スパイダー・サンタクロース
『スパイダー・サンタクロース』
クリスマス・イヴ。町はイルミネーションの光に照らされて賑やかだ。空には一台のそり。
そり。何故、そりが空を飛んでいるのかというと。遡る事三時間前。北の地の最果て、木で出来た小屋が一軒建っていた。周りには雪原が広がり、森の方ではオオカミの遠吠えが聞こえる。
白い髭に赤と白の服を着た老人が小屋の中に入ったり、出たりしている。白い袋を担ぎ、トナカイが八頭繋がれたそりに運んでいる。
「よいしょ。うんとこしょ。どっこいしょ」
老人こと、サンタクロースは腰を伸ばし、小屋の中に声をかける。
「おい、お前。わしの眼鏡はどこにあるかね?」
品の良いおばあさんが出てくる。
「頭の上に乗ってるわよ。はい、マフラー。今日は冷えるから」
頭の上の眼鏡を鼻の位置に戻し、マフラーを受け取る。奥さんの手作りだ。サンタクロースの⒮の字が編まれている。マフラーを首に巻き、そりに乗る。
「いってくるよ」
「いってらっしゃい」
そりに鞭を入れて空を駆けていく。トナカイがスピードを出したせいで、プレゼントが落ちそうになる。
「おっと」
サンタクロースは手を伸ばしてプレゼントを支える。そして、前に向き直り、トナカイに怒鳴りつける。
「こら。トナカイ達。もっと慎重に運ばないか。プレゼントが落ちる」
横目でサンタクロースを見て、チィッと舌打ちをしたトナカイ。そのまま、スピードを上げる。
「こら」
抗議でもするようにスピードを上げて、サンタクロースはそりの背に背中を打ち付ける。そして、町外れの一軒の家の上空でそりを止める。
「ここだ。ここ」
袋を持ち、関節を曲げて、蜘蛛のように子供部屋の窓まで這って行く。窓を開けて中に入る。その時も天井を這っていく。子供が眠っているベッドの真上に這いつくばってそこで袋からプレゼントを取り出して、一本の糸で垂らしながら男の子の枕元に置く。
「よし」
するぅと糸を回収して、窓まで這って行く。その時。
「はっ、はくしょん!」
大きくくしゃみをしてしまう。
「う、ん。誰?」
男の子が目を擦りながらベッドから起き上がる。しまった!どうしよう!サンタクロースは焦ってしまった。目と目が合う。
「泥棒だ」
大声で叫ぶ男の子。
「泥棒がいる!」
一回から、ドタドタと階段を登って来る足音。男の子がベッドから降りて、両親の背後に隠れる。父親が口を開く。
「お前は誰だ?」
サンタクロースは天井から降りて、皺が寄った服を伸ばし、髭を整えて頭を下げる。
「わしはサンタクロース。静かな聖夜を乱して申し訳ない」
男の子がおずおずと出て来て。
「本当の、本当の、本物のサンタクロース?」
サンタクロースはにっこり笑う。
「そうだよ。わしはサンタクローじゃ」
上目づかいでサンタクロースを見つめてくる男の子。その時、枕元に置かれた包みを見つけて、ぱぁぁっと顔中に笑みを浮かべる。男の子はベットに登り、プレゼントの包みを開く。中から、仮面ライダーの変身ベルトが出てきた。
「わぁ。変身ベルトだ」
早速、男の子は腰に付けて両手を上げて、変身ポーズをとる。
「さぁ、変身だ!」
男の子はベッドから飛び降りる。サンタクロースは男の子の無邪気な感じに満足げに微笑む。その様子をみても父親の疑いは晴れていない。
「一応、警察に電話しよう」
「ええ。そうね」
サンタクロースは慌てて言う。
「警察だけは勘弁してくれ。今夜中に良い子にプレゼントを配らなければいけないんだ」
「怪しいな。後ろめたい事でもあるのか?」
「本物である証拠を見せてみろ」
サンタクロースは指をくわえて、音を鳴らす。
ピィィ。高い音がして、トナカイが屋根から降りてくる。父親は腰を抜かして絨毯の上に座る。
「あなた、こんな事って…」
「ああ。本物のトナカイだ」
「サンタのおじいさん、トナカイさん、触っていい?」
サンタクロースはほっこりとした笑みを浮かべて頷く。
「ルドルフ」
「はい、はい」
トナカイが人語を話した事に驚き、男の子は父親の後ろに隠れてしまう。
「ほっほ。驚いたかね?申し訳ないが、時間がないのでね。これで失礼するよ」
サンタクロースはそりに乗り、トナカイに鞭うつ。
「行くぞ。皆」
先頭のルドルフが号令をかけて走り出す。
「メリー・クリスマス」
サンタクロースは白いポンポンが付いた帽子を持ち上げる。空からは白い雪が降ってくる。今日はホワイトクリスマスだ。