トライアングル
主人公の譲は真礼さんからの最後の鍛錬に挑戦したが、結果をみる前に意識を失ってしまう
エピソード23
「神島さん、神島さん!」
俺は風香ちゃんの呼ぶ声で意識を取り戻した。
「ここは‥」
周囲を見渡し、はっと気が付いた。
そうだ、俺は試練を‥。
「いっつ‥」
身を起こそうとして動かし、脇腹を指すような激痛が来た。
見ると、脇腹には包帯が巻かれている。
「出血は抑えましたがまだ回復してません。急に動かないで‥」
言いながら、風香ちゃんは俺に肩を貸し起き上がらせる。
このときになって俺は風香ちゃんの膝枕で倒れていた事に気が付いた。
「す、すまない‥そうだ、試練は‥」
最期に糸を投げた後、俺は結果を確認する前に気を失ってしまった。
「次は気の制御が課題じゃな」
傍らの真礼さんが呆れ気味の口調で言った。
見ると部屋の中央の岩は小さなクレーターが出来ていた。
「岩を砕いた者は過去にもおったが‥」
真礼さんは岩に刺さった糸を抜く。
「砕かずに穴を穿つとは、相当の気を練り込めたのじゃろう‥じゃが‥」
真礼さんは俺の方をじろりと見て言った。
「一撃に気を使い果たしては、その後何も出来まい」
「‥確かに」
「必要にして最低限の気を使う術を身に着けなくてはな。これからは風香より学ぶが良い」
と、真礼さんは座り込む。
「お祖母様!」
慌てて風香ちゃんは駆け寄る。
「やれやれ、鍛錬に付き合うのも疲れるわ‥」
真礼さんは溜め息をついた。
「今までありがとう、真礼さん」
「これで鍛錬は終わりじゃ。だが、これが終わりではなく、始まりと知れ」
「分かった」
「うむ、その糸は餞別じゃ‥これからも風香を宜しくな‥わしもこれで肩の荷が‥」
そう言うと、風香ちゃんの腕の中で目を閉じる。
「真礼さん?!」
「大丈夫、気を失っただけです‥お疲れ様、お祖母ちゃん‥」
風香ちゃんはそう言って真礼さんを抱き寄せた。
数日後、俺はアパートに戻り、風香ちゃんから真礼さんの様子を聞いていた。
幸い、真礼さんは過労とのことで、暫くすれば退院出来るらしい。
「それは良かった」
俺の試練のせいで倒れたのだから、気になっていた。
「風香ちゃんは向こうには?」
「当分はこちらに居ろ、とお祖母ちゃんが」
「そうか‥あちらのお屋敷は空けて大丈夫?」
「はい、いつもお世話してもらっている人が居ますので‥」
少し会話がよそよそしい。
試練の間、毎晩風香ちゃんと一緒にいたせいか、この数日1人で居たら会いたくなってしまった。
別に風香ちゃんと格別の何かがあったわけでは無いのだが‥。
どうやら、それは風香ちゃんも同じらしく、ちらちらとこちらを見る視線を感じる。
「「あの!」」
互いの声がハモった。
俺は改めて風香ちゃんに訊ねる。
「あ、どうしたの風香ちゃん」
「はい、お隣に行っても‥宜しいですか?」
「あ、よ、宜しい‥よ」
ドギマギして、妙な返事になる。
「失礼します」
そう言って風香ちゃんは長椅子の隣に座り、ピタリと身体を寄せてくる。
こうして隣に居るだけで、温かい体温が伝わってくる。
それが何とも心地よかった。
「譲、さん‥」
言うと共に風香ちゃんはこちらを向いて目を閉じ、顔を上げ、微かに唇を開く。
‥えと、これは‥‥だよな。
しかし、ここでキスをしたら‥それ以上を求めてしまいそうで、自信がない。
俺は動揺しつつも、風香ちゃんに答えようと顔を近づける。
“ピンポーーン”
呼び鈴が鳴った。
慌てて出てみると、そこに居たのは涼花だった。
「譲さん、帰って‥」
「うわ、眩しっ!」
俺は思わず声を出してしまった。
試練以来、俺は常に“見る”様にしていた。
すると、人の持つ、いわゆるオーラ的な物が見える様になる。
とは言ってもほとんどの人は微かな光をまとっている程度なんだが‥。
「?どうしたの?」
意味が分からずキョトンとする涼花。
その周りにはまるで太陽の如く、金色の光がキラキラと輝いていた。
涼花のことを俺よりよっぽど覇気がある、と言った真礼さんの言葉を思い出す。
‥これが涼花の“覇気”ってやつか‥。
「あ、いや、何でもない」
とりあえず“見る”のを押さえ、答える。
「あれ、風香ちゃん?」
涼花は目敏く部屋に居る風香ちゃんを見つけた。
「こんにちは、涼花さん」
ぺこり、とお辞儀する風香ちゃん。
「どうして、風香ちゃんが?」
「あ、いや、真礼さんの様子を聞いていて‥」
「そうなんです、お祖母ちゃんちょっと入院してしまって‥」
言いながら自然に俺の隣に立つ風香ちゃん。
「ピキッ」
あ、あれ、何か今、涼花から音が?
「あ、あんた達‥絶対何か‥有ったでしょ!」
涼花は、微妙な雰囲気の変化を感じたらしい。
「え、な、何も‥?」
思わず風香ちゃんと顔を見合わせた。
だが、それが更に涼花を刺激したようだ。
「嘘!ぜっっったい、なんか有った!!」
「そ、そんな事、無いですよ涼花さん」
風香ちゃんはなだめようとする。
「だって2人から同じ匂いがするもん!」
「匂い?」
そこで俺はある事に気が付いた。
そうか、俺の治療に使った薬油には独特の匂いがしていた。
「あ‥」
「やっぱり、心当たり有るんだ!」
「それは‥でもやましい事とかじゃ‥」
「だって同じ匂いがするなんて‥同じ香水使うとか」
「いや、そんな事は‥」
「同じお風呂に入るとか!」
「うげっ!」
涼花の余りに鋭い突っ込みに思わず反応してしまった。
「やっぱりーーー!」
「ごご、誤解‥」
と、そこへ風香ちゃんが爆弾発言をした。
「涼花さんも一緒にお風呂、入りましょう!それが良いです」
「へ?」
意味を理解し、みるみる真っ赤になる涼花。
「え、そんな、あんた達‥私もって‥それ‥」
口をパクパクする。
が、そこで思いとどまったらしい。
「じょ、上等じゃない。入りましょ、譲、風香ちゃん」
「え、今から?」
「もちろんよ! 善は急げ!」
「それ、用法間違ってる‥」
「いいのーっ!」
俺はどうやって涼花をなだめようかと途方に暮れた。
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