呪の塚
涼花と共に人形の捜査をしていた主人公は、元々ある屋敷にあったものだと知り、屋敷を訪れる。
彼らを迎えたのは例の銀髪の少年だった。
俺と涼花は少年の案内で屋敷に入った。
鬱蒼とした屋敷森の中を細い道が続いている。
いくつか道を曲がると、小さなお堂の様な建物が見えてきた。
‥何だろう、重く暗い重圧のようなものが見える。
だが、俺の目にも限りなく薄くてはっきりとは見えない。
「あれは?」
「あれは‥呪い塚を封印してあるんだ」
「の、呪い?」
見るとお堂の周りにはしめ縄が張ってある。ある種の結界なのだろう。
「ああ、君も見ただろう? 和服の女性を」
「えっ?」
「心配しなくていい、ああやって封じてあるから直接の‥」
少年が言いかけた時、涼花がふらふらとそのお堂に向って歩き始めた。
「何だろう‥悲しいよ‥」
涼花は呟いた。
「涼花?」
「まて、それ以上近づくのは‥」
見ると、涼花は薄っすら涙を浮かべている。
「聞いてあげる‥悲しいよね‥」
うわ言のように言いながら、遂に涼花はしめ縄を潜りお堂に触れた。
「やめろっ!」
少年が叫んだ時。
お堂から黒い巨大な手の様な物が伸び、涼花を握った‥様に俺の“目”には見えた。
涼花はその場に倒れ込む。
「涼花っ!」
「馬鹿なっ」
俺と少年は倒れた涼花に駆け寄った。
涼花を慌てて抱き上げる。
呼吸はしているようだ。
慌てて胸に耳を当てると鼓動が聞こえる。
少なくとも命には別条ないようだ。
「こ、こっちへ」
少年に導かれるまま涼花を抱き上げ、屋敷に駆け込んだ。
倒れた涼花を屋敷の広間に布団をひき、寝かせる。
そこへ一人の老婆が現れた。
「呪塚で倒れたって?」
涼花の枕元に正座し、じっと見つめる。
「囚われたね」
「お祖母様、なぜこんな事が‥」
「私も初めての事だ。封印を越えて呼ばれるなんてことは‥」
「えと‥涼花はどうなったんですか」
「あんたは?」
じろりと俺を睨む老婆。
「この娘の連れです」
「あの塚の封印に引き込まれた、と言うことだね」
「今までこんな事は無かったのだけど」
少年も戸惑っているようだ。
「よほど塚の主と思いが通じたのか。それ以上は分からないがね」
「元に‥戻るのでしょうか」
「このままでは難しいだろうね。やはり呪を解くしか」
少年は老婆と頷く。
そのまま老婆は立ち上がり、去っていった。
少年は今一度姿勢を直して、こちらに向き合う。
「僕が人形を集めて居るのは、あの塚の呪いを解くためなんです」
「それじゃ、人形を集められれば?」
「涼花さんは回復する、と考えます」
「なぜ人形を集めると呪いが解けるんだ?」
「元々、あの塚は人形を持ち出した人間を呪う物だからです」
「なるほど‥だが、お前はなぜ呪いを解こうと? 」
恐らく、この家とあの呪いには何か関係があるのだ。
それは分かるが‥。
「あの塚の贄に成っているのは‥僕の母親の‥首‥なんです‥」
少年はぎゅっと拳を握り締めて言った。
少年の話をまとめると、こうだ。
この家は代々この地を呪術やまじないで治めてきた“お館様”の血筋だ。
もちろん、現代ではほとんど形骸化している。
だが、少年の父親が当主の時に一族外の出自である母親を嫁に選んだ事で、反目する人達との間に亀裂が出来てしまった。
そして当主の父親が病で亡くなると、内紛が起きて当主の証である人形は盗まれてしまう。
少年の母親は盗んだ一味の仲間と疑われ、殺されて呪の為の贄にされてしまった。
それがあの呪い塚なのだと言う。
「およそ現代に起きたとは思えないな‥」
俺は嘆息しながら天井を見上げた。
まさか、現代に人を殺して呪をかけるとは‥。
「もちろん、警察にも届けて捜査もされましたが」
「犯人不明と言うことか‥」
恐らく母親も呪の様な物でころされたのだろう。
どんなに科学捜査が進んでも、犯行自体が非科学的方法で行われてはお手上げだ。
「五つの人形のうち、4体は取り戻しました。あと1体で呪を解き母を解放出来ます‥お願いします。力を貸してください」
少年は床に頭を付け土下座した。
「涼花を助ける必要もある。協力はするが‥まさか最初からそれが狙いで屋敷に招いた訳ではないだろうな」
「違いますっ! そんな事は絶対に!」
少年は頭を下げたまま応える。
「今でも色々な人があそこを通りましたが、あんな事は始めてなんです」
「‥分かった。頭を上げてくれ」
思い出して見ても、少年はお堂に近づく涼花を制止しようとしていたし、本心で驚いているようだった
「信じてもらえますか」
「ああ、嫌な言い方をして済まなかった。俺も絶対に涼花を助けなきゃならないからな」
「はい。必ず探し出しましょう」
「それで相談なんだが、残り1体の人形の鮮明な写真はあるか?」
「確か郷土資料を作る時に撮影した物が有りました。探してきます」
「頼む」
少年は写真を探しに部屋を出て行った。
俺は布団で眠る涼花を見つめた。
見た目にはただ寝ている様にも見える。
俺に近付いたばかりにこんな目に遭ってしまった。
大事な人だからこそ、一緒に行動するのは避けるべきだったのかも知れない。
後悔が胸のなかでぐるぐると渦巻いた。
しばらくして少年は一枚の写真を持って戻ってきた。
鮮明に人形が写った大判の写真だ。
これならピンポイントで場所が判明出来る。
「わかりますか‥?」
少年は不安そうに聞く。
「ああ、ここから少し離れた‥益子だな。心当たりはあるか?」
俺はスマホの地図アプリで確認する。
「益子には分家の家が一つ有ります! ‥確かにあそこならば‥」
「心当たりがある?」
「はい、明日向かいましょう」
「行って素直に人形を渡すかな?」
「恐らく、他の人間がどんな末路を辿ったか知っているはず。応じると思います」
「そうか。分かった」
今日はこのままここに泊まり、明日の朝に少年と益子に向かうことにする。
涼花の側を離れるのには不安が有ったし、
明日再びここへ来るのも手間だ。
その報告を兼ねて、大西刑事に連絡のため電話をかける。
数度のコールのあと、電話は繋がった。
が、電話に出たのは大西刑事ではなかった。
「はい。大西刑事の電話です。待ってましたよ」
「もしもし‥アンタ大西さんじゃないな?」
「勿論です。益子の人間と言えば分かるかな?」
「大西刑事はどうした?」
「ここに居るよ。今の所は生きている」
「声を聞かせろ」
「いいとも」
相手はスマホを大西刑事に向けた様だ。
「すまん、俺とした事が不覚を取った‥逃げてくれ」
確かに大西刑事の声だ。
録音されたものかは分からないが、囚われているのは確かなようだ。
「‥聞こえたか?」
再び男が電話を取ったようだ。
「‥何が狙いだ?」
「言うまでもないだろう」
「人形か。どこへ行けば良い」
「話が早くて助かる。拙宅で待っているよ。特に期限は設けないが‥早く来た方が刑事さんのためだろう」
一方的に電話は切れた。
どうやら、分家の人間と言うのが今回の黒幕のようだ。
「‥人形を渡す事は出来ません」
聞いていた少年が言った。
「だが、渡さなければ大西刑事が‥」
「それはそうですが‥」
「一つ気になる事がある。なぜ益子の男は人形を持っているのに呪われない?」
「分家とは言え呪術師の家です。呪避けの封印が有るのでしょう」
「そう言う事か‥」
相手は準備万端で待ち構えているのだろう。
何か対策が必要だった。
そろそろ物語も佳境に近づきます。
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