ロクス大学所属・魔道士キャトの卒業論文
《第1章「魔道王国の概要」、第1項より抜粋》
魔道王国ドルクロス。
北方のロクス王国よりはるか南、大陸中央に位置するこの国家は、文字通りその住民の半数以上が、魔法・魔術に長けた者たちで構成される特殊な地域である。
北側は「ヤデリア王国」「神聖ローネリア帝国」という古くから続く二国に面し、南西に面する「大密林地帯」は、どこの国の領土となることもなく南方まで続いている。
また、南東に面した位置にある「太古の結界」は、神聖ローネリア帝国の広大な領土に匹敵する程の巨大な結界であり、その内部は謎に包まれている。
結界の周辺部には常に濃い霧が漂っており、市井の人々はもとより、どのような大魔導師や大神官であれ、そこを抜けることは不可能だとされている。
国内に目を向ければ、「王国」というだけあって、魔道王グリムスが最高権力者として君臨し、神族に匹敵するという魔力を持つかの王は、天空に浮かぶといわれる居城「ウルゴス魔殿」からめったに出ることはなく、実際に執政を行うのは、首都ドルクーラにいる老摂政のデマクである。
他国との建前上の均衡を保つため、この国の摂政には魔力を「持たない」者がつくことが慣例となっている。
また、この国を語る上で外せないのが、三人の魔道大公である。
魔道士達の元締めとして魔道社会の秩序を保つ役割を持つ彼らは、魔道王に次ぐ魔力を持ち、魔法・魔術に携わる者たちを実質的に統括している。
ノルン大公が「ゾーンの塔」より北方を、スヴェン大公が「ヤオダ宮」より西方を、フィングル大公が「霊樹アルキン」より東方を監視しているのは、周知の事実である。
魔道王・魔道大公達は、その強力すぎる魔力ゆえに、国法により「現世不介入」の原則が厳しく定められており、特に国家間の問題などに対し、「本人が直接」手を下す事を固く禁じられている。
この原則の例外とされるのが、闇魔術師による一定規模以上の現世への干渉である。