5
それからわずか十数分後、ノルン大公は西方火山帯に来ていた。
転送魔法を得意とする北の大公にとって、自身のみの移送などはたやすい事であった。
ギリウスに釘を刺された事が気にならないでもなかったが、面倒事よりも久々の外界への好奇心が勝ってしまったのだから仕方ない。
彼は大胆にも、姿と魔力を隠す穏形結界を張り、問題の集落が見渡せる位置に浮かんでいた。
「十三か……」
五軒ほどの石造りの家が身を寄せ合うようにして建っているその村落の外側の円周上に、十三の黒い姿が等間隔に並んでいた。
さすがに魔道大公の穏形結界の効果は絶大で、闇魔術師達は、明らかに視界内に浮かんでいるノルンに誰一人気づいていない様子だった。
「さて」
ノルンはさらに高度を下げた。
「……………」
それまで、興味深げだった若き大公の眉間にシワが寄る。
魔術師達の中央、すなわち村の中心となる小さな広場には、おそらくは闇の魔道によって殺められたであろう住人たちが、無造作に積み重なって置かれていたのだ。
そして、闇魔術師達がつくる魔法陣の内側には、住人達の血で描かれた呪句や文様が、ところ狭しとひしめいていた。
「………『はずれ』か」
魔法陣を眺め、必死に呪句を唱えている様子の闇魔術師一人一人の杖や身につけた呪具を確認したノルンは、残念そうにつぶやいた。
「呪具も呪文もすべて我流でバラバラ……まさに徒党だな」
どうやら彼らは、ノルンが遭遇したいと望んだ者たちではなかったようだ。
ノルンは、ため息をひとつつくと、指先で額のサークレットをなで、自らを隠す結界を解除した!!




