせる。
「‥聞いたわよ」
「な、何を?」
「アンタ、愛人が居るんでしょ?」
「あ、愛人?」
それって、まず正妻が居る前提だよな??
「知り合いが、昨日の閉店後に、女と逢引してる所、目撃したんだからねっ!」
「えっ?」
思わず声が漏れる。
‥それって依頼者と会った時か?
あの娘達、本当に俺を監視していたらしい。
俺は依頼人の様子に気を取られ、注意が足らなかった。
「い、いや、あの人は仕事相手で‥」
一応、本当の事だ。
「じゃあなんで、閉店後に灯りを暗くして会ってるのよっ!」
「そ、それは閉店したから灯りを消しただけで‥」
「やましくなければ、開店中に会えるでしょっ!」
「うげっ?」
涼花、こういう細かい機微には思いの外鋭い‥。
「やっぱり‥」
「いやいや、だからって愛人は飛躍しすぎ‥」
“カランコローーン”
そこで、ドアに付けたカウベルが鳴る。
別の客が来店した。
‥依頼人の女性だった。
「あの、所用で近くに来たのでこれを‥」
手に持った封筒を差し出す。
「あ、え、えと」
恐らく、その時の俺は相当に間抜けな顔をしていたのだろう。
その様子を涼花が見逃すはずが無かった。
“ビカッ”
涼花の頭の上に浮かんだ、マンガチックな電灯が一瞬輝いた‥様に見えた。
「愛人っ!」
ひたり、と女性を指差す。
「え?」
戸惑う依頼人。
「こ、こら失礼‥」
俺が制止する間もなく、涼花は女性の目前までツカツカと肩をいからせて進んでいき、矢継ぎ早に質問を浴びせた。
「あのっ、失礼ですけど、この人とはどういうご関係でしょうか? いえ、人には言えない様な関係なんですよね? それは既に分かっています。でも私が気にしているのはそこではなくて、彼方がいつから関係を持っているのかと言うことです。それ以前にどうやってこの人とは知り合ったのかしら? 言っておくけど私が先に‥ 」
「わーーーっ! ストーーーップ!」
慌てて涼花を力ずくで引き剥がす。
依頼人は酷く驚いた顔をして‥それから。
「この方にはお仕事をお願いしているのよ」
と、言って微笑んだ。
結局、依頼人に許可を貰って、この人の猫を探している事だけは涼花に話した。
簡単なアルバイトとして受けた、と言う様に説明する。
依頼人は終始にこやかにしていたが、店を出る時に一瞬涼花を睨み、
「あんな子供でも所詮は“女”なのね」
と、凍るように冷たい視線で言った。




