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第二話 誘惑的彼女。〔2〕




 あさひと萌さんがいとこということで、とりあえず道中沈黙が訪れることはなかった。


 楽しそうに話す二人の美少女の横に並んで、歩く僕。

 時折自転車で通り過ぎていく男子高校生が、羨望の眼差しで僕を見てくる。

 その視線たちにもう一つ根付いていた感情が、なぜこんな平凡な奴が、という当然の疑問であった。


 それはそうだろう。二人ともなかなか見ない可愛い女の子。

 そして特別に格好いいというわけではない、普通すぎる僕。

 けれども通り過ぎていく男子生徒たちは皆、知らないのだ。

 この二人のキャラの濃さを。一緒にいるには結構な精神力が必要だ。


 萌さんは僕とあさひの高校の近くの、女子高に通っているらしい。

 ずいぶんと僕たちの学校に近い道の分岐点で、萌さんと別れることになった。


 立ち止まった萌さんが腕組みし、僕を見据える。

 あさひの前でははっとするほどきれいな顔で笑っているくせに、男の僕の前ではがらりと表情を変える。不機嫌にも見えるその瞳で彼女が僕を見るのは、最早お決まりになりつつあった。


「いい? 学校が終わったらすぐに迎えに来るのよ。今度遅くなったら――」

「わ、わかった」


 彼女に皆まで言わせず、僕は急いでうなづいた。

 パフェをおごるという約束は、どうやら実行するしかなさそうだ。

 やはり逆らえないのは、彼女がきれいすぎる故の迫力からに違いない。

 断じて僕が弱いからではない。――そうだと信じたい。


 僕と萌さんのそんなやり取りを黙って見つめていたあさひであったが、何を思ったのか、ふと萌さんの顔をのぞき込んで口を開いた。


「萌ちゃんってば、変なの! いつも男の人には絶対に近寄らないのに。どうして会ったばっかりの修ちゃんには違うの?」


 様子をうかがうような、ゆっくりとした問いかけであった。

 萌さんは衝撃を受けたように切れ長のきれいな目を丸くする。

 そのまましばし黙って、けれども次の瞬間には慌てふためいたように表情を崩した。


 どうやら男嫌いということでこの手の話に免疫がないらしい。

 萌さんの頬はみるみるうちに赤く染まっていった。


「なっ……、なに言い出すのよ。別に意味なんてないから! 修二郎って扱いやすいし。へなへなしてて男らしくないし。寧ろ男じゃないし。だから――」


 僕の心をずたずたにする残酷な言葉を次々と並べてから、萌さんは言葉に詰まった。


 昨日出会ってからというもの、萌さんは例外なく僕を睨みつけている。

 確かにあさひの言うことは的外れだと、僕も思った。

 萌さんが否定したくなるのも当然だ。だが、何もそこまで言わなくても……。


 打ちひしがれた僕になんか構ってもいないあさひは、尚も必死な様子の萌さんに詰め寄りたい様子だった。


「だから? ……だから、好きになりそう?」


 さすがの僕も、あさひのその台詞は見過ごせなかった。

 一応元彼ということで、あさひは僕を取られるような気持ちになっているのかもしれない。


 別れたばかりで過敏になっているのだろう。

 けれどもそんな言いがかりをつけられた萌さんが気の毒だった。

 あさひは僕を好きになったが、それは例外だ。

 美少女で男嫌いな萌さんまでが、僕なんかを好きになるわけがないのだ。


「あさひ。何言ってるの。そんなはずないよ。ねぇ、萌さん」


 あさひにたしなめるように言ってから、僕は萌さんに同意を求めた。

 彼女の切れ長のきれいな瞳と目が合う。すると、もともと大きな目をもっと大きくした萌さんが、また慌てふためいたようにぷいと目を逸らした。


 登校途中の道端に三人、突っ立ったままで。朝なのに、不穏な空気が流れていた。





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