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「昨日はお疲れ様でした」
翌朝、大公の間に現れたノルンの前に、早速浮かび上がったのは、筆頭魔道士のギリウスであった。
「ああ、たいした事ないよ。例の闇魔術師はどうなってる??」
「はっ、禁忌の塔にて厳しい尋問を受けております」
「それはお気の毒に」
ノルンはまるで他人事のように話すと、大公の椅子に腰かけた。
「ノルン様」
「何だい??」
「何やら晴れ晴れとしたお顔ですな」
「ああそう??まあ、確かに今なら、面倒な政務でも楽にこなせそうな気がするよ」
「それはようございました」
そう言うと、老魔道士は手を横に振った。
ブブブブブブブブブブ……
すると、大公の間のあらゆる場所に、紐で巻かれた羊皮紙や蝋で止めたれた封書が、映像ではなく実際に浮かび現れた。
「ギリウス、これは…」
「二十四通、全て昨日のあなたの行動について送られてきた書状です。上段右より、スヴェン大公筆頭魔道士・アルミウス殿からの抗議状、同じくスヴェン大公配下の辺境監視魔道団よりの公開質問状、外務卿ホッサム殿よりの質問状、それと、ええー」
「わかったわかった」
ノルンの眉間に深いしわが刻まれる。
「わかっていただけましたか。では、これらへの返信を今日中にお願いいたしますぞ」
「おい、ギリウスー」
「失礼いたします」
大公に有無を言わせぬまま、老魔道士の映像は消え去った。
「はぁ……」
ノルンは大きくため息をつくと、ひとつめの書状を手元に引き寄せた。
大公の憂鬱な一日が始まったのである。