第9話 クラクションが呼んだ救いの音
フロントピラーにぶら下がっていたピラーカバーは、事故の衝撃で一部外れたまま、かすかに揺れていた。
「これしかない…!」
最後の賭けだと悟った僕は、激痛に悲鳴を上げながら、残った力を指先に込めてカバーを引きちぎろうとする。
だが、思った以上に硬く、びくともしない。
「取れろっ……! 頼む……!」
身体の奥から搾り出すように力を込めた瞬間、バキッと鈍い音を立ててカバーが割れ、その一部をようやくもぎ取ることができた。
「これで……クラクションが鳴らせる……!」
希望は本当に小さかったが、その小ささが逆に恐ろしく大きな意味を持っていた。
僕は震える手で、ピラーカバーの破片を介して何度もステアリングを押し込み、クラクションを鳴らす。
――ビーッ! ビーッ! ビーッ!
「気づいてくれ… 頼むから、誰でもいい……誰か…」
しかし、道路を車が通る気配がしても、僕の叫びのような音は誰にも届かず、ただ雨音と土手沿いの静けさに吸い込まれていくばかりだった。
時刻は午前7時頃。
僕は力も精神も尽き果て、意識も途切れそうになる。
「もう……ダメかもしれない……」
そう諦めかけた、その時。
「おーーーい! 誰か、そこにいるのか!」
!!!
息を呑み、身体が固まる。聞き間違いではない。
救助の声が、確かに聞こえた。
クラクションを鳴らし続け、生き残るために足掻き続けた時間が、初めて報われた瞬間だった。
《次回予告》
緊迫した現場の中、ついに救助が始まる。
だが、その状況はあまりにも過酷だった。
刻一刻と過ぎていく時間の中、命のリミットが迫る。
次回 『第10話 夜明けの救助隊』
選択した行動に、生き残る答えはあるのか。
【後書きその2】
10話のその前に、9.5話としてIfストーリーを2月23日に執筆しますので、
よろしければそちらもぜひご覧ください。




