銀髪の少年
主人公と涼花は横浜で2度目の人体発火を目撃した。
事態の進行に打つ手がない主人公の前に‥。
数日後、再び俺達と大西刑事は閉店後の店に集まっていた。
腕組みをした大西刑事が溜め息をつく。
「今度も人体発火か‥」
「ああ、それに銀髪の少年も」
「偶然‥ではないわよね」
一同は皆、渋い顔だった。
目の前にいくつかの手掛かりがあるにも関わらず、つながりが分からない。
「なあ、あの人形は何なんだ?」
「‥娘が旅行のお土産に買ってきたものだ。孫が気に入ってずっと持っていたが‥普通の人形だ‥」
「だがそれが今回の事件のキーのはずだ」
「うーん」
天井を見上げる大西刑事。
心当たりが無いと言う感じだ。
「ね、どこで買ったの、あれ」
「確か‥‥」
言いかけてはっと気付いた様にスクラップして持っていた新聞の記事を調べ始める。
指差したのは前回の事件の被害者に関する記事だった。
「これだ、塩原。どこかで聞いたと思ったら」
「偶然‥ではないか‥?」
「ね、行ってみない?」
涼花が身を乗り出して言った。
大西刑事は頷く。
「ん‥そうだな。行ってみるか」
「‥まさかスキーしたいだけって事は‥」
「ち、違うわよ! どっちかと言うと温泉‥あ」
「やっぱりか」
「まぁ、せっかく行くんだから温泉入る位良いだろう」
ああ、また大西刑事がお爺ちゃんの表情に‥。
かくして俺達は次の休みに那須へ行くことになった。
その翌日。
おれはいつも通り、店にいた。
平日昼過ぎの店内は客も居らず、俺はテーブル拭きに精を出していた。
“カランコーン”
ドアに付けたカウベルが鳴って客が来店した。
「いらっしゃ‥」
途中で息を呑んだ。
白い詰襟に銀髪。
例の少年だった。
「こんにちは」
少年はにこやかに微笑んだ。
「‥何をしに来た?」
「嫌だな。客ですよ‥アイスブレンド1つもらえますか」
アイスブレンド、は俺に“探し屋”として仕事を依頼したい、と言う時に使う暗喩だ。
「!? 本気か?」
少年はどちらかと言うと敵対する側の人間だと思っていたが‥?
「もちろん」
「今日は早上がりだ。それまで待ってもらおうか」
「んじゃ、奥の席でコーヒーでも飲んでます」
少年はカップを取ると、店の奥の席で雑紙を読み始める。
どうやら騒ぎを起こす気は無いらしい。
それから数時間が経ち、仕事を上がった俺はそのまま店の奥で少年と向き合った。
店内に他に客は居ない。
「仕事の依頼と言ったな?」
「ええ」
「何を探す?」
「勿論、人形ですよ。あなたが最適任だ」
「その探索は先約がある」
「知ってます。でも、貴方たちの目的は人形ではない。そうでしょう?」
少年は自信ありげに問い掛ける。
どうやらこちらの目的も薄々わかっているらしい。
「なぜそう思う?」
「あの人形は我々以外には無価値だから」
「我々と言ったな‥他にも探している人間が居て、それより先に手に入れたいということか」
「‥仕事を受けてくれるなら話します」
少年はニヤリ、と笑った。
こちらが手詰まりなのも把握しているようだ。
確かに情報は喉から手が出るほど欲しい‥が、この少年を100%信じる事は出来ない。
「情報交換といこうじゃないか」
「と、言うと?」
「交互に情報を公開する。それでお互いに信用出来ると思えば契約しよう」
「良いですよ」
少年は余裕の表情だった。
「では、僕から‥あの人形は権利書、みたいなものです。ある組織のなかであれを集めると、高い地位が得られる。だから奪い合いが起こってるんです。人形自体には価値はありませんよ」
「あの、和服の女もか?」
「おや‥」
少年は少し驚いた様に俺を見た。
「‥貴方が予想より優秀だと分かりました。では、そちらの情報は?」
「我々の目的は確かに人形じゃない。人形を持っているはずの人間を見つける事だ」
「なるほど。それで納得しました」
少年は少し考え、身を乗り出してこう言った。
「それなら、人形さえ渡してもらえるなら、貴方達と協力出来ます」
「信用するのはまだだ。次はそちらの番だ」
俺も言われてすぐに納得するほど、お人好しではない。
「では先ほど聞かれた女の正体を‥」
「ああ」
「あれは‥人間じゃないですよ。ある女の放った呪い‥呪詛の類です」
「な、なに? あれが‥?!」
和服の柄も、簪の銀色も憶えている。
あれが現実ではない?
少年は少し面白そうに笑った。
「あなたの目、優秀すぎるんですね」
「くっ‥」
またやってしまった、と気が付いた。
どうやら俺と他の人では見える物が違うらしい、と知ったのは子供の頃だ。
以来、厄介なその力を出来るだけ抑える努力をしてきた。
普通に生活する事が俺には一番の憧れだった。
通常はさほど問題なく生活出来るように成ったが‥それでも見えてしまう時には見えてしまうのだ。
そして、見えている以上、俺自身にはそれが存在するとしか思えない。
「とても強力な呪いですから‥貴方には現実と見まごうほど、はっきり見えるのでしょうね」
「くそっ、不覚だ‥」
思わず俯いた。
「僕でもぼんやり見える程度なんですけどね‥神島さん、凄いですよ」
「日常生活には何の役にも立たないけどな」
俺は嘆息した。
勿論、この能力あっての探し屋稼業ではある。
だが同時に、やはり自分は普通には成れないのだと思い知った。
「いえいえ、協力してくれれば、あの呪いを避けられます。これは大きなメリットですよ」
「あの呪いって‥」
言いかけて気が付いた。
あの女が現れた場所で起こった事は‥。
「人体発火の呪い、なのか?」
「はい、御名答です。あの呪いは人形の所有者を見つけると、火をつけるまで追いかけて来るんですよ」
「それは狙われたら‥」
恐らく、“見え”ていない人間には避けようがない。
「でも、所詮は呪いなので本体と所持品の判別が曖昧なんですよね」
「なるほど、なら服とかを差し出せば‥」
「火をつけて、満足して帰って行きます」
「対抗策は有るって事か」
「勿論、僕達の様に呪いに気付ける人間なら、ですが」
「確かに有益な情報だ。代わりにこちらの情報だが‥いま判明している人形の場所を教える」
「それは助かります」
「ただしアンタが探している人形と同じ物かは分からない。それと、条件がある。もし俺達の探している女性を見つけたら教えてくれ」
「良いでしょう」
とりあえず協力関係は出来そうだ。
幾つかの情報を手に入れ、一歩前進した状況に少し安堵した俺だった。




