ヒガンバナが咲いたなら
一度歪んだ気持ちは、治せない___。
春の終わり、少し雨の匂いがする空気に触れながら、花図鑑を見ていた。「優~~!!」「こっちむいて~!」キャアキャアと教室のドアから顔を覗かせて俺を呼ぶ女子たち。
俺は文武両道、顔もよくおまけに性格もいい、らしい。視力が悪くなって眼鏡をかけていたのだが、今年の春、部活に支障が出るかもだからと母にコンタクトレンズをもらい、眼鏡を外して学校に行ってみたらこれだ。「……眼鏡かけてたときは陰でチー牛チー牛言っていたくせに」眼鏡を直そうと目頭のところまで指を持っていったが、空振りした。__恥ずかしい。「ぷっ……はははははっ!」前で笑い声がした。チッ、一番見られたくないやつだ。「なにっ?エアー眼鏡直してたの?フフッ、おもしろーい」キャッキャとわざとらしく笑うこいつは、小学生から一緒の学校の清水千夏だ。適当に一つ結びされた髪に、制服の襟がはちゃめちゃの…なんていうんだろうな、まぁ、いわゆる非女子だ。「うるせえな、くせだよ!俺にかまうな!」眉間にしわを寄せるようにしていってみたがこいつは何を言っても’’馬の耳に念仏’’だ。「はいはい、強がりさーん。あっ、今日もいっしょに帰ろ~ね!バイバーイ」「あっ、まてっ!」俺がさっき言った言葉が彼女の中では雑音のように消去され、俺の返答も待たずにどこかに行ってしまう。「…調子が狂う」俺が何気なく言葉をこぼしていた。
放課後、まだ桜を含む風が流れるグラウンドで、部長を務める、陸上部に奮闘していた。昨年に400m走のブロック大会で入賞したのもあって俺は後輩たちから慕われているほうだった…けれど、「秋野せんぱぁい、ハードルもてなぁい~」「秋野先輩、ちょっと…・・時間いいですか」今年の新入部員たちは媚びるような形で俺に付きまとってくる。_めんどくさい。
「ったく、今年の新入部員どうなってんだよ!あきのせんぱぁい、あきのせんぱぁいって…俺が思い描いた新入部員ハーレムにおまえがなってどうすんだよっ!!」隣で涙目になっているこいつは中学からの中ではあるが気が合う青葉海斗だ。「好んでなってるわけじゃねぇよ、お前、めんどくさくなったな」傍からみたら厳しい言葉に聞こえるかもだが、「いいよな、好まずとも女子が寄ってきて。俺は女子大好きなのになぁぁ!!」海斗はくそぉぉ!と咆哮をあげた。そう、こいつも千夏と同じで自分に都合が悪いところをカットするのだ。「つーかさ、健全な高校男児ならこういうハーレム状態はまんざらでもなくなるだろ?お前はなんなんだ、女性不信なの?チェリーボーイ拗らせてんの?」このようにずけずけと恥じらいもなく人のプライベートに干渉してくるあたりはムカつきポイントだが、千夏と違い、全く悪気がないため謎に毒素が抜けていく。「女は苦手だが不信かといわれるとそうでもないな。」将来選び放題でよかったな、と口を尖らせて肘で俺をつつく海斗を見て俺は苦笑した。
「…なんでお前がいる。」「おそかったねぇ、すぐるくん。」校門前に寄りかかってスマホをいじくっていたのはやはり千夏だった。__クソッ、スルーして全速力で帰るべきだった。これからは裏口から外に出よう。「約束したよね?さっ、行こっ」すぐにスマホをカーディガンのポケットにつっこんで千夏はにっこりと笑った。
「ファッションの最先端は興味深いわぁ、見てみてよ、このブーツ。革のブーツなのに3年靴箱にいれてもカビが生えないんだって!保温性も抜群らしいし、…ポチってみようかしら。冬用に!」こちらを向いてケロッと笑った彼女は、せっかくポケットにいれたスマホを学校を出て15歩でまた取り出し歩きスマホをしている。_一旦しまったのは何だったのだ。「あたしね、冬までにはおしゃれさんになりたいの。」まだ、少し日の高い空を見上げて千夏は言った。ほう、こいつはやっと自分の美意識に目を向けるようになったのか。「…理由、聞きたい?」妙に間を空けて口の両端を上げながら首をかしげてきた千夏に俺は「別に」とそっぽをむいた。「つれなーい」と両頬を膨らませる千夏に、_なぜか俺は腹が立っていた。「うるせえな、先帰る」自分でもびっくりするぐらいの冷たい声色に対する反応を見たくなかった俺は、千夏の顔も見ずに速足で進んだ。「あららっ、また明日~」千夏はまるで気にしていないかのように手を振りながら俺の背中を見送っていた。
あれから3週間ほどたち、梅雨に入った。梅雨の時期はクラスのテンションがやや下がるので心地いい。…けれど「う”あ~っ、湿気でぐちゃぐちゃ~」千夏は両手で頭を押さえて見せた。俺の席の前で騒がないでいただきたい。千夏はこのとおり、オールシーズンテンションが高い、、心が休められる時期はないわけだ。「あ、今日もいっしょに帰ろうね!じゃ、また放課後」伝えたいことを伝えた彼女はシュンッと教室から出て行った。_そういえばこいつはよく廊下に行くよな。あんまり気にならなかったけど。最近は俺に約束をこじつけたあと、一瞬で廊下に移動していた。…まぁ、どうでもいいか。
「部活のない日は憂鬱だな。」「出たっ!人生部活形成人間!」ボツボツと五月雨が傘にぶつかり続け、花壇から紫陽花が顔を出す道を、バカバカくて笑ってしまうような話をしながら歩いていた。すると、急に千夏が足を止めた。「なに?早く帰るぞ」「……今日の私の髪型、どうだった?」少し口ごもったように言った千夏の顔は…少し赤かった。……。「別に、普通だったんじゃないの?」「…そっか、ごめん。評価サンキュ!」すぐに通常運転に戻った千夏の瞳は、いつもより輝いていた。
そこから千夏の身だしなみに変化があらわれた。
「あれっ?千夏、髪がまっすぐになってる~!」「どう!?いいでしょ!矯正したの」クラスの女子に褒められてふんすと鼻を鳴らす千夏は確かに髪がストレートになっており、以前よりずっとあか抜けていた。「どう、どう?湿気に負けないこの毛髪!」バサバサと髪を梳いて俺にさらさらの髪をアピールする千夏。_おい、バサバサさせすぎて魅力半減してるぞ。「無口さんですねぇ、すぐるちゃんは。じゃ、今日も待ってるね~」そう言って千夏はいつものにこにこ笑顔で廊下に飛び出していく。_なんで俺なんかに千夏は声をかけるのだろう。俺なんかほっといてすぐに廊下に向かえばいいのに__。窓から響く雨粒の音が今日はやけに大きく感じた。
「秋野先輩、今日、部活帰り空いてます?」
仕事の速さからマネージャーに抜擢された同級生の女子に突然予定を聞かれた。彼女は媚びてくるほかの女子たちと違い、真面目な子だった。「もちろ…」最後までいう前に慌てて口を閉じた。先客がいるじゃないか、これじゃあ失礼極まりない…、「どうかしましたか?」「いや、なんでもない。もちろん空いてるよ」「よかったです。では待ってます。」彼女は笑顔を作り、仕事に戻っていった__。
部活が終わり、俺はマネージャーを待っていた。「お待たせしました。行きましょう」マネージャーが来たところで校門へ向かっていく俺は足を止めた。「?どうしました」「ごめん、裏口からいかない?」「わかりました…」マネージャーはきょとんとしていたがすぐに裏口の方向に歩き出した。__顔合わせるのは気まずいからな。
マネージャーとの道中は沈黙が続いた。千夏なら無駄な話だとしても長々と話し続けるはずだ。「…ちなみにどこにいくの?」気まずいが過ぎて、俺から話題を振った。何年ぶりだろうか、小学生くらいか?「あっ、えっと、これからカフェに行きたいなと」すこしうわずった声で帰ってきた返事に、俺は「へぇ」と相槌を打つことしかできなかった。_気まずい。そのあとは早くカフェについてほしいということしか考えていなかった。
15分ほどの道のりのカフェは体感だと30分はあった。だが、カフェに入っても沈黙が続いた。なんだ?次の大会への作戦を練るためのカフェなんじゃないのか。「あのっ、」やっと話しかけてきたと思い彼女の顔を見ると、なにかを決意したかのようにキュッと口を結んでいた。「…どうしたの?」俺はにこりと笑って見せた。「わたしっ、ずっと真面目にマネージャーの仕事頑張ってきました。それは、先輩に見てもらいたかったからです。」
ああ、なるほど
「先輩は私に優しく声をかけてくれて、部活を楽しみに学校も頑張れました。」
表でいい顔するのは当然だろう
「そんな先輩が…すごく、すごく大好きです!」彼女は目をぎゅっとつむって下を向いた。「…ありがとう。気持ちはすごくうれしい。でも、ごめん。」「…!」「その気持ちに僕は答えられないよ。」…二人の間に気まずい空気が流れる「…お返事、ありがとうございます。…大会、頑張ってください」彼女は消え入りそうな声を置いてカフェから出て行った。_今から走れば千夏が待っているかな。いや、と脳にぱっと浮かんだそれを削除し、椅子に座りなおした。窓から見えた、もう色あせた紫陽花の上に、まだ少し明るい空が広がった景色は、夏の始まりを知らせているような気がした。
「昨日はずっと待ってたんだよっ!!お詫びの菓子かなんかないわけぇ?」両頬を膨らませて怒ったぞアピールしているが、ご飯奢りでもよしっ!と条件提示してくるあたり、さほどは怒っていないようだ。けれど昨日は俺が100悪いので(いや、勝手に約束こじつけてこちらの予定も聞かなかった千夏も30くらいは悪いかもしれないが)「ごめん。」と一言あやまった。「……。」なっ、なんだこの沈黙は…。「ハッ!ごめん、すぐるくんが素直に謝るなんてことなんてないと思ってたから、幻聴かと…」口を手のひらで隠すようにして、驚きを隠せないとでもいうような表情にムカッときたが、まぁいつもなら謝らないしな。「今日は一緒に帰れるぞ」釈明をしたい、とにかく昨日のことを千夏にはなしたい。きっと千夏は俺のことを誘うだろう。
「あー。今日はごめん!先客がいるの。また、明日ねっ」
軽く言い残し、また、廊下に向かおうとした千夏の手を俺は無意識につかんでいた。
「?、すぐるくん?」
「あっ、ご、ごめん」
つかんだ手をパッと離し、俺は机から本を取り出そうとした。顔をあげたとき、千夏は俺の前にはいなかった。
部活が終わり、俺は念願だったはずの1人だけの帰り道に物足りなさを感じていた。
雲一つないきれいな夕焼け空、コンクリートの狭間から生えるきれいな花。どれもいつもは目に届かない。きっと前の自分ならその一つ一つにちょっとした喜びを感じていた。けれど、今は足りない何かに頭がいっぱいだった。_それがなにかという見当はついていた。きっと千夏だ。もしかしたら、俺は__。
「いやぁ~、すぐるくんが校門で待ってるなんて。ほんとに雪でも降っちゃうんじゃないかなぁ~」
両手を頭の後ろで組んで、にこにこ笑顔の千夏に、自然と笑みがこぼれた。すると千夏がバッと振り返り、まるで化け物を目撃したかのような表情をする。そんな失礼な態度に、俺が顔をしかめると、千夏はホッと安堵の息を吐いた。
「なんか昨日から、なんか、変だよすぐるくん。なんか素直だし、なんかによついてるし、、」
なんか、なんかさぁと自分の感じた俺への違和感を並べだす千夏。けれど俺はほかのことに頭がいっぱいだった。そう、人生初の告白をしようと思っていたのだ。きっと俺は千夏が好きだ。2人きりの細道、こんな絶好の告白スポットなんてそうないのではないだろうか。千夏がすべて言い終えたタイミングで一手を繰り出そう。そんなことを考えている。しばらくすると千夏が一度口を閉じた。今だっ
「あのs…」
「あっ、そういえばさ、私、明日からすぐるくんと一緒に帰るのやめようと思うんだ。」
___え?
「いやっ、別にすぐるくんのこと嫌いになったわけじゃなくて、いや、モテすぎてるとこは恨んでるけど。ちょっとほかの人が誘ってきてくれてたからさ」
俺は開いた口が閉じないままでいた。
「楽しみにしてくれてたならごめんねっ、まぁでも、すぐるくんなら選び放題だよn…」
「俺の素を知って、幻滅したからか?」
「え?」
俺はほとんど無意識に声を出していた
「嫌味しか言えてない俺に愛想つかしたのか?」
どんどんとあふれ出てくる言葉を制御できずにすべて漏らした。
「しょうがなく誘ってたのに、約束をすっぽかしたから、コイツなんかもういいやって思ったから?俺が告白されてたのを知っての嫉妬から?もともと俺なんか嫌いだったけど、ボッチじゃかわいそうだからってつき合ってくれたのか?」
「すぐるくん、なにいって」
「お前は明るいからいいよな、人が寄り付く。俺なんか容姿だけのくそ陰キャだ。そんな俺に、お前は懲りずに話しかけてくるんだから、こっちだって、意識しちまうだろうがっ!!」
最後にアクセントをつけて言ってしまった言葉に、俺はやっと口を噤む。
「え?意識って、…どういうこと?」
口をそのまま開かなければいいものの、制御がまるで効かない俺は、自嘲的に笑いながら口を開いてしまう。
「そのまんまだよ、俺はお前の話すひと言ひと言が、俺にだけの、特別なものだとずーっと思ってたんだ。そう思ってたのに気が付いたのも、こないだだけどな。」
「そっか、…気持ちはうれしいよ。すぐるくん。でもごめんね。その気持ちには…」
「わかってるよわかってるよっ!!でもさぁ!そんなテンプレートそのまんまみたいな断り入れたところで、俺が諦めきれるわけがないだろ!!!」
なんだこれ、気持ち悪い。こんなこと言ったって引かれるだけだろ。やめろ、止まれ。そう思っているはずなのに、止まらない。俺は千夏の顔すらも見れずに続ける。
「どうせ俺なんか、見た目だけのいい人形ってだけだろ。みんな、中身なんか気にしちゃいないんだよ。でもっ!!お前はっ!お前だけは俺を中まで見てくれるって!!認めてくれるっておもってたんだよっ!!」
「…!私、すぐるくんを認めてないわけなんかじゃないよ!告白断ったからって、認めてないってことにはならないじゃん!!」
「うるさい!うるさい!うるっっさい!!!」
俺は千夏の言葉を遮るように大きな声を出す。
「どうせっ!お前だって!俺の陰気な部分さえ知らなければっ!きっと告白だって受けたはずだっ!俺が陰キャで、嫌みなやつなんかじゃないって思ってればなぁ!」
千夏はひどく傷ついたような顔つきでその場に立ち尽くしている。
「くそっ…、くそっ!!!」
俺は千夏を置いて、家まで駆けだした。後ろなんか、振り向けない。
それから、学校に来ても、千夏は俺のクラスには入ってこなかった。
当然といえば当然だが、俺はとても、とても苦しかった。もう、千夏がいないことは考えられないのだ。
…けれど、俺は自ら廊下には、けっして踏み出せなかった___。
「おいっ、そう気負うなよ。まだ来年だってあるんだからさっ!!」
海斗が俺を励ますように背中を叩く。
ぼーっと過ごしていた俺は、大会で8位を取っていたらしい。これでは県大会にも行けない。
けれど、そんなことはもはやどうでもよかった。あれからはや3週間。もう夏休みに入っていて、千夏に会う機会はほとんどないといえるだろう。
___千夏に、会いたい。
「そういやさ、俺ちゃん、今いい感じの女の子がいるんだよねぇ~!!」
海斗がにやけながら俺に話しかける。俺はそれに反応もせず、海斗と真逆の方面を向く。
「聞けってっ!!その子ね、千夏ちゃんっていうんだけど…」
「千夏!?!?」
俺は千夏のいうワードがでて、思わず大声を出した。
「うおっ、やっぱ知り合いだったか!俺、よく相棒って紹介でお前のこと千夏ちゃんに話してるんだよねっ!」
「それで、千夏は?千夏と会う予定とかがあるのか?」
「ち、千夏ちゃんに食い込むねぇ…、次のちっちゃい夏祭りに一緒に行くよ。…でも最近、ちょっと元気ない感じなんだよね。電話とかでもわかるくらいに。」
…海斗と千夏は電話をするまでの仲なのか。
少し複雑な心境だが、「仲、いいんだな」と笑顔で返す。
「俺とお前との仲だ!進展があったら真っ先におしえてやるよっ!」
ドンと自分の胸を叩くと人懐っこい笑顔で俺に笑いかけた。
「小さい夏祭り…、稲荷神社か八天神社、少し遠いが名塚寺もかな」
暗い部屋のなか、パソコンの光に向き合って、このあたりの夏祭りを調べていた。
偶然鉢合わせたという体で会えるかもしれないと思い立ったからだ。
「どの祭りも時間差があるな…。電車で全部回れるかな…」
全部回って千夏たちがいる祭りを当てれればいいかな。今、高校生で行けそうな小さな祭りで、尚且つあえて小さな祭りにいくのなら、大きな祭りが近くにないところは、…6つか。
いつ行くのかもわからないから、3日ほどは移動が激しくなるな…。
時は案外早く進み、祭りが次々に始まってくる頃合いになった。
俺は少し鼓動がはずむ。いつ千夏に出くわしてもいいようにと、表情を変えないように気を付ける。
けれども、狭い会場内を何往復したって、千夏たちの姿は見当たらない。
___はずれか。
俺は次へ向かおうと会場を出ようとしたとき
「あれっ?すぐるくんじゃない?」
クラスメイトの女子3人ほどが俺を指さしてきた。
「奇遇だね~!!どお?一緒に回る?」
「いや、俺、もう回り切ったから出ようと思うんだよね。」
ざんねん~と声をあげる女子たちに俺は内心苛立っていた。
なるべく早くほかの会場に行きたいのに。
「…ていうか、今日は清水さんと一緒じゃないんですね。いっっつも一緒にいたから、付き合ってるんじゃないかな~って。ねぇ?」
うんうんとうなずくほかの女子たちに自信ずけられたのか、目を力いっぱいに輝かせて俺を見つめる。
「ていうか、清水さんってちょっとぶりっ子で、男にばっか色目使ってるし、正直ないですよね~」
「そーそー。なんか私たちのこと、見下してる態度で~」
調子づいてきたのか、俺に向かって千夏の悪口を散々にぶちまける。
「ほんとっ!そんなんで男子たちが振り向く~なんて思ってんですかねぇ~?」
「___付き合ってるよ。俺と」
周りの空気が一瞬にして冷めた。
この女子たちの言動にイライラしていたからか、俺はとんでもない出まかせを口走ってしまった。
まずい、弁解を__
そう思ったときには、女子たちはそそくさと移動していた。
結局、今日回った会場では、千夏たちの姿は見えなかった。
残念、と肩を落とす一方で、女子たちに言ってしまった嘘がずっと頭のなかで反芻していた。
これが千夏に伝わったら、俺はさらに嫌われてしまうんだろうな。
まあでも、陰口を言う人間は直接言えないから陰で言っているんだからな。千夏にいう度胸もなにもないだろう。
俺は自分にそう言い聞かせて、明日の着替えの準備をする。
まずいな…、もうラストだ。
二日目も経て、結局当たりの会場がないまま、最後の会場になった。
いつもよりも入念に人を探っていると……。
綿あめの屋台にならぶ、海斗を発見した!最後が当たったか!
俺は海斗に向かって走り出した。
「海斗っ」
俺が後ろに来てもなお気づかなかった海斗に俺は手を置いた。
「…お前っ!」
すると海斗は般若の形相で俺を睨んできた。
__えっ?
その場で固まった俺に「こっちにこい!」と海斗は俺の手首をつかんで綿あめの列からはけた。
「どういうつもりだよ、お前。」
人気のない河川敷に移動した後、敵意むき出しとばかりに睨んでくる海斗に、俺は困惑した。
「な、なにがだよ。」
「とぼけてさ、何かは想像つくじゃんね?この三日間で、自分がやったこと、もう一回考えてみろよ」
なにって…。俺はここ数日のことを思い出す。
あっ、あった。一つ、まずいことをしてしまっていた。
「…違うんだ。あれは出まかせで…、」
「出まかせ?お前のその出まかせのせいで、千夏ちゃんはっ…!」
「千夏に何かあったのかっ!?」
海斗から悔しそうにこぼれる千夏というワードに俺は叫ぶようにして海斗の両肩をつかむ。
「ああ、あったよ。お前の出まかせにかっとなった女子たちが、コンビニ帰りの千夏ちゃんを袋叩きにしたんだ。千夏ちゃんは顔にもあざがついてたよ。」
「そんな…」
俺がその場しのぎのようについた出まかせが、千夏を危険な目に…?
いや、俺は、あいつらが千夏に散々言ってて、ただ、ちょっと腹が立ったからで、、、
「千夏ちゃんから電話があってさ、泣きながら俺に話してくれたんだよ。前からお前関係でいじめられてたんだって。休み時間は毎回、空き教室までいびられにいって…。それなのに、お前はっ!!」
海斗が俺の胸倉を掴んだ。
「いじめられてる千夏ちゃんに気付きもせずに、最後は一方的に千夏ちゃんを責め立ててっ!千夏ちゃんはなっ、お前を大事に思ってたからこそ、ずっとずっと、いじめられたって、ずっと!お前に話しかけに行ってたんだろうがよっ!!」
揺さぶるようにして俺に訴えかける海斗の目には、少しだけ涙がうかんでる。
「自分勝手にぶちまけたくせして、最後は…なに?俺と付き合ってますって?ほんとに、自分勝手が過ぎるだろっ!」
海斗は俺を突き飛ばして立ち尽くした。俺は海斗の変貌ぶりに固まったままだ。
「……もう、いいわ。これ聞いたって、どうせお前は人のせいにして…。じゃあな、もう俺はお前と話すことないわ。」
海斗は後ろを向いて立ち去っていく。
「……根はいいやつだって、思ってたけどな。」
去り際につぶやいた海斗の言葉が、俺にはやけに大きく聞こえた。
____千夏…。
_____________________________________
夏が終わり、秋になった。
私、清水千夏はいろいろあって、学校を転校することになった。
今は引っ越しの荷造りの真っ最中だ。
私は手鏡で自分の顔をみる。頬に大きなガーゼをあてて痣を隠しているが…これはこれで痛々しいさまだ。
「千夏~、こっちの荷物運んで~!」一階からお母さんが大きな声で私を呼んだ。
「はーいっ!」私は大きな声で返事をした。
ほとんどの荷物を運び終えたあと、玄関の隅に置いてあった小さな段ボールを見つけた。
「あれっ、玄関前の荷物は全部運んだって…」
私はその段ボールを拾い上げた。…軽いな。封がしっかりされてないのか、パカパカと上が開いている。
_中、見ちゃおうっ!
段ボールを全開にして、中を見たら、二輪の彼岸花と小さな紙が入っていた。
「……彼岸花?まだ、あんまり咲いてないけど、なんで箱の中に…。」
私は小さな紙を取り出してみる。…なんか書いてあるな。
『また、会いましょう。話したいです。』
「なにっ、これ…。」
私は箱を投げ出してしまった。
「千夏っ!?どうしたの!」
お母さんが駆け寄ってくる。
『彼岸花が、咲くころに。 秋野優』
こんにちは。仁音です
恋愛系が書きたいなって思って書いていたら、ひどく歪んだ主人公が完成しました。
ちょっと胸糞悪い感じでフィニッシュしてしまいましたが、楽しく読んでいただけたら幸いです…。
最後までお付き合いありがとうございました!




