第8話 小さな希望の光と、生死を分けた行動
事故発生から約3時間──午前5時半。
痛みに耐えながら意識は朦朧とし、呼吸をするたびに胸と腰の奥から鈍い苦しみが込み上げてくる。
助かりたい。けれど、身体はもう言うことを聞かない。
それでも、生きるために必死にもがいた。
少し体を動かすだけで、全身を裂かれるような激痛が走る。
その痛みに耐え、震える手で渾身の力を振り絞り、ようやくハザードを点け、ハイビームを灯した。
たったそれだけの動作で、意識が遠のきそうになる。
「誰か……助けてください!」
声が枯れるまで叫んだ。
だがその叫びは、濡れた土手の闇の中へ吸い込まれていくだけだった。
時刻は6時頃。 外は次第に青白い朝の気配を帯び始めていたが、相変わらず通る車の気配はない。
仮に発見されても、ここからは車道まで5メートル以上の下りの斜面…どうやって救助が来るのか、その想像さえつかなかった。
心拍がゆっくり鳴る……
――もう、本当にだめかもしれない。
そう思った瞬間、ふと母親と愛犬の顔が浮かんだ。
リウマチで体が思うように動かなくなっても、
それでも家事をして、僕と愛犬ラッキーのために笑ってくれた母。
毎日仕事からの帰りを、尻尾を振って迎えてくれるラッキー。
思い出した途端、胸の奥に残っていた小さな光がふっと揺らめいた。
「……母さんとラッキーを置いて、このまま死ねるかよ!」
絶望で濁っていた心に微かな光が灯るが、
同時に、死神が耳元で囁く。
「何もない。もう終わりだ……」と。
それでも僕はその囁きを振り払うように、動かない体を持ち上げ、痛みと戦いながら残された力で周囲を見回した。
その時だった。
運転席側のフロントピラーから、事故の衝撃で一部外れたピラーカバーが、だらりとぶら下がって揺れていたのが目に入った。
「……これだ!」
その瞬間、瞳の奥で何かが弾けた。
この判断が、のちに―― 生か死かを分ける行動になるのだった。
《次回予告》
なんとか救いを呼ぶ手段を編み出したのだが、
夜が明けていく中、助けを求める声が届くのが先か
それとも、力尽きるのが先か…
次回『第9話 クラクションが呼んだ救いの音』
死神との生死をかけた闘いは、まだ終わらない。




