1
「…………これにより、ヴィシュメイガ、ロジ・マジは相討ちとなり、双方ともに滅せられる形となりました」
空中に浮かぶ映像にうつる魔道士が、ぼそぼそと報告の言葉を結ぶ。
「なるほど、ご苦労だったね」
部屋の高い位置に座した、黒い髪の美しい青年から涼やかな声が発せられる。
いわずと知れた、北の魔道大公、ノルン・セタ・フォビュアである。
「ゾーンの塔」の大公の間は、限りなくうす暗い。
一般の王侯貴族が使う謁見の間や執務室のような豪華さはなく、ただただ闇が広がる中に、魔道灯に照らされた大公の座所と、映像の放つ青白い光が浮かぶだけである。
「ヒース達は、とんぼ返りになってしまったね」
「はっ」
「君は引き続き、ロクス周辺で異変が起きないか監視を続けてくれ」
「はっ………あの、ノルン様」
「何だい??」
「先ほど報告した、ロジ・マジと接触のあった魔術師の老女はいかがいたしますか??こちらで監視をつけることもできー」
「必要ない。余計な事をするな」
「はっ。申し訳ありません」
ノルンの冷たい一瞥を浴びて、映像の魔道士はあわててひれ伏す。
「もう下がっていいよ」
「では、これにて…」
魔道士の映像は一瞬にして消失し、あたりの暗さは、いっそう深くなった。
怜悧な表情を浮かべていた大公は、部屋から誰もいなくなると、突然クスクスと苦笑をもらした。
「まさか、またアリッサがからんでいたとはね」
ノルンが指を軽く動かすと、空中に映像が浮かび上がる。
そこには、雪妖の爪痕残るニーゲルンの街を歩く、ふてぶてしい表情の老魔法使いと眼鏡の介護士が映しだされていた。




