依頼人の女性
猫探しを請け負った主人公だが、これまでの経験から、既に猫が死んでいる可能性が高いと判断し、依頼主に連絡することにした。
涼花にパフェを奢った日の夜、俺は依頼人の女性に電話をする事にした。
こういう感情が絡む話題は、メール等より肉声の方が適切だろう。
依頼人の女性は数回のコールで出た。
俺は簡潔に、依頼された猫が死亡している可能性が高い事を伝えた。
「そうですか‥“チャオ”はもう‥」
電話口の向こうの女性は残念そうに答える。
「このまま捜索を続ける事は勿論可能だが‥当初話しただけの費用が掛かる。どうする?」
「引き続きお願いします。例え遺体だとしても見つけてあげたいので‥」
依頼の時から感じていたが、どうもこの依頼主はかなり裕福な家庭の様だ。
このまま捜索を続けると言うことは、猫の死骸に相当の金を払う事になる。
もちろん、家族同然に可愛がっていた猫ならその気持ちも分かる。
が、先程猫が死亡している事を話しても、さほどの動揺は感じられなかった。
「分かった。あと、追加で写真が欲しい」
「はい、どのような写真を?」
「捜索対象の特徴が分かるような‥首輪の写真とかはあるか? 何枚か有るとより確実なんだが」
「分かりました、明日の閉店後にお持ちしますね」
「手間をかけてすまない」
ちょうど明日は仕事がある。
写真が手に入れば、より確実に探索出来るだろう。
気持ちを入れ直す俺だった。
そして翌日、俺は店のカウンターにいた。
時間はそろそろ夕方、いつもなら涼花が来る頃合いだが‥。
“カランカラン”
ドアに付けたカウベルが鳴った。
来店したのは女子高生が2人。
少し小柄のショートヘアと金髪ロングの娘だった。
制服を見ると、涼花と同じ学校の様だ。
「いらっしゃいませ」
出迎えた俺を見て、2人は少し驚いた様なリアクションをした。
『ちょっと、意外とまともそうじゃん』
『涼花はだらしないって‥』
ひそひそ話しているが‥丸聞こえなんだが‥。
「テーブル席で宜しいでしょうか?」
ここはビジネススマイルで対応する。
「あ、はい」
「あの、涼花がいつも座ってる所って‥?」
「こちらにどうぞ」
いつもは涼花が座る店の奥のテーブルに案内する。
「涼花さんのお友達ですか?」
メニューを渡しながら、さりげなく尋ねた。
「はい、涼花は今日は用事で来れないんで」
「私たちが代わりに、かん‥様子を見に」
‥今、『監視』と云わなかったか?
まぁいい。
客には余計な詮索をしないのが前提だ。
「ご注文がお決まりに成りましたら、お呼びください」
一礼してテーブルを離れた。
彼女達はこちらをチラチラ見ながら、何かを話し合っているようだった。
‥本当に監視されている?
少し気になった。
それから数時間が経ち、彼女達も帰った。
既に店内に客は居ない。
そろそろ閉店の時間だ。
“カロン‥”
カウベルが鳴り、このタイミングで来店客が。
「申し訳ありません、閉店‥」
言いかけて止める。
来店したのは依頼人の女性だった。
「少し、早かったかしら‥」
「大丈夫。少しまっていてくれ」
彼女にカウンターに座ってもらい、手早く閉店作業をする。
その間に彼女は何枚かの写真をカウンターに並べていた。
例の猫が写っている写真が何枚か。
中には姉妹と思わしき少女と2人で猫を抱いているものもある。
彼氏だろうか、若い男性も写っている。
それと、首輪が写っている写真が数枚。
どれも綺麗に首輪が写っているが‥。
「これは、商品写真?」
「はい、購入する時に使った販売店のホームページから‥」
確かに鮮明だが、これでは意味がない。
必要なのは現物の写真だからだ。
「説明が足らなくてすまない。実際に使用していた、首輪の写真が欲しいんだ」
彼女は一瞬、戸惑った様な表情を浮かべた。なぜ現物の写真でなければ成らないかが分からなかったのだろう。
「確か、“チャオ”が着けている写真が何枚か‥明日持ってきます」
「申し訳ない。明日、閉店後でなくとも、店のポストに投函して貰えれば‥」
「分かりました。近くまで来る用事が有るのでその際にでも‥」
「助かる」
女性は帰り支度をしながら尋ねた。
「少し、伺いたいのですが‥」
「なにか?」
「譲さんは発見率100%と伺っております。今までで一番長くてどれくらい日にちが掛かったのでしょうか?」
「最長で3週間だったな」
彼女は嬉しそうな、驚いた様な顔をした。
「優秀なのですね‥引き続きお願い致します」
そう言って店を出る。
俺はその後ろ姿を見送ってから残りの閉店作業を片付けた。
何故か、最後の女性の表情が気になる。
猫探しに3週間は早い訳では無いと思うが‥。
それは胸につかえたトゲの様に俺の中に残った。




