人体発火
新章始めました
お話はインターミッション2からの続きとなります
数日後、俺と涼花は大宮の駅前にいた。
北関東への路線の分岐点でもあるこの駅は街も大きく、多くの人で賑わっている。
もちろん大西刑事からの依頼を解決するためだ。
「これだけ広い中から見つけるのは一苦労ね‥」
涼花は行き交う人波を眺めて嘆息した。
だが、俺には大体の方向は見当つく。
「‥こっちだ」
駅前の大通りを駅から離れる方向に進む。
「まぁ、大体の方向は‥分かる」
「形がはっきり別れば?」
「その分正確に分かる」
「謎よね、それ」
‥そう言われても、俺にも自分の能力の理由は分からないのだ。
途中で大通りから離れ、店舗と住宅が混じる路地へ。
辺りを見回しながら歩いていると。
「お兄さん、お兄さん」
少年に呼び止められた。
中学生位だろうか。
白い詰襟の学生服を着ている。
それより目立つのはほぼ銀髪に近い髪色だろうか。
「ん、どうした?」
気軽な呼び掛けに思わず軽く返事をする。
「それ以上、行かないほうが良いよ」
「? なんでだ?」
「もうすぐ事故が起きるし‥危ないよ」
「起きる?」
それは予測なのか?
それとも‥?
“ガチャーン!”
突然の衝突音。
まさに俺達が向かおうとしていた目前の交差点で1台の車が路肩の電信柱に激突していた。
あの少年に呼び止められなければ、俺達も巻き込まれていたかも知れない。
「君は一体‥」
もう一度、視線を戻した時には少年はどこにも居ない。
その間にも事故の現場は人や車が集まり、騒然としてきた。
「おい、運転手を‥」
誰かが叫ぶ。
運転手は怪我をしているのか、まだ車の中だ。
「くっ!」
思わず、助けに車に向かった。
「譲? 待って」
涼花も2メートルほど後から付いてくる。
「交通整理頼む!」
俺は涼花に声をかけた。
「分かった」
涼花は車の後方で大きく手を振って事故を知らせる。
俺はその間に車に取り付き、ドアの取っ手を引っ張る。
「手伝おう」
「助かる」
そこに居た数名でドアを引っ張るも‥車が潰れているためか、簡単には開かない。
これは、割れた窓から運転手を引っ張り出すしか無い‥と思い車内を覗き込んだたその時。
“ブワッァァァ”
目前の運転手が突然燃え上がった。
車が、ではない。
運転席に倒れていた運転手が、人形の炎となって燃え上がったのだ。
「うおっ!」
思わず身を引くほどの激しい燃焼だった。
「引火したぞ」
「逃げろ!」
周囲の男性たちも慌てて車から離れる。
みるみる炎は車に延焼してゆく。
そして、遂にガソリンタンクに引火したのか、爆発音と共に激しい火柱が上る。
これでは運転手の救助は絶望的だろう。
かなり離れても炎の熱が伝わってくる。
暫く呆然とその光景を眺めていたが。
「‥帰ろう」
傍らの涼花に言った。
「え? 探し物は?」
「あの中だ‥」
俺は燃え上がる車を指した。
そう、俺は運転手を助けようと車内を覗いた時、ダッシュボードの上に置かれている、小さな人形を見た。
あれは大西刑事の写真とそっくりな日本人形だった。
しかし、それも炎上する車の中では‥。
来た道を戻ろうと振り向くと、そこに綺麗な和服の女性が居た。
漆黒の艷やかな髪にルビーの様に紅い瞳。
銀色の簪がキラキラと揺れる。
その女性はこの悲惨な事故現場を、まるで路肩の花でも見る様に‥涼しげに見つめている。
俺は違和感を感じて、思わず声をかけた。
「あの‥何か‥」
女性は俺の方に振り向くと、
しゃなり、と会釈をし‥人混みの中に消えていった。
そして気が付いた時にはもう姿は見えなくなっていた。
「あ、あれ??」
「護、どうしたの?」
涼花が怪訝そうに訊ねる。
「いや、和服の女性が‥」
「和服の人? どこに??」
「え、今目前に‥」
「? 居なかったけど‥何か“見えた”の?」
「いや‥そうなのか?」
明らかに現実の女性だと思っていたのだが‥。
狐に摘まれたようだ、とはこの事だろうか。
俺は空を見上げ嘆息した。
楽しんで頂ければ幸いです




